第26話 保護(2)


 ボーッと殺風景な部屋の中を見回す。

 ボーッと窓の外の景色を見渡す。

 ボーッと素敵な風景が収められた本を眺める。


 暇だ……。

 寮に帰りたい。

 座った椅子の背もたれに、思いっきり体重を預けて腕と足を伸ばし、身体全体で、ググググ~っと伸びをしたときだった。


 ガチャリとドアが開き、坊ちゃんが入ってきた。

 両手で何かの器が乗せられたお盆を持っている。


「すまん。待たせたな」

「え、あ、いえ、そんなには」


 慌てて普通の状態に体勢を引き戻す。

 自分の部屋かもしれないけど、ノックくらいしてくれても……。

 机の上の本を閉じようと手を伸ばす。

 と、頭のすぐ脇から坊ちゃんの声が聞こえた。


「その本のその景色、いいよな」


 え?

 う、うわっ。

 え、ええと、ええと。

 パタンッ!

 あ!

 閉じちゃった……。


「ちょ、ちょっと見てただけだから」

「……そうか」


 ああぁ、私、チョー感じワルい奴じゃん。

 いや、だって急に耳元で言われたからビックリして。

 ハァ~。

 ……あ~もうっ!

 わざとじゃないし!

 不可抗力よ、不可抗力!


 と、今度は少し離れた位置から声がした。


御堂河内みどこうち、たまご粥だ。口にあうといいんだが」


 振り返ると、坊ちゃんがお盆をベッドの端に置き、上に置かれた土鍋の蓋を取るところだった。

 フワリと温かそうな湯気が立つ。

 お米と卵のほんのりと甘い香りが食欲を刺激する。


 お、美味しそう~。

 やっぱり私のお腹の音、聞こえてたのね……。

 ハァ~。そりゃそうか……。


 だああぁ~っ! しゃあない!

 お腹が空いてるのは事実だしね。

 折角だし、頂こうかな。


 椅子から立ち上がりお盆の位置まで移動する。

 すぐ脇には坊ちゃんが控えていた。

 い、いや、私の食べるところを監視するにしても、せめてもう少し離れた位置にいて欲しい。

 ご馳走になる身でそんなことは言えないけど……。

 仕方なく、お盆の上に置かれたスプーンを手に取ろうとしたときだった。

 ヒョイッと脇からスプーンが取り上げられてしまった。


 ん?

 あ、そっか……。

 私にくれるために持ってきた訳ではないのね。

 自分で食べるためか……。

 勝手に勘違いした私がバカだったわ。


 少し顔をうつむける。

 と、すぐ脇から私の口元に、お粥の乗ったスプーンが差し出された。


 え? な、なに!?


「御堂河内、ほら、口を開け。入らないだろ!」


 えっ!

 ちょっ、ちょっ、ちょっと。

 待って待って。

 自分でできる。

 自分でできるからっ!


 はい、アーン、ぱくっ。


「どうだ? 旨いか?」

「……」


 熱が上がって、倒れそうだった……。

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