第五幕 地下迷宮
けたたましい警告音が
暗闇から急に明るくなったため、目にかすかな痛みを覚える。次第に痛みが引くと同時に視界がはっきりとして、悠真は素早く周辺に視線を巡らした。
赤みを含んだ岩肌の壁に囲まれた空間に、悠真とエレアの二人は立っている。
ところどころに設置された電灯のお
悠真はエレアを向き――エレアの真上を、黒い球体が飛んでいるのに気づいた。
「エレア! 上に何かいるぞ!」
特に攻撃してくる気配は感じられない。
無音で上空に
「ちょっと、悠真! あれは、こちらの映像と声を送る
一瞬の意識停止ののち、悠真は深い溜め息をついた。
アナウンスで〝命を
「ああ、そうなんだ。てっきり、やばい何かかと思った……
「あの、悠真。そろそろ離してくれない?」
なぜかエレアはほんのりと
彼女がはにかむように、掴んでいるほうの腕をかすかに揺らしたのに気がついた。そこでやっと、悠真はエレアの
「あ、わ、わりぃ。必死だったから気づかなかった」
「え、ええ……」
エレアの手首を離したあと、悠真は
ほかの参加者達は別の場所にでも送られたのか、周辺からは気配が感じ取れない。詳しい参加人数はわからないが、かなり直前まで参加を受けつけていた。
列を乱したことで
周囲をゆっくりと見回しながら、エレアが
「あの秘法は、参加者を地下へ送るためのものだったみたいね」
「ん、生成もじゃないのか? じゃなきゃ、あの人数には対応できないと思ったが」
「なんとも言えないけど、それはさすがに……ちょっと無理だと思うわ」
「それより進みましょう。ぼやぼやしている間に
「ああ、そうだな」
悠真は短く
ほら穴は来た道を含めれば、左右と前方の四方にあるのだと確認できた。
一応、
台座の
「あぁ……ここ、は……うぅん。だめだ。今の俺にはまだ読めない」
「ふふっ。まあ、何も読めなかった
「学び始めたばっかりなんだぞ。それに、マジで難しすぎるんだよ」
異世界の言葉を耳ではしっかりと聞き取れるし、相手に口で伝えることもできる。自動的に翻訳がされるのだから、意志の
問題なのは目だった。悠真は文字がまったく読めないに
これは闇の精霊王が悠真を異世界へと
少しずつ
漢字にローマ字、ひらがなやカタカナ――日本ではこういった四種類の文字体系が
日本の文字が別の文字に置き換わっているだけであれば、さほど苦労しなかったに違いない。そう簡単にはいかないと、勉強を進めるごとに
正直、悠真は文字に関して心が折れかけている。
そんな心情を察知したわけではないのだろうが、エレアが得意げに言ってきた。
「もっとしっかりと頑張りなさい」
「言われなくてもそのつもりだ! で、なんて書いてあるんだ?」
台座のほうへ視線を落とし、エレアがじっと眺めた。
「ここは、地下迷宮。一つの選択が大きな
真実と虚偽が何を示しているのか、
エレアも、難しい顔で考え込んでいた。
「アリシアなら、こういうのが得意そうなんだがなぁ」
「そうね。アリシアみたいな人が、どこかの
「そりゃあ、笑えないな……まあ、どれだけ考えても今はわからなさそうだし、今は適当に進もうぜ。ほかにも似た暗示があるかもしれねぇからな」
来た道を除けば、三つの道がある。視線で探ったが、何か
「前か、右か、左か、か。とりあえず、前に前にって感じで進んでみるか」
悠真の
前方にあるほら穴を悠真達はくぐり抜け、先を目指して歩いていく。
しばらくの間、足音のみが響いた。そして、ふと不可解な疑問が思い浮かんだ。
通路には道すがら分かれ道が何か所かあった。適当に前へ前へと進んだだけだが、まるで
不思議な感覚に
木の根を編み込んで造られた扉を開けば、むせ返るような熱気が流れ込んできた。
「うぅっわ……マジか?」
中央部分に足場が見当たらないのだ。悠真達が立っている場所と、
足場がない部分を
寄れば寄るほど、肌が焼きつくような痛みを与えてくる。
「ここは橋も何もねぇし、進めねぇだろ。飛んでどうにかなる距離じゃねぇぞ」
「はあっ? 何よ、この
いつの間にか、エレアが
悠真はエレアの隣に移動しながら
「なんて書いてあるんだ?」
「ここは灼熱の間……先へ進むには、
意味は理解できたが、それでも訳がわからない。
悠真は腕を組み、首を
「なんだ、そりゃ……」
「わ、わからないわよ」
エレアの言葉が終わるや
「なっ――」
通ってきた扉が
「
「嘘でしょう!」
同じタイミングで、悠真はエレアと
扉のあった場所へと駆け足で向かい、現状の
完全に
「一度選んだ場所からは、引き返せない……?」
「命運を分けるって、そういうことか!」
悠真は後ろを振り返り、マグマがうねる
どう考えても、手を
なんの感触も
これが仮に、台座にあった通りの行動を起こせばどうなるのかが気になる。異性と手を繋ぐのに
悠真は、エレアにそっと手を差し出した。
「エレア、ちょっと手を貸してくれ」
「は、はあ? お前、頭おかしいの?」
「いや、いろいろ試さないとわからないだろ」
「
エレアの
そこまで全力で
そんな悠真をよそに、エレアは
「だって、私の手は……」
悠真は、はっと思いだした。
秘術を扱えなかったエレアだが、剣術に関しては目を見張るものがある。
秘術を扱えなかったからこそ、別の
そうしていたとわかる結果が、彼女の手のひらには深く
その〝傷〟に
悠真は溜め息を吐き、エレアの手を素早く
「なっ、なぁ――?」
「そんなの、気にしなくてもいいんだ。お前の手のひらにあるマメやタコは、お前にとっての努力の
エレアが引き
「いや、お、おぉ、お、お前――ちゃんと理解しているわけ?」
「おい! ただでさえ暑いのに、手を振るんじゃねぇよ」
「
「こっちは恥ずかしいのを
真っ赤に
「……う、うん」
「だったら、暗示通りに確かめてみるぞ」
エレアは力を抜き、指を
それはそれで、今度は悠真のほうが手を離したいと思う。気持ちが悪いと言われた日には、立ち直れそうにもない心境であった。
悠真は必死に
悠真が踏んでいる周辺には、その淡い光が
「ど、どういう原理なんだ、これは……」
「きっと条件で発動する秘法が、この空間には込められているみたいね」
悠真は
「秘法って、そんなこともできるのか」
「私も、そこまで深くは……でも、
(
胸中で
石橋を
「よし。行くぞ!」
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