第二話 教会へ
大荷物を背負い、ハルと一緒に宿屋を探しながら歩く。地図を見ながらも、つい歩く人たちや、街並みに目を奪われる。
ラーザの人たちは、つばの小さな帽子を被っている人がとても多い。つばから日除けの布が下がっていて、顔に影ができている。日除け布の長さはそれぞれで、肩に届くくらい長い女性もいるし、ほんの五センチくらいの布をピラピラとはためかせて走っている少女もいる。房が垂れていたり、フリンジになっていたり、見ているだけでとても楽しい。
シュメリルールでは、赤や青が多く使われたカラフルなポンチョが多い。毛織り物で出来ていて、硬く風を通さない。刺しゅうもコレでもか! というくらいびっしりと
ラーザの人たちの着ているポンチョは、もっと柔らかく見える。淡い色合いが多く、刺しゅうも控えめだ。帽子の布と一緒に、ふわりと風に揺れている。
宿屋はどうやら街外れにあるらしく、先に教会へ行ってしまうか、迷うところだ。
ふと甘い匂いがして、地図から顔上げると、とろりと蜜のかかった団子のようなものを売る屋台がある。イートインスペースもあるようなので、食べてみることにした。
串に刺してある団子は、豆入りと
お品書きの紙が貼られたデーブルの向こうで、
「ばーさん、一本ずつ、全部、くれ」と言うと、
「ばーさん?」と片目を開いてじろりと
奥さんと、おかみさんと、
おー! さすがハルくん、フェミニスト!
ばーさんは満更でもないようにニヤリと笑うと、皿に団子を乗せてくれた。金を払いながら『食べる、いいか?』と聞くと、頷いてテーブル席を指差した。
テーブルに座ると、奥から中年女性がお茶を持ってきてくれた。サービスらしい。
街の地図を見せながら『教会どこ? 教えてくれてありがとう』と言うと、
女の人は『まだ教えてないよ!』と笑いながら、地図を指差してくれた。現在地と教会に丸印をつける。今度はハルが『教えてくれてありがとう』と言った。うん、それが正解だ。
そう遠くはない。荷物は重いが行ってみるとしよう。
団子はホロリと苦く、青臭い。それに控えめの甘さの蜜がよく合った。俺は豆が気に入り、ハルは胡桃をおかわりした。
店番のばーさんに『
俺とハルは黙って教会へ向かう道を歩く。なるべく普段通りにしようと思っているのに、なにも話すことが浮かばない。
ハルが「おとーさん」と後ろから日本語で呼んだ。
「おかーさんがこの街で見つからなくても」
「またいっしょにさがして、旅をしようよ」
荷物を降ろして膝を折り、ハルを抱き寄せる。
「当たり前だ。見つかるまで探すぞ!」
ハルが俺の耳元で小さな声で、
「うん、だから教会におかーさんいなくても、元気だして」と、言った。
うん。お父さん、弱虫でごめんな! 心配かけて本当にごめん。
そうして俺たちは手を繋いで、教会の入り口をくぐった。
三分で終わった。
似顔絵を見せて、この人を知らないか? と聞くと、誰も見た事もないと言った。俺にしては、写実的に書いたナナミの絵を何枚も見せた。教会にいる全ての人に聞いたが、同じだった。
俺は似顔絵を一枚とナナミ宛の手紙を預かってもらうことにした。この絵の人が来たら、手紙を渡して欲しいと、神父さんぽい人に頼んだ。禿げゆえに俺に神父さんっぽいと思われてしまったその人は、快く引き受けて、絵を教会の隅に貼ってくれた。
俺とハルは教会の外に出ると、なんとなく気が抜けて、一緒に声を出して笑った。
「なんかスッキリしたね! おとーさん!」
「お父さんも今、そう言おうと思ってた!」
「おかーさん、ぜんぜんいなかったねー」
「な! カスリもしなかったなー」
俺たちはもう一度、声を出して笑った。
例えて言うならば、
必死にヤマを張って、徹夜で期末テストの勉強をしたのに、全てのヤマが外れて、自信があるのは名前だけ。でも明日から夏休みだし、ああ、入道雲が出てるな!!
といった、一種、晴れ晴れとした気分だった。
さあハル! ロレンとメシ食いに行こう! 明日はヤーモたちと釣りに行くか? ハザンたちに、剣術道場連れてってもらうのも良いな! ハナとさゆりさんに、あの帽子お土産に買おう。ポンチョはお母さんに似合いそうだよな? 爺さんには何が良いと思う?
俺たちは人目も気にせず、日本語で大きな声で話しながら歩いた。
ハル、異世界楽しいな! お母さんが一緒なら、きっともっともっと楽しいな!
お母さん見つかるまで一緒に頑張ろうな!
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