『魔』ナル者
大福がちゃ丸。
第1話 暗い森
「アハハハハハハハハハ」
楽しそうな明るい笑い声が教室に響く。
また、あの夢だ。
彼女が虐められている、肉体的に、精神的に、追い詰められていく。
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
私の良く知っている彼女だ、親に心配かけまいと耐えていた。
何故こんな事になってしまったかわからない、何が切っ掛けで、何が原因で、こんなことが始まってしまったのか。
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
周りは見て見ぬふり、かかわりあったら今度は自分たちの番だ。
それは……私も同じ……
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
「アハハハハハハハハハ」
あいつ等にとっては、遊び、何も考えていない、泣こうと、怪我させようと、そして……
私の……
私は目を覚ます。
汗をかき、髪や寝間着が肌に貼り付いて気持ちが悪い。
何も出来なかった、何もしなかった、何か出来ていれば彼女を救えただろうか。
後悔、憎しみ、懺悔、悲しみ、憎悪、怒り、心の中が黒くドロドロとした物に満たされていく。
何も出来なかった。
中学生の女子児童に何が出来る? 何かできたのか? 誰かに相談する? そんな事出来ているのなら……。
自分に言い訳をして、心に蓋をしていた。
学校は隠蔽した。
親達も口を閉ざした。
あいつ等はのうのうと生きている。
許せなかった、自分も、あいつらも、親たちも、世の中も。
汗を流し、着替えをして、家を出ていく。
ひどい顔をしていたらしく、親に心配されたが、そんなことはどうでもいい。
昨日、彼女から手紙が届いていた。
彼女が命を絶つ前に、私に送ったであろう、その手紙には願い事が書いてあった。
手紙には、ただ一文、そして地図。
『私は対価を支払った、あなたが受け取りに行ってほしい』
それだけだった。
丁寧に折りたたまれた地図を広げてみる、地図の森の中に×印。
そこに行けと言う事だろう。
地図には、この町のそう遠くない場所にある大きな自然林の森、保護区にもなっていたはずだ。
確か、色々と噂のある森だ。
よくある『幽霊が出る』『呪われる』何んて噂話。
その噂の一つに、『バケモノが居て人を喰う、でも命を差し出せば願いが叶う』何て言うのもあった。
まさかね……。
バスと電車を乗り継ぎ、私は暗い森に向かう。
私は、電車に揺られながら彼女の事を思う。
彼女は、森の入り口で見つかったそうだ、外傷はなく眠るように、そして手には遺書を握りしめ。
太ももの上に置いた手を、白くなるまでギュッと握りしめる。
目的の無人駅に着いて目的の森に向かう、バスは時間が外れているようで当分来そうもない。
かなり歩くようになるが、しかたがない。
森に着いたのは昼を過ぎていた、朝早く出てきたのにかなり時間がたってしまった。
ここまで来て、引き返すわけにもいかない、遅くなっても彼女が何を私に託そうとしたのか確かめないと。
森の中に続く道は、すぐに途絶えた。
あまり……と言うか、人が入っていないのだろう、色々と噂のある森だし、頭の悪い連中もあまり入ってこないのかもしれない。
それに、人が入らないその理由もすぐに分かった。
立ち入り禁止の立て札、それに縄を張った低い木の柵、その中の木々は深く光を通さないせいで暗く、人が入るのを拒んでいるようだ。
柵を跨ぎ、中に入っていく、木漏れ日すら許さない森の木々のせいで、暗い地面は湿った枯れ葉と枯れ枝しかない、足を踏み出すたびにグズグズと嫌な音を立てる。
しばらく歩いていくと、もはやどこから来たのかわからなくなってきた。
不安にはなるけど、進行方向の逆に進めば、外には出られるだろう、と思っている。
気が付いた事がある。
鳥の声が聞こえない。
私が居るせいかもしれないけど、それでも生き物の気配がない。
ヒンヤリとした、湿った空気と、落ち葉の腐った臭い。
不気味な静かな森。
それでも、私は足を進めていく。
目の前に、何か見えてきた。
あれは、なんだろう? 紐のように見える、何かついている。
薄汚れてはいるが、紙の短冊のような。
そう、見覚えがある、神棚や神社にあるアレだ、確か ”しめ縄” だったか。
アレが、木々を繋ぐように張られている、見ただけでも先が見えない長さで。
変な確信めいたものが私の中にある、この中だ、しめ縄で隔絶されたこの先に、『彼女が私に託した』何かがある。
しめ縄の内側に足を踏み入れた。
寒気がした、鳥肌が立った、なのに、なのに汗が噴き出す。
空気が違う、何がと言われたら説明がつかない、今までいた場所と同じなはずなのに、違う場所に立っているような。
音すらもなく、風すらも吹かず。
何かこの世の中とは思えない異質なモノがこの場にあるような、別の世界に来てしまったような気がした、それも飛び切り悪い、悪夢のような世界。
そんな中に居る私だけが、いや私こそが、ここの世界の異物なのだろうか。
それでも私は足を進めた。
もう怖くて引き返したいのに、何でこんな思いまでして歩いているのだろう。
何かに誘われるように、先に進むように、足が動いていく。
いきなり木々が開けた。
地面は土が剥き出しになり、湿った土の香りがする。
曇り空が茜色になっている、もう夕方だろうか、それに来るときは雲一つなかったはずなのだけど……。
私の視界に入って来たのは、薄い茜の光に照らし出された、藁葺き屋根の古民家。
古ぼけてはいるが、一抱えはある太い柱に支えられ、御屋敷と呼ぶに相応しい大きな家。
庭木も何もない、ぽっかりと広がった地面の上に、まるで模型でも置かれているように立っている。
まるで、古く見せるように作られている模型のような御屋敷。
見れば見るほど違和感が湧いて出てくる。
泡立つ肌も、冷たくなった手も、治まっていない。
この家なのだろう。
獣道すらないこの場所に建てられた、この家に彼女が私に託した何かが有る。
私が、足を踏み出だそうとした時。
染み一つもない、まるで張り替えられたばかりのような障子が音もなく開けられる。
おかしなことに、部屋の中は真っ暗で見えない、まだ夕映えとはいえ明るいのに、まるで闇がそこだけ固まっているように。
その部屋の闇の中から茜色に照らされた縁側に、白い足袋で包まれた小さな足が現れた。
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