第8
「はい、そんじゃちゅーもーく。えー、出動があるのは、昼夜問わずです。よって、夜間演習を行います」
「ミスター、声しか聞こえないっす」
「これが夜陰に紛れるってやつさ! 生徒A!」
「Aじゃなくて、アンガスです」
「あのー、先生と戦うんですかぁ?」
「何ソレ、生徒Bはやる気まんまんだね! それでもいいけど、ボコられたいのかな、みんな?」
「あたし、Bじゃないしー。むしろFだし」
「ボコるのはーんたーい。絶対はーんたーい」
「見えないからって、言いたい放題だな、生徒C。発言するなら挙手したまえ」
「C呼ばわりしてるくせに、見えるのかいっ」
「たしかに、これじゃ全員そろってるか、よくわからないな。助手、出席者を確認したまい」
「暗闇しか見えません」
「使えないなバンシー、目視で確認できないなら、点呼だよ」
「あ、はい……じゃあ、私から1、」
「あのローラ? オレら互いが見えてないのに、その点呼は無理だよ?」
「いい指摘だね生徒D、あと助手を入れたら、一人多くなっちまうね?」
「Dじゃなくて、オレさっきのCです。ていうか、トーマス・クレイです」
「じゃあ……て、点呼0、」
「そうじゃないだろー、ボロ雑巾ー」
「名前でいいじゃん」
「いい加減にして、授業が進まない」
「なんか臭い」
「…………な、名前を言われても、暗くて名簿が確認できない、から」
「ローラ、そもそも僕が出席状況を気にすることを予想しろ。今考えて実行しようとするから、できないんだ。予想は事前の準備のうちに含む」
「う……はい……」
「出欠は僕の方でとるとしよう。ところで、今、臭いと言った人がいたようだが、それは君たちの中にゾンビがまぎれているからです」
「!!!?」
「君たちにはこれから、それを打ち倒してもらいたい。それぞれ事前に選ばせた銃火器は持っているな? もちろん能力で対処してもいい。これは普段の機動演習では得られない、極限状況の学習だよ」
「その前にみんなが吐きそうです、先生」
「本当に? わかるのかい、ローラ?」
「……人が嫌悪する感情だけ読み取れる、ようです。それに、私も吐いていいですか」
「鼻に栓でも突っ込んでおきなさい」
「先生、アンデッドは普通の銃じゃ死なんでしょうが!」
「発言する時は名乗りたまえ、出席が取れないから」
「アンガスですって!」
「エミリオ・アンガス出席。それは僕の感知するところじゃないのだよ。何度も言わせるな、君たちの敵は僕だ。わかったかい、わからなければ、他の人にきいてごらん」
「何言ってんだ、あん…」
「トーマス・クレイでっす。少なくともそのゾンビは先生に操作されてるってことだろ。なあ、ミスター・ノスフェラトゥ? 」
「吸血鬼の能力にも様々あるがね、僕のように手から精気を吸い取るタイプは、
「ゾンビならじっとしてるのがまずおかしいし、あんたのことだ、ニセの状況は作らない、これが授業だってこともヒントになった」
「トーマス・クレイ出席」
「ネルよ。じゃあ、あたしたちはノーライフキングが操るアンデッドに、狙われてるって考えた方がいいのかしら」
「それは君たち次第だな、生徒をフルボッコしたいわけじゃない。でも、僕の能力から逃がす気もないよ」
「暗闇のなかで下手をすれば、同士討ちになってもいいってことよね?」
「不用意な発言をすると、敵意を持たれるよ? ネルネリッサくん」
「バートレットだ!、こんなの夜目が利くやつが圧倒的に有利ですよっ! っらぁああッ ――っなにィイ、跳んだっ!?」
「先走ったスタンドプレイでみんなを危険にさらしたね、バートレット」
「いや、これでいい」
響く銃声。
「ふいをつかれたか、空中の対象を正確に射抜く腕は大したものだ、オリス・ベイカー。腱を断たれると身体の構造上動けないからね。さらに遠くへ、みんなの上に落とさないようにしたのも、計算のうちかな」
「バートレットの上に落としてもよかったんですけど」
「おいっ、オレが作ってやった隙だろ!」
「考えなしだったくせに」
「やめろ、オリス。バートレットは拳で向かってったんだぞ、お前ら二人とも被害を最小限にしようとしたんだろ」
「トムの言う通りよぉ、済んだことでケンカしないで。おかげであたしたち楽…」
「違う、ネルネリッサ、まだ終わってないから、ケンカすんなっつってんの!」
「!?うわっ」
「足つかまれたっ!」
「こっちにもいるっ」
「下に埋まってる!」
「あのど変態吸血鬼は、一体だけなんて言ってないんだ!!」
「ゾンビ操ったくらいで、変態呼ばわりされたくないなぁ」
「使い方がえげつないからじゃないでしょうか」
「言うじゃないか、君は助手の特権であれに巻き込まれなくて済んでるんだよ?」
「私があそこにいたら……
「そうだね。でも、君じゃなくても誰だって足でまといになるはずさ、自分を見失うような混乱ってそういうものだ」
