第十三話 格納庫

 そこはかなりの広さを持つ、まさに『格納庫』だった。


 大きさも形も様々な、空飛ぶ船が見るも無残に壊されている。


 耳なしの物語や人々の認識から言って、この船が飛んでいたのは少なくと百年や二百年は前なんじゃないかと思う。その割に劣化していないのは、密閉されていたせいなのか、金属の特性のせいなのか。


 燃料と動力が気になるところだ。


 あ! ウランとか原子力だったらどうしよう! 耳なしが地球由来の存在だとしたら、あり得るかも知れない。とりあえず例のマークを探す。換気扇みたいな三枚の羽の黄色い警告マーク。


 マークは見当たらないが、安心する気にはなれなかった。


 そもそも、この世界のウイルスや病原体、俺の知らない電波や有毒紫外線。食べ物や水の成分、空気中のなにか。考えはじめたらキリがない。今までなぜ無事でいられたのか、不思議になるくらいだ。この先その影響が出ないという保証はない。


 俺は大きく深呼吸という名のため息を吐く。この地で三十年以上生活しているさゆりさんを信じるしかない。少なくとも耳が生えるまでの一年半で、健康に問題があったという話は聞いていない。


 同様に、若い頃ここに入り浸っていたという、爺さんの健康を信じよう。


 空飛ぶ船は後まわしにして、端末たんまつのようなものを探す。情報を管理するPCのようなものがないだろうか。地球の知識の固定概念が邪魔をするが、なるべく頭を柔らかくして探す。


 音に反応する何かがあるかも知れない。音声入力のようなもの。


『ルールー(お願い)、ウォッテース(教える)』


『ウォッテーナス(教えて)』


 日本語を試す。


『教えてくれ』


『空飛ぶ船の操作方法は?』


 英語か?


『please tell me』


 ダメか。起動してないか、そもそもそんな装置はないのか。


 カメラのようなもの、ボタンっぽいもの、開閉する何か、スライドしそうなもの。体温に反応するかも知れない。片っ端から手で触れてみる。


 反応なし、か。少なくとも現状、操作出来そうなものが見つからない。扉が動いたということは、何か動力源があり、それが生きているはずなのだが。


 空飛ぶ船を調べる。


 鈍器で力任せに殴りつけたような跡もあるが、最終的には爆破、もしくは爆発したのだろう。フレーム部分を残して木っ端みじんだ。焼け焦げた跡もある。破壊跡には執念すら感じられた。


 耳なしが、憎まれていたことのあかしを見せつけられているようだ。


 バカヤロウ。なんで踏みにじるような事、しちまったんだよ。意思の疎通が、出来なかった訳じゃないだろうに。


 フレームを持ち上げてみる。驚くほど軽い。爆破レベルの衝撃でほとんど歪む事もなく、熱で変形した様子もない。強化プラスチックのたぐいだろうか。これで全身鎧とか作ったら無敵だな。加工する方法がわからんが。


 飛び散っている破片は金属に見える。手触りや匂い、落とした時の音も、俺の知っている金属と変わらないが、錆が浮いていないから、やっぱり未知の金属なのかも知れない。



 耳なしと、この世界の人が戦ったのだろうか。人が死んだのだろうか。


 エンジンや動力、操作盤なんかの、素人の俺が見てわかるようなものは残されていなかった。あるのかも知れないが、俺には見つけられなかった。




 お手上げだ。



 他にも部屋があるかも知れない。外にいる、爺さんに聞いてみよう。


 格納庫があるなら、管理や操作をするための部屋がある気がする。


 部屋から出ると、三人が深刻な様子で座り込んでいた。部屋から出てきた俺に気付くと、期待するような、心底困った子供のような視線を向けてくる。全員の耳がピクピクと警戒するように動いている。


 なんだか、もの凄くたまれない。



『すまん、さっぱりわからん』



 俺が頭を掻きながら言うと、三人から盛大に突っ込まれた。



 だが、そのあとなぜか全員が、ほっとしたように笑った。

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