第3話 面接(3)


「面接会場はこちらでーす」

「最後尾はこちらでーす」


 エレベーターを降りた先の廊下には、ずらりと人の列ができていた。

 百人くらい? それ以上かも……。


 呼び掛けを行う女性の声に従い、列の最後尾に並ぶ。


 この会社受ける人こんなにいるの!?

 高齢化社会で、介護ビジネスは盛況らしいけど。

 私、受かるのかなぁ……。

 って、弱気になっちゃだめだめ!

 受かるのよ!

 今日でジャスト二十社目。

 まだ一つの内定ももらえていない。

 今日こそ絶対に受かるんだから!


 一人気合いを入れ直す。

 その時だった。

 突然、私の肩が背後からトントンと叩かれた。


 後ろを振り向く。

 そこには、太ももがあらわになるほどの大きなスリットの入ったチャイナドレスを着た背の高い女の子が立っていた。

 光沢のある生地がテカテカと輝いている。

 薄い青に白い雲が溶け込んでいるような色合いが、彼女の派手顔を落ち着いたものに見せていた。

 私と同い年くらいかな?


貴女あなた、不思議な格好ね」


 その女の子が、興味深そうに私を眺めている。

 ん? 不思議な格好って、……私が?

 いやいやいや。

 面接にチャイナドレスで来るそっちの方が奇抜過ぎるでしょ!

 仮装大会じゃないんだから!


「列に並んでいる人達もそうですけど、スーツじゃなくていいんですか?」


 私が尋ねると、綺麗な黒髪を頭の両端にくるりと巻いたお団子ヘアのその子は、黒い瞳をぱちぱちとまたたいた。


「スーツ?」

「え……? 面接だから……。募集要項には、服装は自由で構いませんって書いてあったけど、スーツが無難なのかなって」

「スーツ。貴女の着ている服はスーツっていうのね?」

「……」


 スーツ……よね?

 量販店で買った特売品の安物のリクルートスーツだけど……。

 アレ? ダメ? スーツに見えない?

 私、ケチり過ぎた?


「次の方~!」

「いませんかー! 次の方~!」


 え~。どうしよう……。

 今さらもう着替えられないし。


「ねぇ、貴女、呼ばれてるわよ」

「え?」


 お団子ヘアの女の子が、私の背後へと指を向けている。

 指の先へと顔を向けると、さっきまであったはずの長蛇の列はいつの間にかなくなり、次は私の番になっていた。


「次の方いませんかー!」

「あっ! はいっ! います!」


 右手を頭の上にピシッと挙げる。


「安物スーツだけど、当たって砕けてくるよ! あ、砕けちゃダメか……。お互い頑張ろうね! じゃね!」


 お団子ヘアの女の子に別れを告げる。




「ふ~ん。あれは、ヤスモノスーツっていうのね」


 受付へと急ぐ私の耳に、その呟きは聞こえなかった――。

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