第十五話 悪の組織

「ハルちゃ、とーたん! とーたん、たしゅけに、いこうよ!」


 クーに乗って走りながら、ハナちゃんがぼくのせなかを、ポカポカと叩く。


「ううん。夜までかくれて、ロレンのお店にいくよ」


「なんで! とーたん、いじめられてたよ! ハナちゃん、もふもふになって、がぶって、かみついてやるよ!」


「いま行ったら、ぼくたちもつかまっちゃう」


「じゃあ、あくびに、おねがいしゅるよ! あくびなら、わるいやつを、がぶってしてくれりゅよ!」


「だめ。そんなことしたら、あくびがわるいトカゲになっちゃう」


「とーたん、いじめるの、わるいひとだよ! わるいひとをやっつけるのは、ひーろーだよ!」



 にほんにいるとき、テレビのヒーローがやっつけるのは、いつだってわるものだった。


 あくの、そしきだった。


 きょうかいは、あくのそしきなのかな。


 ひまわりのおねえさんを、ぼくはやっつけてしまおうと思った。お父さんをころそうとしている、わるい人だと思った。


 でも、ひまわりのおねえさんは、とってもかわいい、良いおねえさんだった。


 じゃあ、なにがわるかったんだろう。だれがわるものなんだろう。


 ぼくは、ハナちゃんにせなかを、ポカポカたたかれながら、ずっと考えていた。


「ハルちゃ、ばかー!!」



 ハナちゃん、ばかって言った人が、ばかなんだよ?



 クーに乗って、トルルザのまちを出て、かいどうをもどる。大きな岩を見つけて、かいどうから見えないばしょに、かくれる。


 ほんとうはぼくだって、あくびにのって、お父さんをたすけに行きたい。こんなことをしているうちに、お父さんがころされてしまうかもしれない。


 でも、ハナちゃんをつれて、きょうかいへもどるのは、ダメだ。ぼくはハナちゃんを、守らなくてはいけないから。


 お父さんはぼくに『ハナを連れて逃げろ』って言った。じゃなくて。


 ぼくに、ハナちゃんを守れってことだ。


 しらたまとクロマル(毛玉ウサギジュランの名前)をポンチョのポケットから出した。二匹はポンポン跳ねながら、嬉しそうにぼくたちの周りを回る。


 ネギセロリをすりつぶして、ミルクとまぜる。しらたまとクロマルのごはんだ。クーはそのへんの草を食べている。水筒からお水を手のひらに出して、少しずつのませる。


 ぼくができるのは、こんなことしか、ないのかな。


 なさけなくて、くやしくて、しらたまとクロマルの顔がゆがんだ。ゆがんで、ゆらゆら、ゆれた。でも、まん丸なので、どこまでが顔か、よくわからなかった。


 もうすぐ日が沈む。そうしたら、ロレンのお店に行く。トルルザのまちのお店には、ロレンのお父さんがいるはずだ。



 ▽△▽



 後ろ手に縛られて、拘束されてしまった。


 ちょっと暴れちまったからな。まあ、ハルとハナが捕まらなくて、本当に良かった。


 しかしなんだな。俺の人生で、本気で後ろ手に縛られるなんて日が来るとは、考えた事もなかった。この後、尋問とか拷問とかされちまうのか?


 魔女裁判みたいな感じだな。あれも確か、扇動したのは教会だったな。うわっ、宗教怖え!


 俺はザバトランガの教会の、耳なしに対する公的な見解を、知りたいと思っている。俺を、耳なしを、どうするつもりなのか。


 そして、耳なしがこの地の人にした事を、知らなければならないと思っている。教会には、それが伝わっているのではないだろうか。確かにこの状況は危険だろう。だが、聞いてみるくらいは、できるかもしれない。


 俺は実は、トプルに縄抜けの特訓を受けている。あらゆる形で縛られた場合の、対処法だ。特訓中は、どんな変態プレイだよ! と何度セルフ突っ込みを入れたことか。誰もが見て見ぬふりをするのが、何より辛かった。


 そして、トプルはなんであんなに、多彩な縛り方を知ってるいるんだろう。また少しトプルがわからなくなった。それについては、できれば知らないままでいたい。


 だが、お陰でたかが後ろ手に縛られたくらいでは、動じなくなったぞ! 袖の内側にニセンチ程度の、金属の薄いヤスリが仕込んである。もちろんリュートのお手製だ。


 さて、まずは相手の出方をうかがうとしよう。この世界の魔女裁判、見せてもらおうじゃないか。

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