第二話 ハルの友だち
街道の行き止まりの街で、ルカランと別れた。
ハルはルカランととても仲良くしていたので、これはフォローが必要かなと思っていたら、意外にも笑って手を振っていた。
聞くと、
「うん、また会う約束してるから」と言っていた。
「ぼくもルカランも、もう少し大きくなれば会いに来られるし、なんかね、ルカランとは、また会える気がするんだ」
と言って、それでも、やっぱり少し寂しそうに笑った。
ルカランもいつものように、イーっと歯をむき出すみたいにして笑って、
「またな、ハル! そのうち遊びに行くからさ!」
と、近所の公園で会った友だちみたいに言った。
ロレンがルカランに、なにかあったら連絡して下さいと言って、商会と街の名前をメモに書いて渡していた。ルカランはガイドとして、とても良い仕事をしていたし、いたずらっ子そのもののような様子は、何とも微笑ましかった。
ハザンが「明日から寂しくなるなぁ」と言って大きく伸びをした。
ハルが「また会える、大丈夫!」と言った。
そんな風に言うハル、ハルに
ハルはえへへと笑い、ハザンは「俺もかよ!」と、少し不服そうだった。
この世界で大きくなるつもりでいるハル。この世界にすっかり同化しているハナ。俺もどんどん手放せないものが増えていっている。
この世界とどう関わり合いになってゆくのか、俺も先延ばしにしていた事を、考えなければいけないのかも知れない。
行き止まりの街で、また水と生鮮食料品を少し仕入れてから、月夜の砂漠をパラシュで行く。登りはじめた月齢の若い上弦の月が、砂丘の赤い砂にパラシュの影を落とす。
これがラクダの影なら旅情あふれる絵葉書のような光景なのだが、六つ並んだパラシュの影だと
「じゃあおじさま、この世界で暮らしていると、私もこの世界の人と同じようになるって言うんですか?!」
あくびの背中で、延々と続く質問に答えていたら、クルミちゃんが悲鳴をあげるように言った。
「クルミちゃん、落ち着いて。さゆりさんとうちの娘がそうなったっていうだけで、必ずそうなるとは限らない。現に、俺とハルは何も変わっていない」
「クルミお姉ちゃん、ハナちゃんはユキヒョウになると、ものすごーく可愛いし、耳も尻尾もふわふわなんだよ」
並走するパラシュに乗ったハルが言った。ハルくん、その通りなんだけど、今はちょっとその話しは待って。
「ハルくん、私もこの世界の人の耳や尻尾はとっても素敵だから、ずっと羨ましいと思ってた」
あれ? 良いのか?
「でも、それで高く跳べるようになったり、早く回れるようになったりしたら、そんなのズルじゃない!? 私は、私の身体で踊りたい!」
ああ、なるほどね。
「ハル? わかるか? 例えば神さまが、どんな折り紙でももの凄く上手に折れるように、魔法をかけてくれたら、嬉しいか?」
「そんなの嬉しいに決まってーー。あ……! やっぱり嫌だ。そんなの楽しくないし、いっしょうけんめいやったの、なしになっちゃう」
うん、そういう事だ。
「お父さんも、凄く絵が上手に描ける、魔法の色鉛筆があったとしても、使わない」
俺はえぐえぐと泣き出してしまったクルミちゃんの背中を、トントンしながら言った。
「そういう訳だ。帰る方法と、同化の原因、一緒に頑張って見つけよう!」
この世界が、彼女の歯を食いしばった日々や、投げ出さなかった勇気を、なんの断りもなく塗り替えるような、そんな
俺も、どうしても耳と尻尾が欲しかった『耳なしクロル』とは違う。爺さんと生きてゆくと決めたさゆりさんとも、息をするように自然にこの世界を受け入れたハナとも違う。
まずは図書館で調べた、耳なしの伝承をちゃんと訳さないといけないな。耳なしという存在が、この世界にどう関わっているのか。この世界にっての『耳なし』と、俺たち人間が同じものだったとしたら、見えてくる事があるかも知れない。
俺はふと『耳なしクロル』の昔話の続きが気になった。クロルは空飛ぶ船で、どこに連れて行かれたのか。あの話には、続きがあるのではないか?
なぜ、今、空飛ぶ船は飛んでいないのか?
そんな事を考えながら、クルミちゃんのきれいピンと伸びた背中を、いつまでもトントンしていた。
気づいたらクルミちゃんはとっくに泣き止んでいて、少し困ったような顔で俺を見上げていた。
ハルが「でもぼく、いくら使ってもなくならない、魔法の折り紙用紙なら、欲しいなー!」
と言った。
ああ、良いな! お父さんも減らない画用紙、欲しいなー。この世界の画用紙、高すぎるぞ!
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