第21話〜始まる世界と次元を超えた者たち〜



「ダメだ、捌ききれない……!!」

スズメバチの巣でも攻撃したかのような、敵の多さに愚痴をこぼす仁。

「なぁ菅野、俺、暴走したことあるか?」

文明の利器、ナノマシンの先にいる開発者に尋ねる。

『覚えてないかもだけど、吾輩の記憶にはあるぞ。』



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暴走という言葉がある。

正確な意味を知らなかったので、辞書で調べてみた。

むやみに乱暴に走ること、と辞書には書いてある。

ここでまた、疑問が生まれた。

むやみに暴力に走る遊部の人々は、常に暴走しているということで、いいのだろうか。

疑問は、永遠に続いていく。



俺は今までに、沢山の人を失ってきた。

最初に失ったのは、俺を心配させまいと激痛に耐えて、最期まで笑っていた家政婦さんだった。

笑っていた人が、なにも喋らない死体になった時のことは、今でも忘れられない。

そして間髪入れずに両親が命を奪われ、俺も能力者になって、普通の生活を送ることができなくなった。

それから数年後、時間が過去の出来事を癒し始めた頃、今度は友人を目の前で失った。

少女を人質に取られ、政府に協力を強いられたが、仲間を守ろうと、自らの命を犠牲にした鷹。

それから数年。絶対に死なないだろうと思っていた緋音が、呆気なくこの世を去っていった。

現実は非情だ。人と一緒で、優しいのは上辺だけ。中身は常に泥々で、見ていた夢を簡単に汚してくれる。

やはり、人が死ぬことには馴れない。

いや、慣れちゃ駄目なんだ。

そう思っていた。

思いたかった。

思うしか…なかった。



覚醒能力者の話をしよう。

本来、能力者というのは、極限の怒りや悲しみなどの感情をスイッチに、体や脳の細胞に変化が生じて、身体能力の強化や能力を持つようになった、新人類だ。

そして、更なる進化を秘めた者こそ、約3%くらいの確率で誕生するという、覚醒能力者だ。

手っ取り早い例を見てみよう。

突如、刀をどこからか取り出し、それを自在に操る技術と身体能力を持つ、仁という能力者がいる。

彼は敵との戦闘で重傷を負い、今にも息絶えそうという所で能力が進化し、「全てを消し去る波動と、全てを断ち斬る刀」、それとおまけとは言えないレベルの回復能力を獲得し、敵を消し去った。

その時に亮真は髪が銀髪になり、瞳には“炎のような色の光”が宿っていた。

菅野が詳しく調べても、ある程度のとこまで調べると、あとは全く調べることができなくなっている。

そして、次に遊部で覚醒したのは、姉を失った悲しみで覚醒した涙音だった。

え、黒成は違うのかってぇ?

黒成は生まれた時から能力者で、能力で辺り一帯を吹き飛ばした後、能力使用時の衝撃に体が耐えれるようになるまで、本能的に力をセーブしていたのだ。

なので黒成は、最強の最弱キャラだったと言えるだろう。

話を戻そう。

涙音は覚醒した時、「本能的に腕を振るって、自分の頭の中でイメージした物を創り出して」いた。

あの時……そう、その時の瞳は、“澄んだ海のような青色”だった。

そして、次に覚醒したのが、一度は絶命した緋音であった。

上半身の左側、全身の4分の1を失い、おびただしい量の血液を流していたが、覚醒直後に血液が集まり、甲殻のような新たな肉体を形成し、“敵の能力を封じながら”、敵を殺した。

