第十七幕 レネキス結晶
ある
法則といっても、単純にまだ見知らぬ道を選んでいる程度だった。事前にコースを決めてから走るのは、もうしばらく先の話になるだろう。
今は新しい発見がある道を走るのが、悠真の楽しみの一つでもあった。
(へぇ……こんなところにも
武具店のほかに、
さまざまな店が建ち並んでいく条件は、生まれ育った日本でも同じであったような気がする。人が多くいる場所は、やはりどこもかしこも店が建ち並んでいた。
地球も異世界も、それほど変わらない。当然、地球には存在しない秘力や秘術など大きな違いはある。違った部分を探せば、もっとたくさんあるに違いない。
悠真が思ったのはそういった部分ではなく、もっと
腹が減ればものを食い、
(……この本質は、地球もこっちの世界も一緒だな)
朝の
ふと前方に、悠真は見覚えのある後ろ姿を
三頭身程度のずんぐりむっくりとした体形――小さな体のわりに身の
悠真は進行方向を変え、やや遠くから声をかける。
「おぉい。ピピン……あっ!」
肩越しに顔を振り返った商霊を見て、悠真は
ピピンは
後ろ姿がピピンと似た格好をしていたが、どうやら別の商霊のようだ。
「あ、いや、
「お客さん、久遠悠真だもん?」
名を呼ばれ、悠真はわずかに驚いた。
「えっ……どうして、俺の名前を?」
「名前は、ピピンから直接聞いたもん。でも、お客さんの存在自体は、ピピンよりも前からリリンのほうがよく知っているもん」
悠真は
記憶を探ってみたものの、どこに
「商業都市で
「あぁあああ――っ!」
悠真は
「あれ書いたの、リリンだったのか!」
「そうだもん。だから、存在自体はリリンのほうが早くから知っていたもん」
「あの記事を見たとき、意識がぶっ飛びそうになったんだぞ」
「
リリンは
悠真がげんなりと肩を落としていると、リリンは何げない声で
「ところで、ピピンに何か用でもあったもん?」
「あ、いや、別に――あ、いや、待て待て待て」
単純に見知った顔を見かけたからと言おうとしたが、はっと悠真は思いだした。
「用はあったんだ。実は、
「錬成武具がどうしたもん?」
「戦ってるときに、錬成武具を何回か欠けさせてしまったことがあったんだ。でも、ちょっとしてからまた発動すると、その欠けたはずの部分がなくなっててさ。だからそれに関してもっと詳しく聞こうと思って……まあ、今の今まで忘れてたんだけど」
リリンは何度か
「お客さん、錬成武具に関しての知識があまりないもん?」
「ん? 武具を装飾品になんらかの方法で
「そうじゃないもん。錬成武具そのものに関しての知識だもん」
話が
「作り方とかそういうのか? そういうのは確かにわからねぇな」
「それに関してもそうだけど……ピピン、何も説明していないもん」
話の内容がまるで見えてこない。悠真はじっと、リリンに視線を
リリンは三本しかない指を一本だけ立てた。
「錬成武具の素材は、生きた
「生きた、鉱石? なんだ、そりゃあ……」
「そうだもん。
「マ、マジかよ! ああ……だから
リリンは小さく首を縦に振った。
「錬成武具は、秘力をまったく
「そうだな。身につけた錬成武具のほうへ意識を向ければ、光って形が変わる」
「それは装備者の想いに
悠真は腕を組んで、感心を込めた
「なるほどな、そういう
「きっと、お客さん。錬成武具の〝
悠真は
悠真が持っている錬成武具は、今も指にはめている黒くごつい指輪なのだが、この指輪を〝解放〟して、
リリンはうっかりとしているのか、悠真がそれを知らないわけがない。
「いや、何度も解放してるから、知ってるに決まってんだろ」
リリンはまんまるとした顔を横に振った。
「それ、ただの第一解放だもん。錬成武具は現段階では第三開放まであるもん」
「うぇっ? まさか錬成武具って、ほかにもいろんな形になるのか?」
