第七章 茜岩谷に吹く風が
第一話 茜岩谷に吹く風
馬車は順調に街道を進み、砂漠との境界に位置するトンネルを抜け、
露店市場でビーズのアクセサリーや
通じると思ったわけではないが、説教せずにはいられなかった。あくびは涼しい顔で『あんなまどろっこしいのやってらんないわ』とでも言うように、知らんぷりしていた。あくびも良い年なんだから、少し落ち着いて欲しい。
アポートスでは鉱石を仕入れる予定だったのに、なぜか荷物はドライフルーツや乾燥野菜ばかりだった。ロレンに聞いてみたら、どうやら鉱石は値段のふり幅が大きくギャンブル性が高いらしい。
「今回は宝石がありますから、他は手堅く行きます」
と、若干残念そうに言っていた。
コイツ、そういう
俺か?
アポートスでは一泊したが、残念ながら鉱石を掘る現場は、関係者以外立ち入り禁止だった。危険があるらしい。ハルもクルミちゃんも楽しみにしていたので、がっかりしていたが、名物のドライフルーツ入り
アポートスを出ると、景色はほぼ見慣れたサラサスーン地方のものとなる。カチカチに固く、ひび割れた大地を乾いた風が吹き抜けていく。風の音はガーヤガランでパラヤさんの旦那さんが吹いてくれた笛の音に似ている。ポーポーニャという名前の笛で、ドルンゾやサラサスーン地方の民族楽器だ。
『あの笛の音色は、サラサスーンの風の音なの。ドルンゾ山から吹き降ろして、赤い大地を駆け抜ける風の音』
パラヤさんがそんな
朝も、昼も、夜も、いつも風が吹いている。時折り突風となり、ポンチョを巻き上げる。砂漠とは違う厳しさがあり、そこに根付いて生きる動物も植物も、人も、みんなしぶとく
『しぶとい』と『逞しい』は、俺の大好きな
ガーヤガランまで来ると、パラシュはほとんど見かけないため、あくびが注目の的になった。俺も砂漠へ行くまで一度も見たことなかった。サラサスーンにも大きなトカゲはいるが、パラシュほどじゃない。唾液に猛毒があり威嚇する時、喉をカラカラカラカラと、乾いた木片を打つような音を出す。普段はのんびり歩いているが、瞬発力があるので侮れない危険生物だ。
あくびは安全性をアピールするために、口輪を
ガーヤガランの街では、パラヤさん家族が合流する事になった。これを機会に大岩の家に里帰りする事にしたらしい。旦那さんと、ハルよりふたつ年上の双子の娘さんも同行する。
パラヤさんにクルミちゃんを紹介すると、
「地球の人って、けっこういるのかしら。私長いこと、母さんだけだと思っていたわ」と言っていた。
うーん。探せばもっといるのか?
宿屋について部屋で荷物整理をしていると、ロレンが息を弾ませて駆け込んで来た。
「ヒロト! 行商人から情報が入りました!」
「えっ?」
「ナナミさんの情報です!」
状況が、動いたらしい。
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