運命の修学旅行

 次の日。東京駅に集合した俺達は京都に向かうため、新幹線に乗り込んだ。

 修学旅行ともなると、新幹線の車両が貸し切り状態になる。こんな状況を楽しめるのも今だけなのかもしれない。各クラス、割り振られた車両に向かい、指定の座席に座る。

 俺達二組の座席は、班が一緒の人間と近ければ基本どこでも良いと新一は言っていた。

 新幹線は一列が五席あり、三席と二席に通路を隔てて分けられている。ちょうど男子二人女子三人の俺達の班はすんなりと席に着けた。三席側には当然女性陣が座っている。


「大輔。大丈夫か?」

「大丈夫。新一こそ、大変だな」

「わかってたことだよ。今日が勝負だもんな」

「ああ」


 三席側には笑顔で会話を交わす藤川と東條さんがいた。一方、山中さんは窓側を陣取ってずっと外を眺めている。


「今日、伝えるのか?」

「何を?」

「何をって、葵ちゃんに。未来予報のこと」

「……少し迷ってる」


 正直、伝えないまま東條さんを救うことが一番なのではないかと思っていた。でも、もし伝えないまま東條さんが死ぬってことになったら。


「俺は伝えた方がいいと思うぜ」

「新一……」

「京都駅に着いたら、そこから直ぐに班行動だろ? タイミング見て、二人きりになった時に話せばいい」

「でも、藤川と山中さんはどうするんだよ?」

「そんなの俺にまかせとけ。山中さんは協力してくれると思うし、藤川は……どうにかするよ」


 そう言って、笑う新一が本当に頼もしく見えた。

 新幹線は定刻通り東京駅を出発した。特に騒ぎもなく、皆それぞれが各々の席で会話を弾ませている。氷山高校の生徒は、基本的に真面目な生徒が多い。生徒の自主性を重んじた、規律のある高校を目指しているだけはあるのかもしれない。特に馬鹿騒ぎする生徒もいないまま、新幹線での旅が始まる。

 新一は出発早々俺の隣で寝始めた。生徒会の仕事で疲れているはずだ。無理もない。それに京都に着いてからが、生徒会にとって本当の意味で忙しくなるはず。

 ポケットの中のスマホが震えた。俺はスマホを手に取る。画面を見ると高木からメッセージが届いていた。


『デッキに出てこれるか?』


 何か言いたいことでもあるのだろうか。とりあえず高木に返信をして、俺は席を立ってデッキに向かう。高木は既にデッキにいた。


「高木」

「おう。葵の様子はどうだ?」

「東條さんは、今のところ何の問題もない。藤川と楽しく話してたから」

「そうか。ならよかった」


 笑顔の東條さんに、特別変化は見られなかった。今のところ問題はない。


「今日は朝からありがとな」

「ああ。それは問題ない。久しぶりに葵と一緒に電車乗ったよ」


 昨日、高木に一つだけ頼みごとをしていた。東條さんと一緒に来てほしいと。


「手間かけて悪かった。未来予報だと京都で起こるってなってるのに」

「いいって。用心に越したことはないだろ? 秋山の判断が正しいよ。それに、俺は秋山達に協力するって言ったし。まあ、今回は葵が絡んでるから絶対に協力するけど」

「うん……ありがとう」


 最初はとても堅実で自分の意見を曲げないのが高木だと思っていた。だけどこうして話してみると、物事の判断がしっかりできる良い奴だと知ることができた。


「それより、今日はどこ行く予定なんだ?」

「ああ。とりあえず着いたら、銀閣ぎんかく寺に行くって聞いたかな」

「秋山は場所決めに参加しなかったのか?」

「まあ、そんなところ。女性陣……特に東條さんが張り切って決めてたから」

「葵は京都が大好きだからな」

「そうなの?」

「ああ。中学の修学旅行で京都に行った時も、やけにはしゃいでいたからな。まあ、俺が一緒に行動してたってのもあると思うけど」


 そういえば、東條さんと高木は同じ中学だ。幼馴染なんだから東條さんのことを知っているはず。そんな当たり前のことなのに、今の俺は高木に対して嫉妬しているのかもしれない。少しだけ、高木が羨ましく思えた。


「それより、今日は頼んだ」


 高木は俺の肩をぽんっと叩くと、自席のある車両に戻っていった。

 アナウンスが流れる。

 もうすぐ品川に到着とのことだ。

 絶え間なく流れ続けていた景色が徐々にはっきりと見えてくる。

 今日は東條さんから目を離さないようにしないといけない。

 それに、自分の気持ちの決着もある。

 東條さんに伝えることが二つもある。

 もしかしたら、どちらも辛い結果になるのかもしれない。それでも新一が言った通り、俺が伝えなくちゃいけないんだと思う。

 言わないと何も始まらない。

 未来予報についてだって自ら行動した結果が実を結んだ。それが今日に繋がっている。

 だからこそ集大成となる今日、全てに対して答えを出す必要があると思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る