リリンは小さな体で腕を組み、得意げな顔をする。
「第一の開放が本来の姿だもん。生きた鉱石を第一の形に定着させたあと、それから装飾品へと加工されるもん。そうやって生まれた錬成武具との
「はっはぁん。本当、まさに生きた鉱石っていうのから作られた物なんだな」
「第一開放は、あくまでも
悠真は、日本にいた
ゲームソフトやアプリケーションソフトなどの体験版――あるいは
これは武具に関しても言える。
「というか、売る前にきちんと説明するのが当然だもん」
「ああ、いや……場合が場合だったからな。あのときは仕方がなかったかも」
ピピンをさり気なくフォローしてから、悠真は改めて問う。
「それよりさ、第二、第三と解放すると、錬成武具ってどうなるんだ?」
「それは、お客さん次第だもん。例えば本来の姿を剣とするのなら、お客さんの想い次第で
「なるほど……第二や第三となったら、もう第一の形にはならないのか?」
悠真の質問に、リリンは否定の
「転換の前後に関係なく、錬成武具に意識を送れば自由
リリンは細い眼をさらに細め、にっこりと笑う。
「だから愛用している人達は、第四の開放を目指して
「ふぅん……」
生返事をした悠真に、不意の疑問が浮く。
「そんな最高の錬成武具があるのに、どうして普通の武具も売られてんだ?」
「ん……?」
リリンは不思議そうに一瞬だけ硬直し、静かに声を
「そんな最高の錬成武具だからこそ、
悠真は息を大きく吸い込んだ。その音はある種、悲鳴にも聞こえただろう。
錬成武具を受け取ったとき、ピピンは〝ちょっといい代物なのね〟と言っていた。しかしちょっとどころの話ではない。最高級品と言っても差し支えのない品だった。
「まあ……商霊ではたまに
まだこちらの世界に来たばかりの
それが確か、還元祭だと
関連のある
「まあ、かなり高価な代物だから、錬成武具を持っているのは基本的に
「はは……
リリンは小さく
「そうなのもん? それなら一つ依頼を受けてみるもん?」
「そういえば……商霊はそんなこともやってたな」
「
リリンは屋台を物色し、一枚の紙を取り出した。
「これだもん」
紙を手渡そうとしてくるリリンに、悠真は胸の辺りで両手を振る。
「……ああ、すまん。実は俺、あんまり文字が読めないんだ」
「そうなのもん……これは、ある屋敷のお嬢様からの依頼だもん」
ふんふんと
「依頼は、最大で二名からなる
護衛と聞き、悠真は少し腰が引ける。何から
ともすれば戦闘に加え、身を
三日前に光の聖女から、心配させないでくれと
危険な依頼を受けるのは、あまりよろしくない。
「うぅん。
「気に入らないもん?」
「……あんまり危なそうなのは、ちょっとな」
不思議そうな顔をして、リリンが見上げてくる。
「
悠真は苦笑いで
「それに、この依頼……
報酬額を聞き、悠真はびくりと体を震わせた。
それだけの高額報酬であれば、おそらく危険度はかなり高いと考えられる。しかし所持金の
本日は銀髪の彼女と会う約束がある。だから拘束時間は短ければ短いほどいい。
「あ、ちなみにその護衛の拘束時間と内容って、どんな感じなんだ?」
思わず早口になって
「十年ごとに誕生する、レネキス結晶の特殊形状の入手
「おお、今日中か……ん、レネキス結晶って?」
聞き覚えのない名称に
「
悠真は
「でもね、この依頼ちょっと不思議な依頼だもん」
「何がどう不思議なんだ?」
「
悠真は腕を組み、頭の中で情報を整理する。
「あぁ……普通に店か何かで買ったほうが安いって話か」
「
「純粋に、
悠真は
リリンは苦笑を
「それなら、採れたてを買ったほうが安いもん。まあ、この依頼がだめなら……」
「いや、待て待て待て」
リリンが手にしている紙の一部分が視界に入り、悠真は
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