第二十幕 生きている実感
「はい、なんでございましょう」
耳を寄せてくるエレアの
理解不能な対応をされたものの、今は
「あいつはもう、
目を
「あいつが、攻撃の秘術を、
「そ、そんな……私には無理でございます」
「それでも、やるんだ!」
悠真は気力を振り絞り、ぎこちなく立ち上がっていく。
魔導生命体もまた、気力を振り絞ったかのように動き始めた。
「
「悠真さん、無理は……」
シャルを手で制したあと、悠真は
「いいか、これが最後だ。俺がここでおとりになる。あいつの死角からやれ」
「でも、私は…」
不安そうなエレアに、悠真は
「大丈夫。見返してやるために、凄い
「えっ――」
「そんな必死に、剣術を
エレアは
「わかりました」
言ってから走るエレアの後ろ姿を、悠真は見送る。
実際、成功するかどうか未知数ではあるが、ここは彼女を信じるほかない。あとは自分が
悠真は、
「シャル、
シャルは
「
「ちょ、待て、シャル」
悠真の制止を振り切り、シャルはエレアと反対方向へ駆けていく。
後を追おうとしたが、足が想像以上に動かない。悠真は足が
「エレアノールさん。魔導生命体が、攻撃系統の秘術を私に当てたときに……秘術を発動して切り裂いてください。必ず、私が一瞬でも動きを止めてみせますから」
シャルの言葉に、悠真は耳を疑う。
地に
進めなかった悠真は、腹の底から声を絞り出す。
「何を言ってんだ、シャル!」
シャルが目を閉じたあと、今度は力強い眼差しで魔導生命体側を
「
シャルの体から青い
「我が秘力を
二つの紋章陣が強く輝き、そこから二体の見覚えのある存在が登場した。
「なっ――」
「やあ、シャルお姉ちゃん」
ヨヒムが満面の笑みで言った。隣にいるニアは、不満げな顔をしている。
「だからここには近づくなって言ったのに!」
「ご、ごめんなさい……」
シャルは気まずそうに、
「まあ、今はそれどころじゃないね。早くしないと秘力が
「わかっているけど、言わずにはいられないでしょう。もう!」
ヨヒムとニアが手を
シャルの体のところどころに、二つの紋章陣が撃ち込まれていく。
ヨヒムが悠真のほうに顔を向け、にっこりと笑う。
「悠真お兄ちゃん」
「シャルお姉ちゃんを、よろしくね」
そう言ったニアが、微笑みながら小首を
どちらも、空気に
悠真は、訳がわからない心境だった。
(ヨヒムとニアが、精霊……?)
シャルは魔導生命体との距離を縮め、目前で両手を広げた。
「私はここよ。秘術を撃ってきなさい!」
シャルの信じられない行動に、今度は自分の目を疑う。
「な、何をしてるんだ! シャル!」
魔導生命体が、
死角にいるエレアは目を閉じて、静かに集中しているようだ。
「えふん、えふん、えふん、えふぅん」
魔導生命体の付近に、青い紋章陣が浮かんだ。
「エレア、急げ! シャルが危ない!」
悠真はかすれた声をあげた。力を振り絞り、わずかながら
エレアが秘術を発動するよりも前――魔導生命体が
強力な放水を思わせる青い
シャルの体を無残にも撃ち抜いた光景に、悠真は腹の底から叫ぶ。
「シャル――!」
シャルの全身からまばゆい光が
間近で
悠真がかろうじて目を細めて耐えたとき、エレアの声が飛んだ。
「
激しい
エレアは剣を斜め下に構えて、魔導生命体のほうをじっと
(なっ……!)
静かに驚愕する悠真は、目を疑いながらエレアの姿を探した。位置的にはシャルがいた少し先のほうで、彼女は魔導生命体に背を向けて
しかしそのシャルの姿は、もうどこにも見当たらない。
少し遅れて、けたたましい
「やった……できた。やった!」
エレアと同じく、シャルもどこかにいるのでは――そんな期待を
「シャル、ごめん……」
「はい。どうかしましたか、悠真さん」
聞き覚えのある声に息を呑んだ。
悠真は頭が真っ白になる。シャルが、真横で
「え? あ、はぁ? なん、で?」
「秘力、全部使い切ってしまいました。しばらくは、もう何もできません」
シャルと会話が
「いや、そうじゃなくて……」
「撃ち抜かれた私が、見えましたか? ふふっ――あれはニアとヨヒムの精霊術で、本物の私はずっとここにいました。エレアノールさんはわかっていましたよ」
悠真は
へたり込むように、シャルの隣に座り込んだ。まだ体力が回復していない。たったこれだけの動作でも、かなりの労力を
悠真は自分とシャルに向け、どっと深い溜め息を
「なんだよ、それ……先に言っておけよ。どれだけ心配したと思ってんだ」
「私だけですか? 悠真さんも心配ばかりかけるので――」
やや上目に、シャルがいたずらな笑みを浮かべた。
「仕返しにやってみました」
その
「ねぇ! ねぇ、ねぇ、ねぇ。見た? 見ていた? 私、秘術を発動できたの!」
子供みたいにはしゃぐエレアが、
「やった、やったよ!」
エレアが数歩先で立ち止まり、はっと息を呑んだような表情を見せた。素早く
「失礼いたしました。今までの数々の
悠真はぼんやりとしながら問う。
「何やっとんの、お前」
「闇の精霊王に信頼していただいたお
悠真はそれとなく状況を呑み込めた。理由まではわからないが、どうやらエレアは悠真を闇の精霊王そのものだと
この展開を、悠真は少しおもしろく感じる。
「うむ。
声を意識的に低くして、悠真はエレアをからかった。
エレアは心の底から
「もったいない、お言葉でございます……」
今までのエレアとはまるで違い、
悠真は内心でにやにやとしながら、低い声で続ける。
「これからは、久遠悠真の言葉に全信頼をおくがよい。疑ってはならん、決してな」
「はい。
「だが、我を
「
「ぷぁっはっはっはぁ」
耐えきれず、悠真は
混乱に満ちた顔をして、エレアが右に左にと何度も小首を
「マジかよ、お前。あの御貴族様が、すげぇ
「えっ……は、なぁ?」
「俺が、闇の精霊王ガガルダそのものなわけねぇだろ」
全身に
エレアは
「マジ、笑ったわ。それ、どういった
「だって、あれ、え、でも、闇の精霊王じゃ……」
「説明しづらいからあれだが……確かに、闇の精霊王とは無関係ってわけじゃない。でも、俺は久遠悠真だ。精霊王そのものじゃない。んなわけないだろ」
エレアの
「お、おぉ、お、おお、おぉ」
「はい、
「お前、私を
半泣きの
悠真はからからと笑いながら、またエレアをからかっておく。
「お前が勝手に勘違いしただけだろ。しっかりと心得とけよ」
シャルもくすくすと笑っているのが聞こえる。
地球にいた
こうして人と出会い、死ぬ
異なる世界に来て、悠真は生きている実感を強く感じているのに気がついた。
「くっ、くそぉおおお――!」
本日二度目の、女が上げてはならない
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