第81話 カタストロへ Ⅳ
夜が明けて次の日。
今日は森を抜けてついに新たな町、カタストロに到着する予定だ。
「何か片付け忘れてるものとかないよな」
「そうね後は……そうそうあのオオカミはどうなったのよ」
「ああ、あのオオカミならもうどこかに行ってると思うぞ」
「……っていうことは仲間に出来なかったってこと?」
「そういうことになる」
「そうなのね、やっぱり人間と魔物って和解出来ないってことなのかしら」
「いやそれは違うと思うぞ。俺達には俺達の考え方があるし、魔物にも魔物の考え方がある。今回はその点で合わなかったのかもな」
「そういうものなのかしら」
「そういうものだ」
ソフィーは明らかにがっかりした表情を見せる。
その表情に俺は何も言うことが出来なかった。
「……」
「……」
それからお互い無言のまま馬車を走らせる。
馬車を走らせてから数分が経ったこと頃であろうか。
俺は後ろから高速で何かが迫る気配を足音で感じ取っていた。
「何かに追われてるな」
「追われてるの? お兄ちゃん」
「ああ、そうだ。この速さは魔物か?」
魔物としか思えないほどの速さ、それも比較的速く走れそうな四足歩行の魔物だろう。
四足歩行の魔物と言えば……そういえば。
「もしかしてあのオオカミってことはないよな……」
「ねぇカズヤ、森側に何かいるわよ?」
「一度馬車を止めるか」
馬車を止めると俺達に迫ってきた気配も止まった。
どうやら本当に俺達についてきているようだ。
「おい、隠れてないで出てこい! 何か用があるんだろ!」
森の方に大声で呼び掛けるも反応がない。
俺達が諦めて再び馬車を走らせようとしたそのとき、森の中から一匹の白いオオカミが出てきた。
「へ? カズヤ、これはどういうことなの?」
ソフィーが驚くのも無理はない。
だって俺でさえ驚いているのだから。
「お前なんでこんなところに」
だが当のオオカミは平然とした様子で立っている。
「アウゥ……」
「もしかしてついて来てくれていたのか?」
「アウッ!」
俺の問いにオオカミは顔を背けた。
「もしかして昨日のお礼か?」
「アウッ」
次の問いには顔を背けることなくしっかりと頷く。
どうやら昨日のお礼をしに来たみたいだ。
「そうかわざわざお礼とかよかったんだけどな。とにかくありがとうな」
俺がお礼にお礼を返し馬車を走らせようと手綱を握ったときだ。
「アウゥ!」
オオカミはもう一度大きく吠え馬車の中へと乗り込んできた。
オオカミのいきなりの行動に御者台にいた俺とソフィーは驚く。
驚くとほぼ同時に後ろを向くと馬車の中にいた他の三人が酷い有り様だった。
「うわっ! いきなり何が……ぶへっ!」
「視界が真っ白……」
「誰か助けて重くて潰れそう……」
狭い馬車の中にいきなりオオカミが入り込んで来たらそうなるだろう。
それにそのオオカミは魔物だけあって普通の大型犬よりもふたまわりは大きい。
馬車の中を見ると馬車の荷台の大部分が真っ白に埋め尽くされていた。
「結局お前は俺達について来るのか?」
「アウッ……」
俺は二度同じ質問をするが相手も一度目と同じように顔を背ける。
「早くこの白いのをどかして!!」
「ヘルプ……」
そうだった、まずは馬車から出てもらうのが先だ。
このままでは馬車内の三人が圧死してしまう。
「お前、悪いけどちょっと馬車の外に出てもらえないか? 仲間が潰されててな」
「アウゥ?」
オオカミは初めは何のことだか分からないようだったが下敷きになっている三人に気づいたようですぐに馬車から出る。
それに合わせて俺も馬車を降りた。
「悪いな。それと確認のために聞いておきたいんだがこれからよろしくってことでいいんだよな?」
「アウゥ!」
俺の質問にオオカミは大きく首を縦に振る。
「じゃあつまりついて来るってことだよな?」
「アウゥ……」
だがこの質問には顔を背ける。
このオオカミの立場で言うとついて行くつもりはないが昨日のお礼として俺達に何か恩返しをしたいということなのかもしれない。
つまり力になりたいという感じなのだろう。
しかしよくよく考えてみるとそれは俺達について来ることと同じことである。
結局のところよく分からないのが現状であるが大事なのはこのオオカミが今後俺達と行動を共にすることだ。
細かいことは気にしなくても良いだろう。
「とにかくよろしく頼むよ。それといつまでもお前じゃ呼びづらいからな何か呼び名とかないか……」
「だったら私が決めても良いかしら?」
いつの間にか俺の横へと来ていたソフィーが勢いよく手を上げる。
「俺はこのオオカミがいいなら構わないけど」
「いいわよね?」
「アウゥ……」
ソフィーの勢いに圧倒されてオオカミは少し後ずさる。
このオオカミでさえもソフィーの勢いには負けるらしい。
「これは大丈夫ってことよね」
「アウゥ?」
「さぁ決めるわよ」
オオカミはそんなことを許可した覚えはないと顔で語っているがソフィーは構わずこのオオカミの呼び名を考え始める。
「そうね。シロっていうのも安直よね……もっとインパクトのある呼び名はないかしら……」
しばらく悩みソフィーは一つの答えを出す。
「そうだわ、ホワイトサンダーにしましょう! これならインパクトもあるしなにより強そうだわ!」
ソフィーの出した答えに俺、それに他の三人と一匹もなんとも言えなかった。
ただ一つ俺が思ったことといえば久しぶりにあのチョコレート菓子が食べたい、それだけである。
これはきっとあかりと鈴音も思っていることだろう。
「お前はそれでいいのか?」
「アウゥ……」
オオカミは良いとも嫌ともとれる微妙な顔をしていた。
「あの……ソフィーさん、他の呼び名とかってあったりするんですかね?」
「カズヤはなんでそんなに畏まってるのよ……そうね他の呼び名ね……」
ソフィーは顎に手をあて考える。
「ないわね!」
だが残念なことに結果はないの一言だった。
その言葉を受けてオオカミは大きく一つ吠える。
「アウゥウウウ!」
それは悲しみの鳴き声だか、腹を括ったぞという決意の鳴き声だかは分からない。
だが受け入れたということだけは俺、それと他の四人も分かった。
こうして俺達の仲間として新しくホワイトサンダーが加わった。
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