第2話 終わりへの始まり





20XX年03月28日 06時23分 神奈川県某所。




淡く色づいた桜の花弁が風と踊るように舞う。普段なら満開の桜並木も学生たちで賑わっているも、春休みに入った今では散歩に来た人か桜狩りに来た人たちが殆どで穏やかな時間が流れている。



時折耳に入る挨拶の言葉や、桜を愛でている人たちの声をBGMに歩くのは四月から鯨高等学校の二年生になる春風薫だ。



艶やかな黒髪を靡かせ桜並木を歩いていくと大きな公園が見えてくる。

ここは薫のお気に入りの場所だ。

幼少期は他の公園より遊具が沢山あることからこの公園を訪れていたが、成長した今では桜並木を眺めることができるベンチがお気に入りである。

いつものベンチに先客が居ない事を確認すれば口元を微かに緩ませベンチに腰を落ち着かせた。




この時間帯に、桜並木を眺めながら読書をするのが日課である。

流行に敏感なJKにしては珍しい日課であるが気にしたりはしない。



カバンから本を一冊取り出し、栞を挟んでいたページを開き続きを読む。

日常では体験できないことを、自分が主人公になり体験できるような感覚になれる読書が薫は大好きだった。

故にジャンルはファンタジー系が多く、現在読んでいる本も勿論ファンタジーである。










「 …………て、………い、… つ…て、……」



一頁、また一頁めくっていると不意に途切れ途切れではあるが女性の声が耳に入った。

何だろうか、本を閉じ顔を上げてみるも周囲には薫以外には誰もいない。

本に集中しすぎたか、それともただの気のせいか。ああ、昨夜は春休みの宿題を片付ける為に深夜まで起きていたからきっと寝不足で疲れているんだ。

そう結論付けては再び本を開き物語の世界へと戻っていく。














「 おねが………み………て、」






半分ほど読み終えたところで集中力が途絶え深く深呼吸をすると、また声が耳に入る。そう、先程と同じ声。

一体何なんなのだろうか。本を閉じ、今度は聴く事に専念する為双眸を閉じた。





「おねがい、……みつけて、」

「聞こえた!!………あ、すみません。」

風の音と一緒に漸くハッキリと聞き取れた言葉に薫は思わず声を上げた。

偶々公園を通りがかった老夫婦が突然声をあげた薫を怪訝そうに見ている。



慌てて頭を下げ謝罪をすると老夫婦は大丈夫だとばかりに手を軽く掲げその場を立ち去った。



「ねぇ、何をみつければいいの?あなたは誰?どこにいるの?」



この声が己にしか聞こえていないのは老夫婦の反応からして確かなのだろう。そう思うとこの非日常的な出来事に興奮し矢継ぎ早に質問をしてしまった。

喋りすぎただろうか、罪悪感が芽生え大人しく返答を待っているも、十分経っても声が聞こえる事は無かった。











声の主は消えてしまったのだろうか。

はぁ、と一つ残念そうに溜息を零せば本をカバンの中にしまいやってきた道を戻り自宅へと戻った。




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