第13話 没落した帝王

「それで?クランに入るにはどうするの?」


 昼食をとった後、シルヴァとシャルロッテは繁華街を並んで歩いていた。


「まずは、ギルドで入団申請用紙を貰うことね」


 ギルドに到着。申請用紙はギルドの中の棚に入っていた。とても記入項目の多い紙だと思った。


「別に項目全てが必須じゃないわよ。年齢とか性別とかは別に書かなくてもいいの」

「それじゃ必須なところは?」

「赤線が書かれている所よ。名前、誕生月など色々ね」

「誕生月?日じゃなくてか?」

「その月1ヶ月間はギルドから特典が出るのよ。ダンジョンの入退場無料とか」

「あー……なるほど」


 シルヴァはダンジョンの入口で金額を請求されたと時に、クランに所属している場合は一括払いだと言うことを聞いたことを思い出した。


「それと、これがちょっと面倒なんだけどね……」

「なんだ?」

「クランの人間三名以上の許可が必要なのよ。私は喜んで協力させて貰うけど、あの子達が協力してくれるかどうか……」

「心配事でもあるのか?」

「うん……まぁとにかく、私のクランへ行きましょう。話はそこからね」


 そのままシルヴァとシャルロッテはギルドを後にした。そこから、シャルロッテのクラン……桔梗の飛龍へ向かうのだが……


「なぁ、さすがに遠くない?」


 ギルドから歩いて一時間。そこが、クラン“桔梗の飛龍”の本拠地であった。

 

 外見は宮殿……のようであった。だが……


「なんか……うん、まぁって感じだな」

「う……うるさいわね。修理はできないけど綺麗さは保証するわ」


 経費に余裕がないのか、所々の破損箇所がそのまま放置されていた。


「ただいま」


 入口のドアを開けて、シャルロッテが先に入る。


「おかえり。ちゃんと謝った?」


 迎えたのは、優しそうな顔を浮かべる青年……シルヴァより外見で見れば歳上のような人であった。


「ん……いや、それがね。その……」

「どうした?」

「その人に色々助けられたのよねー」


 シャルロッテの目が泳ぐ。青年が、頭を抱えて顔をあげた時、シルヴァと目が合った。


「あ、どなた?」

「初めまして。俺はシルヴァです」

「これはどうも。俺はゼラっていいます。シャル、彼がその人か?」

「あ……うん。それでね、彼……このクランに入りたいって言ってるんだけど……」


 その時、ゼラの顔が明るくなった。優しそうな顔から喜びに溢れた顔になっていた。


「え、それ本当!?」

「ええ……彼いわく面白そうだからって事なんだけど……」

「あー、じゃあ今許可をもらいに来たってことか。……うん。取り敢えずシャルを助けてくれた恩もあるし、俺は喜んで協力しよう……だけどなぁ」

「ええ……団長が辺境調査に向かっている今、あの子達のどっちかの協力が得られないとなんだけどねぇ」

「あいつらが他人、ましてや異性を受け入れたことがないからなぁ……まぁ俺からも色々と言ってみるけど」

「なぁ、そのあの子達って誰なんだ?」


 重々しく口を開いたのは、ゼラだった。


「俺の妹達だよ……」


 ◆◇◆


 シルヴァが拠点の中に招かねる。そして、円卓でシャルロッテ、それからゼラと向き合った。


「まず、入団希望してくれてありがとう。ここ最近ほとんど……というか入団希望者は誰一人として来なかったんだけどね。それで、クラン員として共に過ごしていく以上、色々と聞きたいことがあるんだ」

「俺に答えられる範囲でいいなら、なんでも聞いてくれ」

「助かる。それじゃあ、冒険者試験の成績、それと今までで倒した魔物の中で一番手強かったのを挙げて貰えるかな?」

「冒険者試験の成績は……筆記25点で実技42点だったな」

「ん?25点?」


 ゼラとシャルロッテがボソボソと話し合う。シルヴァは、今まで戦った魔物で一番手強かったのはどれだったか考えていた。


「おかしいな……筆記は偶数点になるはずなんだけど……まぁいいか。それで、魔物で一番強かったのは?」


 シルヴァは考え込む。を挙げるべきか、それともを挙げるべきか。


 だが、ゼラが言ったのは後者なので、やはり言われた通りにするべきだろうと判断する。


「一番手強かったのは、巨灰毒ポイズンスネーク・アッシュだったな。あの毒が厄介だった」

「なるほどね……ちなみに証明できる物はある?」

「これでいいか?」


 シルヴァが叡黎書アルトワールから取り出したのは、巨灰毒ポイズンスネーク・アッシュの目玉だった。握りこぶし大の目玉が円卓に置かれる。


「ちょっと失礼」


 ゼラは、懐から希少級の鑑定道具を取り出した。小型のルーペのようなものだった。


「……うん、確かにこれは巨灰毒ポイズンスネーク・アッシュの目玉だ。これを討伐できる程の実力があるのなら、ここのクランも大歓迎だ」

「それはどうも。だが、まだ二人からしか許可を貰ってないんだが」

「うーん」


 ゼラが悩む。すると、シャルロッテが何かを耳打ちした。


「うーん、じゃあ今日はここのクランに客人として泊めようか」

「客人として?」

「基本的にクランに所属していない人が泊まるのはタブーなんだけど……まぁ妹の内どっちかの許可さえ貰えればクランに所属出来るから、そこはギルドに目をつぶってもらおうか」

「そうか」

「それじゃあシルヴァ……シルヴァでいいかな?」

「あぁ」

「シルヴァはゆっくりしていてよ。夕食が出来たら運んでくるから」

「完全自炊なんだな」

「まあ……四大クランともなると専属の料理人がいるんだけどね。でもお金がかかりすぎる。零細クランとしてはそんなの雇っている余裕なんてないんだよ」

「それで、その妹さん達は?挨拶くらいしておきたいんだが」

「二人は今ダンジョン。夜には帰ってくるんじゃないかな?」

「そうか」

「まぁ料理に関しては心配しないでいいよ。俺料理作るの得意だし」

「それは楽しみだ」

「じゃ、失礼」


 そう言い残して、ゼラとシャルロッテは円卓の部屋から出ていった。一人残されたシルヴァは、ふと、部屋に沢山の賞状、盾、トロフィーが飾られているのに気づいた。


 歩み寄り、じっくりと見る。


 そこに記された文字は、“年間魔物討伐数一位”や、“第34回クラン戦優勝”など、華々しい数々であった。


「なるほど……ここは没落する前はかなり有力クランだったんか……そうか」


 シルヴァが嗤う。


「没落した帝王。いーい響きだ」


 シルヴァが両手を宙に掲げる。叡黎書アルトワールが独りでに現れ、自動的にページが捲れる。


 妖しく燃える紫の炎が、シルヴァを照らした。

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