第54話 許嫁(1)


「で、なぜ陶様がいるんです?」

「いや、俺のことが心配だと……」

「デートですよね? 二人だけの」

「あ、ああ……」

「二人きりの」

「ま、まあ……」


 だああああぁぁぁ!

 はっきりしろ~!


 ――今日は、天くんとの初デート。雑多市場ザドゥシーチャンに来ている。


 采女ツアィニュとして天くんとはそれなりに長く接してきたつもりだけど、あれはあくまでも仕事。

『公私』の「公」は知っていても、「私」の部分はそんなに知らない。

 そんな彼といきなり結婚なんて……。だから、まずは二人で色んなことをしてみよう。

 そう思っていたのに。

 なぜ、そこに陶様が……?


 私達二人の背後にストーカーのように張り付いてくる。

 ニコニコニコニコと……。

 子供の成長を見守る親のように、嬉しそうについてくる。


 そんなに嬉しそうにされると叱るに叱れない。ついてこないで下さいと文句も言いにくい。


 天くんの腕をぐいっと掴み、壁際に引き寄せると、耳元に口を近づける。

 陶様に聞こえないようにひそひそと話をしているのに、イマイチ天くんがはっきりしないし、なぜか顔を赤くしてもじもじしている。


「お、おい、御堂河内。ち、近い」


 は?

 ちょ、ちょっと照れてるの?

 天くん、キャラ変わってない?

 そういうキャラでしたっけ?

 もっとこう、グイグイというか、俺についてこい的な横暴キャラでしたよね?

 こないだなんて無理矢理私の唇奪いましたよね?

 それなのに、なにその乙女男子……。


 あ~。もういいです。

 時間がもったいない。


「天くんっ! 行きますよ!」

「あ、ああ」

「ランチ、何食べたいです?」

「え、……パフェ」

「ああん?」


 天くんを睨みつける。

 それは、デザートよね?

 私の声が聞こえなかったのかしら……。

 ランチよ! ラ、ン、チッ!


「あ、いや、すまん。御堂河内が決めてくれ」


 まさかの丸投げ……。

 え~。エスコートしてよ~!

 んもうっ!


「天くん、あのお店入りますよ」

「あ、ああ」


 中華一刻食べ放題。


 一刻は、確か二時間よね。

 二時間食べ放題ってことね。

 ふんっ! もうこうなったらやけ食いよ!

 私の無茶な食べっぷりを見て、引いてしまえっ!

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