Fate To Reach

イグニスクリムゾン

序章 運命の歯車

 日の沈みかけた森の中を、イグニスは一生懸命に脚を動かし、駆けた。

 そのあとを追いかけるかのように、複数の人影が同じルートを駆けていた。―無論追いかけられているのだが。

 その最中さなか、幾度となくこけそうになるが、どうにかそれを踏ん張る。

 どれくらい走ったころだろうか、森の出口を示すかのように、文字通り夕日が目の前に差し込んできた。

 そのせいで一瞬視界が真っ白になるが、日光を遮るように両手で顔を覆いい、足を止めなかった。 

 その森の出口に吸い込まれるかのように飛び込んだ途端、先程まで後ろにいたはずの複数の影にいつの間にか包囲されていた。

 「くっそ…、」

 額から浮かぶ汗を手で拭いながら周囲を見渡す。

 数は三。数で言うと少ないとは言い切れぬものの、まだ何とかなりそうなのだが、実際そういうわけにもいかなかった。

 なんせ相手は、この世界で絶対に知らないという人がいないと断言できるくらいに超有名なギルドの魔導士ウィザードたちだったのだから。

 おまけに、先程まで居たはずのイグニスの仲間もいつの間にか消え、イグニス独りだけになってしまっていた。

 よくある話ならここで救世主やらなんやらが来るはずだが、勿論そんなことは起こり得ない。

 思考をフル回転させるようにもう一度辺りを見渡す。所詮相手は三人。いくら魔導士ウィザード三人でも、不意を突けば逃げれるはずだ。

 今イグニスが立っているのは直径二十メートル程の広場の中央。そこから見渡せる町並み。そして微かに聞こえる波の音。

 そこで見つけた。一か八かだが、逃げれるであろう逃げ道が。

 そう考えた途端、既に身体は動いていた。

 方膝を地面につけるようにしゃがみ込む。それと同時に今着ているロングレザーコートの内ポケットに左手を忍ばせる。

 魔導士ウィザードたちはそれに気づいたらしく、少しだけ気を張るのがわかった。

 それを確認するや否や、イグニスは内ポケットにある煙幕弾を、逃げ道の反対方向に投げた。

 狙い通り、魔導士ウィザードたちはそれに一瞬だけ視線が集まった。だが、それだけで充分だった。

 その隙を突き、イグニスは先程見つけた逃げ道に飛び込んだ。そこにあるであろう水辺に向かって。

 が、そこには水辺どころか岩すら無く、イグニスは自由落下で身体を地面に強打し、あまりの激痛に耐えられず気絶した。


 それからしばらくしてイグニスは意識を取り戻したのだが、そこには先程の魔導士ウィザードたちではなく、一人のおじさんの姿があった。

 このときのイグニスには知る余地すらなかったが、恐らく、イグニスの運命の歯車はこのおじさんによって動かされたのだろう。

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