17 罪な愛

 久しぶりにM子から電話があった。

「パパ、元気 ?」と聞くと「うん…元気」と屈託なく答えた。


 会社で上司だったのが、今のM子のご主人。

 ずっと以前、久しぶりにみんなで会った時、その時M子だけがまだ独身で、彼女の話っぷりから彼に恋しているのは見え見えだった。

「奥さんも、子供さんもいるんでしょ、止めなさいよ…」

みんなからかい半分に、M子の走り出したら止まらない性格を心配した。

「ナイ、ナイ…素敵な奥様と可愛いお嬢さんが居るの…素敵な家族よ…」

「家まで行ったの!?」みんな顔を見合わせた。

 M子はこれがいつもの手段の始まりだった…。

 学生時代、ゼミのエジプト史の教授に恋をして恋愛沙汰の騒動を起こしてる。早くに父親を亡くしてるM子は父親の面影を追ってたいそう歳の離れた権力のある男性が好きだった。

 容姿は全然関係なく、兎に角いろんな意味で力のある才能がある年のいった男性が好きだった。

 好きになると手段を選ばない危険な所があって、教授の家族と懇意になって近づいていき奥さんをママ、ママと呼んで親しくしながら教授と道ならぬ関係になっていった。

 家族を巻き込んで奥さんを追い込んでドロドロになり、奥さんは事故か、故意か…睡眠薬を多量に服用して救急車で運ばれる騒ぎになり、

学内でもみんなの知る事ところとなった。みんなが傷だらけになってその恋は終わった。


 その後の恋愛事情はあまり口にしなかったが、A氏の事は学生時代の教授との恋愛を髣髴とさせるような熱情を感じさせた。

「家庭を巻き込むのは悪い癖よ…過去に学びなさいよ」友人のN子が忠告すると、無い、無いと手を振り「男はもういい、仕事が面白い…」と言ってたが、結局は付き合ってる事を白状し、「でも結婚はするつもりは無い、家庭は壊さない、返って大事にしてほしいと思ってるわ、もう騒動はまっぴらだわ、彼も私も今の関係がベストなの…若い頃とは違うわよ…」と言った。

 でも実際は彼を奥さんの元へは絶対帰さず、奥さんへ圧力をかけ続け、追い詰めて、結局は略奪をし恋を成就させた…。

 彼女は「彼と奥さんが上手く行かなくて、ちゃんと話し合ったらって言ってたんだけど…二人とも冷えきってたから…結局私が引き受け手になった感じよ…損な役回りよ」と自分は第三者のように私たちには言っていたが、彼女の性格を知れば、掻き回したのは彼女である事は歴然としていて、彼女の恋が成就すると言う事は一つの家庭が壊れたと言う事で…。

 彼は老いた妻と別れる事は本意ではなかったのかも知れない。

 彼はより無口になり何かを背負ってるような孤独な翳りが感じられた。

 

 平和な夫婦に見えるけど…誰も何かしら背負ってる。

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