第49話 郵便(3)


 自室に足を踏み入れる。


 そこにあるのは、紛れもなく大量の私物。

 大学から徒歩五分、築三十年のぼろアパートの一室。その部屋に置き忘れたはずの物。

 それが今、目の前にあった。

 きちんと確認してはいないけど、一つ残らずここにある。そんな気がした。


 アパートと寸分違わぬレイアウトで、全ての家具が置かれている。

 まるでぼろアパートに戻ってきたかのようだった。


 部屋の真ん中に置かれたテーブルの上に書類のようなものが乗っていた。

 なんだろう?

 手にとって眺める。


『ご利用ありがとうございました。

 またのご利用をお待ちしております。

 物件探しは、田仲不動産へ』


 え!?

 これって、アパートを引き払ったってこと?

 誰が?

 郵便屋さん?

 そんなことできるの?

 本人確認とかいらないのかしら?


 疑問が次から次へと湧いてくる。

 その時、はらりと何かが床に落ちた。


 ん? 何?

 小さな封筒。

 中には、花柄模様がプリントされた綺麗な便箋が入っていた。


 美城へ

 みんな心配してる。

 連絡下さい。

 大学の講義は、みんなで代返だいへんしてるから大丈夫。

 単位は足りると思う。

 卒論は二人一組で仕上げればいいから、私がやっとく。

 その代わり! 後で、ご飯おごってね。

 彩より


 彩ちゃん……。

 連絡しなきゃ!

 テーブルの上に置かれていたスマホに手を伸ばす。

 電源ボタンを押しても反応がない。

 電池切れ……。

 充電器、充電器。

 あった!

 よし、充電よっ! と思ったところで動きが止まった。

 コンセントがないわ……。


 ◇


 手紙を書いた。


 心配かけてごめんなさい。

 代返や卒論、ありがとう。

 今は内定をもらった会社で研修中。

 結構忙しくて、すぐには会えないけど、いつか奢るね。


 って感じのことを記した。

 翌日、宝くんに郵便屋さんを呼んでもらった。

 手紙を彩ちゃんの元に届けたい。

 そう伝えると、郵便屋さんは、お安いご用だと軽く請け負ってくれた。


 どうにかしないと。

 そう思っていたアパートと卒論に目処がついた。

 喉の奥にずっと引っ掛かっていた魚の小骨が取れたように、スッキリとした。

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