そして、菅野との最後の会話では、人肉が食べたくて仕方ないと言っていた。

覚醒能力者は、一応は仁が初だと思われるが、覚醒後の見た目を維持しない所を見ると、まだ発展途上なのかもしれない。

実は、地球に宇宙船がやって来て以来、各国で覚醒能力者と思われる存在が、次々と確認されている。

その大半は仁と同じ、“一時的な覚醒がほとんど”で、緋音や涙音のような継続タイプは、ほんの一握りしか確認されなかったという。

そして、地上に降り立った、敵の大将。

彼は仁と戦い、その時に意味深な発言をしている。

能力者を“兄弟”と呼び、覚醒した仁を“更に進化した者”と、言っていた。



先の戦闘で壁に叩き付けられて、崩れてきた瓦礫に埋もれた仁。

仁が埋まっていそうな場所に、六花は声をかける。

「大丈夫か仁ー?」

ここで一つ、冒頭で言っていたことを思い出してくれ。

六花の右肩に、刀が突き刺さった。

「えっ…?」

私は冒頭で、暴走という熟語を、紹介していたよな。

爆音と共に瓦礫が吹き飛び、衝撃で刀を抜かれながら、六花も一緒に吹き飛ばされた。

暴走の意味は、むやみに乱暴に走ること、と書いてあったよな。

紅き波動を身にまとい、風もないのにゆらゆらと蠢く銀髪と、猛毒を連想させる紫色の瞳が、静かに立っていた。

驚いて振り向いた黒成は、仁の姿を見てゾッとした。

「な、なんだあの仁?!」

表面上の変化は、あまりない。

しかし、空気が違いすぎる。

「早く離れろ六花!あの波動に触れたら、分解されるぞ!」

バリアーの準備だ!と素早く菅野が言う。

六花はすぐ、菅野達の下に走り出した。

地を蹴って前へ進む。

六花と仁の距離は5m程。

対して、六花と菅野の距離は10mある。

六花は50mを、5秒で完走する脚力を持っている。

単純に計算して、10mを1秒で走っていることになる。

六花が走る。

その後ろに、手を伸ばせば届くような距離で、仁が走っている。

「今だ!」

菅野が合図をした直後、ちょうど六花と仁の間にバリアーが発生した。

パキィン、とカン高い音が響き、仁の動きが止まる。

息を整えながら、六花は仁を見る。

「いったい…仁は、どうしちまったんだ…」

仁はコンコンとバリアーを叩いたり、触りながら、静かに立っていた。

「どうやら、感応したらしい」

感応?と六花が言った…突如、仁の拳がバリアーを突き破った。

「マジかよ!?」

ビリビリとバリアーを引き裂き、ニヤッと仁は笑った。

「撃て黒成!仁を撃つんだ!」

はぁ!?と言う黒成に、いいから撃て!と菅野が叫んだ。

どうなっても知らないぞ!と黒成が叫ぶと、手首に装着していた能力制御機のリミッターが解除された。

「メガッビィイイイイム!」

突き出した両手から、地球を簡単に滅ぼせるエネルギーの光線が発射された。

対して仁は、波動を前面に集中させて、ビームを拡散させていた。

波動で軌道を逸らされたビームが、周りの地形をみるみる変えていく。

「ああ…俺の土地が一瞬で荒れ野原に…」

「感傷に浸ってる場合かー!」

見ろ!と六花が指差す。

仁はビームを受けながら、少しずつ前進しているのだ。

「どうすんの菅野!?」

「こうなったら、まだ残ってるリミッターを全て解除して、黒成の真の力を使う!」

菅野が言うと、全てのリミッターが解除された。

「いけぇ!フルモードだ!ゲッ◯ービームとシャイ◯スパークくらい威力が違うぞ!」

「ネタわかんねぇけどわかった!」

と黒成は言って、意識を集中させる為にまぶたを閉じた。

ターゲットは仁。

周りに被害を出さないように、だけど威力を落とさないように。

カッと両目が開かれた。

「ギガッビイイイイイイム!」

今までの倍以上のエネルギーが、一瞬で発射された。

「ぐっぎ…」

仁は踏み留まろうとするが、徐々に波動が掻き消されていく。

「まだまだぁ!」

黒成の掛け声と共にエネルギーが更に強まり、仁の波動が一瞬だけ弱まった。

「ぐっげあああああ!」

