FS~ミライシークレット~

冬水涙

プロローグ

通学路の秘密

「通学路には、誰にも知られることのない秘密があるんじゃ」


 病室暮らしが続いていたじいちゃんのお見舞いに行く度に、その言葉を言われた。まさか耳にたこができるくらい聞かされたことが、じいちゃんと交わした最後の会話になるとは。その時の俺は思ってもみなかった。

 小学生の頃、既にじいちゃんは体調を崩して入院していた。そんなじいちゃんに元気になってもらおうと、毎日のように病室に通った。よく遊んでいた友達と一緒に病室に押しかけ、学校の出来事を話す。そんな俺達の会話をじいちゃんは笑顔で聞いてくれた。看護士に注意を受けるくらいにぎやかだったじいちゃんの病室は、病院内の空気を明るくし続けていたと思う。

 でも、そんなにぎやかな空気は中学校に進学してから跡形もなく消えた。俺が友達とは違う中学校に進学したことで、一人でお見舞いに行くことになったから。それに、身内のお見舞いに他人を誘うことに躊躇いが生じたのも大きかったんだと思う。じいちゃんの病室に訪れる回数は、当然のように減っていった。

 そんな俺の状況と重なるように、じいちゃんの病状も日を追うごとに悪化していった。次第にじいちゃんから元気がなくなり、会話すらまともにできない状況まで病状が悪化した。


 そして、高校入学一ヶ月前。じいちゃんは亡くなった。


 来るべき時が来たんだと思った。じいちゃんは百歳近くまで生きたから。人として立派な人生を歩んだはずだ。だからこそお通夜の時も、お葬式の時も、俺の目からは涙は出てこなかった。でも、じいちゃんが亡くなってから数日が経ったある日、俺は一つだけ後悔していることがあるとわかった。


 じいちゃんがずっと言い続けていた言葉の意味。


 どうしてじいちゃんは、俺に同じ言葉を言い続けたのだろうか。気になって何回かじいちゃんに聞いてみたことがあった。しかしじいちゃんは、俺の問いに対して正確な答えをくれなかった。


大輔だいすけは知らなくてもいい」


 詳しいことを聞こうとすると、いつも決まった言葉ではぐらかしてきた。それでもしつこく聞き続けた俺に、じいちゃんは二つだけ答えてくれた。

 高校生の頃にその秘密に出会えたこと。帰り道で見つけたこと。しかし決して秘密の正体については教えてくれなかった。

 だからかもしれない。じいちゃんが亡くなった一ヶ月後に迎えた高校の入学式の時から、通学路の秘密について俺は探し続けている。

 じいちゃんの語っていた言葉の意味を知るために。

 遺言のように自分の耳にこびりついた蟠りを、きれいさっぱり取り除くために。


 何となく、それがじいちゃんに対しての手向けになる。そう俺は思っていた。

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