第三話 薄桃色の海岸
宿屋へ荷物を置きに行って、ひと休みするともう夕方だった。ロレンとの約束まで小一時間程だが、俺とハルは海を見に行く事にした。
街外れまで来ると、木造の簡素な漁師小屋が並んでいた。開いた魚を干した
小さな男の子が海藻らしきものを手に持ち、長く棚引かせながら、足元の子犬とじゃれ合うように走って行く。兄弟だろうか。この世界の人たちは、
一度、さゆりさんに狐の姿を見せて欲しいと頼んだ事がある。
「えっ! 嫌よ、恥ずかしいわ」と言われた。
「だって
と、さゆりさんは口元に手を当てて笑った。背筋がゾクリとして振り向くと、爺さんが鬼のような目で睨んでいた。正直、足が震えた。
あれが、殺気か……!
リュートか爺さんに頼んでみようかとも思ったが、なんとなく機会を
例外は幼い子供と、非常事態。
羞恥心の芽生える前の幼い頃は、親が側にいたりすれば、けっこう
非常事態は文字通り、生き残る為に必要な場合。熊や虎、狼や山猫。
正直、質量保存の法則とかどうなってんのと思うが、考えても分かるはずもない。
『家族と夫婦となる人以外に
爺さんが睨んで来るはずだ。
考えごとをしているうちに海へと着いた。波除けの低い石壁を乗り越えると、砂浜が広がっていた。
「おとーさん! 見て見て! ピンク色だよ!」
ハルが
小さな入江となっているその砂浜は、確かに淡いピンク色をしていた。思わず目を
ハルがブーツを脱ぎ捨てて、波打ち際を走る。
転ぶなよ、と声をかけるが、聞こえてはいないだろう。
腰ベルトの小物入れから、残り少なくなってしまった煙草を取り出し火を点けた。最後の一本はナナミに会えた時に吸おうと決めている。
腰を下ろし、暗く沈み始めた薄桃色の砂浜と、波打ち際で遊ぶハルのシルエットを眺める。どこか絵本のような光景に目を細めながら、俺は味の落ちた煙草の煙を深く吸み、スケッチブックを取り出した。
ロレンとの約束の時間さえ忘れて。
やっべぇ!!
ハルー! ハルー! 帰るぞー!! 早く靴履け! 砂が靴に入った? 逆さにして底叩け! ほら、こっちの紐お父さんが結ぶから! お前こっち結べ。固結びでもいいよもう、あとでお父さんなおしてやるから! え? 貝殻落とした? 拾ってこい!
ほら! 走るぞ!
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