第十六話 魔女裁判と鏡文字
魔女裁判は、身体検査からはじまった。
ポンチョのフードを外され、耳のない事を確認される。尻のあたりを探られ、尻尾のない事を確認される。最後に恐る恐るといった様子で、髪をかき上げられ『耳なしの耳』を露わにされる。
なんだろう。最後のコレが一番屈辱的だ。ただ単に、耳を見られただけなのに。尻をまさぐられてしまった方が、よほど衝撃的なはずだ。価値観というものは、周囲の環境により変化していくものなのだろう。いつの間にか、俺にとっても『耳』という器官が、特別な意味を持ってしまっている。
「耳が……!」
「毛が生えていない……」
「邪悪な!」
場がどよめき、周りの人から囁き声が聞こえる。
「あなたの名前を聞かせて下さい」
最初に手紙を持ってきた、年配の男性が言った。キジトラ模様の猫耳だ。
「ヒロト。でも、人に名前を聞く時は、まず自分から」
「……これは、失礼をした。私の名前はアトラ。この教会の責任者だ」
うむ。ひまわり少女に、いきなり刃物を振り上げられたことを考えると、
「ヒロト殿、近頃この辺りの教会に、同じような手紙が届いている。『耳なし』は何をしようとしている?』
「行方不明の妻を探しています。
俺が耳なしなのは確定なのか? 火も吹けないし鉄の玉も撒き散らせないけど?
スリング・ショットを使えば多少なら、何とか。あっ! だから、ひまわり少女はあんなに怯えていたのか。俺が鉄の玉を持っていたから。
「教会は、何を
「毛の生えていない丸い耳、言葉が違う、尻尾も尾羽もない。この地の生き物ではない。違うのか?」
………。その通りです。
「火を吹き、鉄の玉を撒き散らし、笑いながら人を殺す悪魔。違うか?」
「そんなことは、しない」
できないと言ったら、危険度が増すかもしれない。ちょっと三味線を弾いてみた。
「耳なしが集まって、何か企んでいるのか?」
「行方不明の妻を探している、それだけ。手紙はたぶん妻から」
「嘘だ!
アトラ
「教えて欲しい。耳なし、何なのか。耳なし、何をしたのか」
「それを、我々に聞くのか?」
「俺は、知らないから」
「どういう意味だ?」
「言葉の通り。俺は耳なしかも知れない。耳なし、違うかも知れない。俺は耳なし、知らない。教えて下さい」
「アトラ
▽△▽
「あっ! てがみ!」
ぷんぷんおこって、わーわーさわいで、さいごにはべしょべしょと泣きだしたハナちゃんは、そのあとつかれて、ねてしまった。しらたまとクロマルを抱いて、クーのせなかにひっついて、ねている。ほっとひといきついて、ぼくはたいせつなことを、やっと思い出した。
てがみ。お父さんがぼくになげてよこした、たいせつなてがみ。よんでみなくっちゃ!
くしゃくしゃに丸まったふくろを、そうっとひらく。ふくろには、三枚の紙が入っていた。
おかーさんの字だ! おかーさんからのてがみだ! お父さんあてと、ぼくとハナちゃんあて。それと地図。あ、『かがみもじ』で書いてある。ないしょのはなしなのかな?
おかーさんは、かがみ文字がとくいだ。よく、かみを二枚ならべて、書いて見せてくれた。右手でふつうの文字、左手でかがみにうつしたみたいな、はんたいの文字を書く。二枚いっしょじゃないと、書けないんだって。
『なんでこんなの、できるの!?』って聞いたら
『カッコいいかと思って、子供の頃、たくさん練習したんだよ』って、でも思ってたより、やくにたたないのよねーなんて、わらいながら言っていた。
ぼくはクーの物入から、お父さんがひげをそる時に使う、小さなかがみを取り出した。
ハル、ハナへ
ハル、ハナ、元気ですか? ずいぶん長い間、会えずにいるけど、お母さんは元気です。海辺の
毎日、きちんとごはんを食べていますか? 寒かったり、さみしかったりしていませんか? 風邪をひいたり、おなかをこわしたり、していませんか? 鳥の人になって、あなたたちのいる街まで、今すぐ飛んで行きたいです。狼の人になって、
お母さんのいる街の地図を入れておきます。念のため、あぶり出しにしてあります。地図に街の名前も書いてあります。
あなたたちと、はなれているのはさみしいけれど、きっと会えると信じています。だから
この手紙が、どうかあなたたちに届きますように。
ヒロトへ
私は絶対に諦めたりしない。どんなに遠くても、例え何年かかっても、絶対に探し出してみせる。だから危険な事や無茶な事をしないで。ハルとハナの安全を一番に考えて。私は大丈夫だから。私がきっと、あなたに辿り着くから。
お世話になっている人に、護身術を習いはじめた。身を守ることができるようになったら、三人を探す旅にでるつもり。
もし、この手紙を受け取ったら、地図の街の教会宛に返事を下さい。私は階段の一番上の、教会でお世話になっています。
〇月〇日 ナナミ
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