「言うのがおっせーよ、トム!」
「どうすんだよ!」
「オレに八つ当たりするのやめて!?」
「噛まれたっ、か、か、ああくそっ、死になさいよっ、死んで詫びなさいよっ」
「落ち着けっ、……っネルネリッサ!」
「るさいっ、あたしはビールカよっ」
銃声。
「おい、ビールカ! 撃つなっ、誰かに当たったらどうするっ」
「宿主殺したって、感染は……」
「アンデッドなんかになりたくナイっっ」
「考えろっオレ! こんな時、八神ちゃんなら、八神ちゃんならー」
「トム!なんで、今、八神だよ!?」
「あいつなら、オレらごと粉砕するに決まってんだろ!」
「お前ら、八神ちゃんをなんだと思ってんの!?」
「とりあえず、首はねてみた」
「あぁもう、誰が何しゃべってんだ!」
「フンサイ…――それだ! 力づくで投げるんだっ!! オレたちが分散するより、ここからゾンビだけ間引くんだ!!」
「野菜かよっ、しゃーねー」
「だめだ。首落としても動くわこれ」
「さっきのゾンビは跳んだぞ!? 投げたって、戻って来るだろ!……」
「なら、夜目の利くやつが動きを見張れ!」
「脅威から距離を置くことは防犯の第一歩ォオオッ!!」
「土に埋まってるうちが、チャンスだ!」
「ビールカ、ビールカ、しっかりしろっ、こいつら勝手に動いてない、操られてるだけなら感染型とは違う、君は
「……かくして、ゾンビと生徒の取っ組み合いは始まった」
「先生、何が起きてるんですか?」
「見えないなりに、陣形を整えようとしてるんだよ。夜目が利かなくても、つかめば身体構造はわかるから、わりと平等に力が出せる作戦かな。相手を排除するほど、自分たちに有利になるしね、士気も上がりそうだ」
「泥仕合ですね。なぜあのゾンビたちは動きがのろまなんですか?」
「暗闇に目が慣れてきたかい? 数が多いと全部を一度に動かすのは、大変だからね。それにこの場合、術者を叩くのがセオリーだから、」
「――先生、狙ってますから、操作を解いて下さい」
「オリス・ベイカーくんは夜目が利くから、急襲には適任だね」
「自己判断です。スタンドプレイはこうするもんだ」
「近くで怒りにプルプルしてるのは、バートレットだね。意外に仲がいいんだね」
「バレてるじゃねーか!」
「気配を消せないのか、バカ」
「なんっ、」
「でも残念」
「っここにも、いるのかっ、ベイカーっ!」
「援護する」
「オレは先生を沈めるっ」
「いいコンビネーションだ。少し力を見せようか。僕は能力を限定して、体術だけで迎え討つ」
「って、ゾンビを盾にしてんじゃねーかっ」
「術者に近いと操作性が上がることを思い知るといい。そのゾンビーは一体だけど、僕と同じ動きをするよ」
「声の方角は北だ!」
「先生に向かって投げろー!!」
「どぅおおりゃぁああああああ」
「あ――こりゃイカン。ローラ、いるか? いたら返事をして、僕の背中に回りたまえ」
「はい、います」
「遠っ! いつの間にか逃げてるなー。僕が動いてないってのに」
「ローラ!! 逃げろ!! 早くっ」
「トムの声が……」
「先生から遠ざかれー!!」
「どうするね?」
「……こ、このまま、逃げたいです。でも、残りたいです、ここに……」
「僕を見失うな――ローラ、君が守るのはそれだけだ、考えるのもそれだけだ、逃げることは問わないよ」
「……すう、はあ、……私は、先生について行きます。……ここ、ではなく、あなたのそばへ……見限られるまで」
「どう?、ローラは逃げたかなっ」
「だめだ、先生の後ろに隠れた」
「だめかー、なんか腹立つけど、グラ公を信じるしかないか」
「あとオリスとバートレットがいる」
「あいつら、いつの間に?」
「苦戦してる」
「こっちはこれで最後の一体よー!! どっせぇええええい!!」
「おいベイカー! ゾンビのせいで近づくどころか、遠のいてるぞオレたちっ」
「なんで、当たらないっ!? 一瞬でいい、動きを止めてくれ、バートレットっっ」
「ちっ、できてりゃ、そうしてるっ――ぐあッ――う…………」
「ここだッ――!?……なんで避けれるんだよっ、 当たれ、当たれ、当たれ当たれ当たれ当たれ来るなァァアアアアア」
「目標北! 多数のゾンビ足す先生! 斉射用意!!」
「ッ
「目標、完全に沈黙。動きはなし」
「ゲェホッ、ゲホッゲホッ、ゴホッ」
「けっむーい」
「完全に沈黙? ……先生が能力を解いただけなんじゃ……」
「授業だから許してくれたんじゃね? 結果よりアレだろ、内容が大切?」
「ゾンビはもうイヤっ、爪に肉がっ髪にも肉がああっ」
「待て、熱源反応が、ある……」
「ごーくろーさーん、諸君! 本日の演習はこれまでだ。名前を呼ばれなかった人は各自、僕に告げてから帰ること」
「「だはぁああ――――――――」」
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