【第一章】ボーイズ・アンド・ガール・ミート・ア・ガール
第1話 誕生日
「誕生日おめでとう。大人の仲間入りをした気分はどう?」
ベンチにいた俺、
彼女は三年生の
「琴さん、お疲れ様っす。俺の誕生日なんて、よく覚えてましたね」
「そう? めっちゃ覚えやすい思うけど」
俺はこの日、
「ほな、今夜さっそく飲み行こか。どうせ予定無いんやろ?」
「いやいや、自分にはまだ琴さんの相手はつとまらないっすよ……って言うか、何気に酷いこと言ってますけど」
「あれ、彼女出来たん? そういうことは先に言うてよ」
「ホント酷いこと言いますね」
琴さんはハハハっと軽く笑う。俺は、彼女以上に見た目と中身のギャップのある女性を知らない。性格は一言でいうなら「豪快」だ。京都人は腹黒、なんて話はよく聞くが、そういうねちっこさは感じない。歯に衣着せずに物を言い、(主に男達の)つまらないプライドをへし折っていく。ぶぶ漬け? 何それ。
「この前のライブ、どうやったん?」
「いや、どうやったん? じゃなくて、琴さんもたまには見に来て下さいよ」
「うちが見に行きたくなる曲を作ってくれたらなぁ」
「辛辣だなぁ……」
「で、どうやったん」
「んまぁ、ぼちぼちです。いつも通りって言うか」
「何や、しょうもないねぇ」
この会話の流れなら、怒り出す人もいるだろう。きっとプライドを持ってバンドに取り組んでいるなら、しょうもないなどと言われて黙ってはいられないはずだ。バンドを組んだばかりの頃なら、俺も怒りを感じただろう。だが、
「そっすね」
口から出た言葉はこんなものだった。俺自身も拍子抜けした。でも仕方のないことだ。だって、実際つまらなかったのだ。変わり映えの無い曲を演奏し、身内の客から少しの賛辞をもらい、対バン相手とデモCDの交換をする。ライブハウスに金を払って、ライブを
「何かこう、あれっす。何か……あーもう! って感じです」
「あはは! 何なんそれ? 全然わからんけど、何かわかる気するわぁ」
大学二年生になった初日、酒も煙草も合法になった日、俺は言葉にできない胸のモヤモヤを、一つ年上の女性に笑い飛ばしてもらおうとしていた。
「ま、そのうち良いことあるやろ。知らんけど」
「だと良いんすけどね」
二人は笑った。その二週間後、運命を変えてしまうような
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