四人の関係
始業式のある今日は午前授業で解散となる。午後は部活動に行く人は部活に向かい、帰宅する人はそのまま帰宅する。どこの高校でも見られる二学期最初の光景。
俺の通う私立
生徒の自主性を第一に考える校風を氷山高校の伝統として、先代の生徒会長は『生徒の独立性と自由』をテーマに学校を引っ張ってきた。その自由な校風が人気を博し、氷山高校での学校生活を目指す中学生が多いらしい。
今までの生徒会長が、生徒をしっかりまとめてくれていたからよかったのかもしれない。だけど今年の生徒会長に、先代の生徒会長のような働きを求めるのはあまりにも酷な話だ。期待の二文字よりも、むしろ不安の二文字の方がお似合いな奴だから。
「さーて。帰ろうぜ、大輔」
「今日は生徒会じゃないのかよ」
「今日は俺の権限で休み」
「また副会長に怒られるんじゃないの?」
「別に。関係ないって」
今朝泣きついてきたのが嘘のように、晴れ晴れとした表情を晒している。本当に危機感を抱いているのか、疑問で仕方がなかった。
「佐藤。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
声のする方に視線を移すと、ショートカットの女子が立っていた。負けん気が強くてスポーツ万能。クラスのムードメーカーと呼ばれているのも納得できる。腕組みして俺達の前に仁王立ちしているのは、
「えっ。大輔じゃなくて俺なのか?」
「そ、そうよ。生徒会長のあなたに用があるの」
気の強い藤川が、少し恥じらいを見せている。
「おい、大輔。今の聞いたか。ついに俺の時代が来たかもしれない」
「大袈裟だ。どうやらお前の肩書に用があるみたいだな」
「別に肩書きだけじゃ……そ、そうよ。肩書に用があるのよ」
目の前の藤川はしきりに腕をさすっていた。
高校一年生の時からそうだったけど、藤川は自分に似合わないことをする度に腕をさする仕草をみせる。おそらくこれは藤川の癖なんだと思う。緊張感のない新一には絶対気づけない仕草だ。
「それで、用って何なの?」
「じ、実は……」
言いたくないことなのか、新一の問いに戸惑いをみせる藤川。明らかに何かを隠していることが手に取るようにわかった。
「何だよ。言わないのかよ。うるさいだけが取り柄の癖に」
「ちょっと新一。言いすぎだ。前見てみろ」
俺達の目の前で、藤川は俯いたまま顔を上げようとしなかった。手には握り拳が作られている。
「……帰る」
藤川は踵を返すと、そのままドアの方に向かっていった。
「美紀!」
そんな藤川の行く手を遮るようにドアの前に現れた人物。同じクラスの
肩で切りそろえた艶やかな茶髪が印象的な女子。その屈託のない笑顔は癒しを与えてくれる。それに東條さんの人気は教室内だけでなく、学年でも一、二を争う美少女だと男子の間でも有名だ。
「葵……」
「なーに。また喧嘩でもしたの?」
「だって、アイツが」
俺達……いや、新一に向けて人差し指を向ける藤川。
「俺は何もしてないよ。葵ちゃん」
「嘘つき。暴言吐いたくせに」
「それは、藤川がはっきりしないから」
二人は再度言い争いを始めてしまった。放課後ということもあり、教室内が閑散としていることがとてもありがたい。
「もう、素直じゃないんだから。美紀は」
「そうだね」
隣に歩み寄ってきた東條さんは、二人の言い争いを止めることはしなかった。東條さんもわかっているんだと思う。
「喧嘩するほど仲がいい、か」
「美紀は嘘つけないタイプだから。たぶん、佐藤君に自分の気持ちを言いたかったんだけど、上手く話すことができなかっただけなんだと思う」
俺達四人は高校一年生から同じクラスだった。藤川と新一は入学当初からよく言い争いをしていた。だからこそ止めたほうがよさそうな喧嘩も、今となっては安心して傍観することができる。そんな信頼をおける二人に巻き込まれる形で、俺は東條さんと出会った。それから今日まで、何かと四人で過ごすことが多くなった。
「それで、藤川の言いたいことって何だろう。告白かな?」
「私も知らないの。悩んでいることがあるって言われたけど、美紀は詳しいことを教えてくれなかった。けど、私もそうかなって思う」
「でも、流石に俺達がいる前ではないか」
新一の前で話せなくなるくらいだ。周囲に人がいたら、尚更言いにくいと思う。
「あー。もういい。葵、部活行こう」
新一の元から戻ってきた藤川は東條さんの手を取った。
「ちょっと待った。葵ちゃん」
新一は東條さんを呼び止めた。藤川がしかめっ面になる。
「葵。私先に行くから」
「うん。わかった。また後でね」
新一を睨みつけた藤川は、東條さんの手を離すとそのまま教室から出て行った。
「ほんと、美紀は素直じゃないんだから」
ため息を吐いた東條さんは新一に視線を向けた。
「それで、何かな?」
「ぜひ葵ちゃんに生徒会に入ってほしいと思って」
「生徒会かー」
東條さんは少し考える素振りを見せる。暫くすると、俺の方に視線を向けてきた。
「前から気になってたんだけど、秋山(あきやま)君は生徒会に入ってるの?」
「まさか。俺は委員会も部活もやってない。そういうのに興味がないから」
俺の高校生活は探し物を見つける為にある。無駄な労力を学校の為に使いたいと思っていない。
「でも、佐藤君と生徒会の仕事についてよく話してるよね」
「それは新一が相談してくるからで……仕方なくやってるんだよ」
「へー。そうなんだ。優しいんだね。秋山君は」
東條さんの言葉が胸を突いた。高揚感に満たされていく。
「そんなことより大輔が生徒会に入れば、葵ちゃんは入ってくれるの?」
「んー。考えてもいいかな」
「えっ?」
驚愕の発言に、東條さんから視線を逸らすことができなかった。迷いなく放たれた言葉に、胸の高鳴りが止まらない。
「冗談……私、もう行かないと」
じゃあねと言い残して、東條さんは足早に部活に向かっていった。
教室内が静寂に包まれる。いつの間にか、教室には俺と新一の二人しか残っていなかった。
「よし、大輔。お前は今日から生徒会のメンバーだ。書記の位置を用意してやる」
「ふ、ふざけるな。俺は興味ないって言っただろ。絶対に入らない」
「わかってるって。とりあえず、生徒会室に忘れ物したから付き合ってくれ」
「……ああ」
新一の言葉に耳を傾けるのがやっとだった。それくらい東條さんの投下した爆弾の威力が大きい。東條さんはどうして意味深な発言をしたんだろうか。
「……輔、大輔!」
「ん……ああ」
「聞いてるか?」
「ごめん。聞いてなかった」
意識が東條さんから離れていかない。少しでも沈黙があると、さっきの言葉の意味を考えている自分がいる。
「あれだな。葵ちゃんが生徒会に入ってくれれば、嫌でも注目をされること間違いなしだよな。生徒会の評判も良い方向に広まるってわけだ」
「……っておい。まさか東條さんを人気があるからって理由だけで、生徒会に誘おうとしているのかよ」
「半分はそうかもしれない……でも葵ちゃん真面目だし、性格も良いから。皆から支持される生徒会役員になると俺は思うぜ」
「誰かさんとは違うな」
「うるせー」
新一との会話が何故かとても安心できた。意識を東條さんから遠ざけることができる。ただ、心の中にしこりが残っている感じがして、気持ちが落ち着かなかった。
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