最終章 魔王の戦い
第90話 魔王誕生 Ⅰ
「……ズヤ!」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「お願……正気……戻って!」
俺を呼ぶのはどうやら一人ではないようだ。
一体誰が俺を呼んでいるんだ?
「お兄ちゃん!」
これは鈴音だな。
「和哉!」
こっちはあかりか。
だんだんと意識がハッキリしてきた。
確か俺は魔法のショーを見に行こうとして……。
「おい、いたぞ! こっちだ!」
「もう来たのね。アカリ、またカズヤをお願いしてもいいかしら?」
「大丈夫だよ。任せて!」
一体何がどうなっているのだろうか……。
まだ瞼は重いが状況を確認するため俺は無理やり目を開ける。
「……」
「みんな! 和哉が目を覚ましたよ!」
「本当なのね? そうね一先ずあの路地裏に隠れましょうか」
ソフィーの言葉で俺を背中に背負ったあかりと他の仲間三人が路地裏へと入っていく。
そして路地裏に着くとあかりは俺を背中から降ろした。
「ここならしばらくは大丈夫そうね」
ソフィーは何かを警戒しているようで辺りを見渡している。
その行動を疑問に思った俺はソフィーに声をかけた。
「……これはどういう状況なんだ?」
「まさか覚えてないっていうの?」
「覚えてないって何がだ?」
「そう、あれは無意識の行動だったのね」
「だからなんなんだよ」
「そんなに知りたいなら少し表を見てくるといいわ。くれぐれも周りにバレないようにね」
「表か?」
俺はソフィーに言われた通り路地裏から表をこっそりと覗き見る。
「これは!? 一体誰が!?」
俺の目に映るもの、それは爆弾でも落とされたのかと思わせるほど半壊したカタストロの町だった。
ところどころにはまだ火が上がっており、夜の町を明るく照らしている。
その明るさがよりいっそう町の惨状を物語っていた。
「今誰がって言ったわね。これをやったのはあなたよ」
ソフィーの口から発せられる事実に俺は混乱する。
それもそうだ、さきほど魔法のショーを見に行こうとして、気づいたらいきなり町が半壊していたのだから。
混乱しない方がおかしい。
「でもどうやって俺にはそんな記憶……」
「あなたは知らないかもしれないけど確かに町を破壊してたわ。この目で見ているもの」
「一体俺に何が起こったんだ……」
俺の最後の記憶はそう、どこかから飛んできた火の玉を対処したところで止まっている。
そこで力が抜けて、気を失い、気づいたら今の状況だったのだ。
気を失ってから気がついたさっきまでの間俺がどんなことをしたのか思い出そうとしてもさっぱり思い出せない。
「どう? 何か思い出せそう?」
「まったくダメだ」
俺とソフィーがこの状況について話をしていたそんなときだった。
俺達が隠れている路地裏全体が急に明るく光る。
それと同時に何か魔法の詠唱のようなものが聞こえてきた。
「我、光を求む者もし汝が見ているのならば我に力を貸したまえ……ライトニングホーリィ!」
詠唱の直後、電気を纏った光の線が俺目掛けて向かってくる。
「うわ!? いきなりなんだ!」
咄嗟に俺はソフィーを横に突き飛ばし、自分も横へと跳ぶ。
幸いにもそれで俺とソフィーは光の線を避けることに成功した。
「どうやらもう見つかったみたいね」
ソフィーはやれやれという感じでため息を吐く。
「俺達ってもしかして追われてたり……」
「まぁ町をこんなにしたんだから追われるでしょうね」
「なるほどな、そうと分かれば取るべき手段は一つだな」
「そうね」
「分かってる……」
「こっちも準備OKだよ」
「いつでもどうぞ」
他の四人も俺の言いたいことが分かっているようで各自返事を返してくれる。
「逃げるが勝ちだ!」
俺達は一斉に敵に背を向けて走り出す。
「おい待て!! 他の者に伝えろ! 魔王が逃げたぞ! 早急に探し出せ!」
俺達は後ろから聞こえる声を気にすることなく走り続ける。
瓦礫の山を越え、火の中をくぐり抜け、そしてようやく町の門の前までたどり着いた。
「後はここから出るだけだな」
しかしそれが叶うことはない。
何故なら門の前に一人の男が立っていたからだ。
「どうやらこっちに来たみたいだね。初めまして僕はシエン。名前より四強と呼ばれているうちの一人と言った方が分かりやすいかな? 魔王一行さん」
四強……初めて見たがこれが四強か。
体に直接バシバシと伝わってくるほどの強いオーラが四強と名乗る男、シエンから溢れだしている。
そんなガンゼフと相手をしたときでさえ感じることはなかった強いオーラに俺は一歩後退りしてしまっていた。
しかし、彼を越えて行かなければ町を出ることが出来ない。
どうにか穏便にことを済ませたいところだがその前に一つ先ほどの彼の魔王という発言について問いたださなければいけない。
「魔王って誰のことだ。俺達はただの冒険者だぞ?」
「そうか惚ける気なのか。君、面白いね。でも僕に勝てそうにないからって騙そうとするのは良くないな」
それからシエンは俺を指差しとこう言った。
「君が魔王だよ。この町を破壊したのも僕がしっかり見ている」
「確かに町を破壊したのは俺らしいがそれは……」
「言い訳無用。さっさと僕の剣の錆びになるといいよ」
シエンは俺の話を聞く気などないようだ。
出来れば穏便に済ませたかったのだが彼は既に戦闘準備を済ませている。
「こうなったらやるしかないのか……みんなは後ろに下がっててくれ!」
「そうそう、それだよ。僕が求めていたのはその戦いの目だ!」
シエンは笑みを浮かべながら俺へと斬り込み、俺のお腹の辺りを裂くようにオーラを纏わせた剣を地面と水平に振った。
その時間、一秒も無い。
対して俺は咄嗟に一歩後ろに下がることでギリギリ攻撃を回避することに成功した。
「流石は四強、速いな。それに……」
おかしい、と俺は感じていた。
それは相手に対してではない。
自分に対してだ。
いつもならもっと軽く避けられるはずなのだが今はいつもより体が重い。
さっき追っ手から逃げているときもそうだ。
まるで力がなくなっているような……。
はっと思った俺は慌てて自分のステータスを表示させる。
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名前: カズヤ
種族:
職業: 魔王
Lv.1
HP : 5400/5400
MP : 3000/3000
ATK : 358
DEF : ∞(スキル補正)
MATK: 524
MDEF: 549
DEX : 532
SP : 0
スキル:『実体化』、『物理攻撃無効』、『メテオ(笑)』、『集中』、『夜目』、『解除』、『成長速度倍加』、『憑依』
称号 : 『車に轢かれちゃった系男子』、『異世界の幽霊』、『流石にあの攻撃はエグいでしょ』、『ゴブリンを殲滅せし者』、『下級竜スレイヤー』、『魔王の素質』、『虐殺の王』
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なんてことだ……。
種族からなにまでほとんど変わっている。
それにこのステータスだとまるで本当に魔王じゃないか……。
自身に起こっているまさかの事態に敵の前であるにも関わらず俺の頭の中は真っ白になってしまった。
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