黒成のエネルギーをまともに浴びた仁は、そのまま後方へ吹き飛んだ。



仁が目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。

「ここは…?」

「お、目が覚めたか」

仁の視界に、菅野と黒成が現れた。

「なんか、壁に叩き付けられてからの記憶がない…」

「そうかそうか…こっちは研究所が半壊して土地が荒れまくりよ!」

何のことだ?と仁が言うと、菅野はため息をついた。

「暴走したお前は六花を刀で刺して、俺達に襲いかかってきたんだぞ」

仁は、この場に六花がいない理由を知って愕然とした。

「そんな…六花は無事なのか!?」

「それが…」

よーう!と扉を開けて、右腕を三角巾で吊った六花が入ってきた。

「お前…傷は大丈夫なのか?」

「ああ、肩のこと?」

そう言って六花は三角巾をはずし、包帯が巻かれた肩を見せた。

「思ってたより浅かったみたいで、安静にしてればすぐ治るらしいぜ」

ちょっと痛いけど、と六花は笑いながら三角巾に腕を通した。

「だが、また戦力が減った…」

そう言って菅野は、パイプイスに座った。

「いま戦えるのは、仁とわぁだけか…」

「すまない、俺のせいで…」

仁は目を伏せた。気にするな、と六花が言う。

しかし、仁の意識は別の所にあった。目を伏せた時に、自身の右腕に赤色の線があることに気付いたのだ。

赤い線は複雑な模様を描き、内部の筋肉が見えているようにもみえる。

「どうかしたのか?」

いや、と毛布で右腕を隠しながら仁は言う。

仁の瞳は、元の色に戻っていた。


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「ぜんっぜん思い出せないわ」

『だろうな!!暴走した時の事覚えてるなんて、それは暴走とはいえないからなぁ!しかも何回も前の前世の記憶なんざ尚更よ!』

困惑する仁に、菅野は明るく返す。

しかし敵の数が多い。

「暴走して、この数捌ききれないか?」

『いや待てそれはそれに対しての被害がデカすぎるから』

やや早口で仁の口を閉じさせて、あ!と声を出す。

『もう少しで秋夜が戻ってくるから、覚醒技でなんとか頑張って』

「あ、ちょ、おい!?」

ナノマシンの先の声は消えて、仁 独りの声がこだまする。

「なんだァ?仲間に見捨てられたか?」

ニヤニヤと笑う緑色の肌の宇宙人。数の多さで押して、仁が仲間から見放されたと踏んだ。飛び掛かろうとするも、足が動かない。いや、踏み出せない。

ズルッ

「え?」

宇宙人の体が足から落ちた。

「な、いつのまに?!」

既に宇宙人の背後に立っていた仁は目を赤く染めて、言い放つ。

「暴走がダメなら少しの間本気出すだけだ」

「はぁ?!まだ本気じゃねぇだと?!」

地面に落ちた宇宙人が叫ぶ。

「あぁ、そうだ……って、あ、そうだ、コレを忘れてたな」

あ、そうだ。を連呼しながら仁は

グサリと宇宙人の頭に刀を突き刺す。

「お前、六花のこと串刺しにした宇宙人だったよな。俺からだがお返しさせてもらうぜってもう聞こえてないか……」

刀を頭に突き刺したまま、地面に落ちている体を蹴り上げる仁。覚醒して通常攻撃さえもチート級になっているせいか、あの時の六花と同じように頭だけが残って、宇宙人の体は遠くに飛んでいった。

『復讐さんきゅー仁』

「六花、見てたのか?」

ナノマシンを通じて六花が話す。

『スナイパーは"見えない"けど"視える"場所にいるのさ』

「そうか、なら秋夜が来るまで援護頼む!」

『任せろ!』

そこからは一方的な殺戮だった。息の合った連携技。息の合った殺戮。復讐劇。


そこへ間も無く秋夜がやってくる。

「お ま た せ」

「遅いぞ秋夜ァ」

所々破れた服装から、彼が激戦区を戦い抜いてきたことが分かる。


そして、緋音と涙音からも連絡が入った。

「これからそちらへ合流する」と。



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