第15話〜世界と次元を超える者たち〜



その日、空は割れて、その割れ目から巨大な宇宙船と、緑色の肌を持つ宇宙人たちが現れた。


「異世界にもこんな美味い家畜どもがいるとはなぁ、しかも能力者がいない世界!まるで滑稽な話だ!!誰も彼もが我々に従うしかないのだからな!!」

これで美味な食糧に困ることは無いぞ、はっはっは!!と笑う宇宙人の偉い人。

異世界に繋げるゲートを開ける能力を持った人間の頭を踏みつけにしながら、高らかに笑っていた。

「我々はお前たち人間に家畜となる猶予を与える!!無駄な抵抗をせず、従えばここで殺しはしない!!10日間の猶予をやる!!それまでに従わなかった者共は、この星と共に死ぬことになるだろう!!」

そう世界中に配信した。

そして緑色の肌色をもつ宇宙人たちは、世界中に放たれた。





その日は、遊部全員で学校の校庭で遊んでいた。

空が割れる瞬間を目撃し、宇宙船や、声明。大量の宇宙人たちを目撃した。

最初に動いたのは、仁だった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

酷い頭痛なのか、頭を押さえて叫ぶ。

そして、彼の短めな髪がみるみると伸び、どんどん白髪になっていく。眼帯の隙間から赤い光がもれていた。

「クソ、がァァぁあぁぁ……!!」

眼帯をスルリと外した仁の瞳は血のように赤く、輝いていた。さらに仁は長く伸びた髪の毛を揺らしながら、腕を真横に伸ばした。

シュンッと音を立てて現れたのは、美しい刀だった。

刀を握りしめた仁は、一人、宇宙人の群れへと突っ込んでいった。

「待て、仁!!」

仲間の声など、聞こえていないのだろう。一人、敵の元へと突っ込んでいった。


「う、ぐぅう、ぅぅ、、、!!」

右眼が痛む。その代わり右眼の視力がどんどん上がっていく……。そしていつのまにか取り出した銃で狙いを定め、敵を撃ち抜いていく。右眼からは赤い血の涙がボタボタと流れ出ている。

六花が今まで使いたくても使えなかった能力。好きな時に好きな銃を取り出して戦える、そんな能力。それが、今、できている。


「うぐ、ぐぅぅぅ!!」

目を見開いて、自分の頬を血が出る程に爪を立てているのは、緋音だった。

「ころ、して、や、る……!!」

赤茶色の瞳は、仁と宇宙人との戦闘を見続けながら、色を赤く赫く変えていく。瞳孔は猫のように細長い。

左目は赤い月のような模様を残したままだが。

緋音の背には巨大なコウモリのような悪魔羽が現れていた。

「殺すッッッ!!」

緋音もまた、宇宙人の群れへと突っ込んでいった。


「ミドリ、ムシ……!!」

涙音も何か思い出したように嫌悪を顕にする。スケッチブックを手に取り、能力が使えた頃の自身の絵を描きだす。描き終え、目を瞑る。光が涙音を覆い隠して、光が消える頃、涙音は再び目を開けた。その目は姉の緋音とよく似た赤い瞳であった。

が、姉のように宇宙人の群れへと突っ込んで行きはしなかった。頭痛に苛まれる他メンバーを見つめて。


「ねぇ、菅野。ボクをサイボーグにしてくれませんかね?」

秋夜は菅野に笑顔で頼み込む。その笑顔はいつもと違う、怒りに満ちた笑顔だった。

「10日間の猶予が有れば可能でしょ?心を読むだけの能力なんかいらないから、ボクに戦う力を頂戴。」

「この頭痛が終わったら全部思い出すハズだよ」

菅野は頭痛を堪えながら秋夜の笑顔に恐怖心を覚えた。

が、やがて全てを思い出し、サイボーグの作り方、武器の作り方なども思い出した。

「よしOKだ、全部思い出した!!我輩らを殺した奴らに復讐といこうじゃないか!!

いいぜ、いいぜェ!!任しとけェェェ!!仁と緋音には悪いが2日間は頑張ってもらおうじゃないの!!」

威勢よく啖呵を切る菅野。

「か、菅野ぉ、タカ見当たらないし、俺様と黒成だけなんか能力覚醒出来ないんだけどォォ……」

疲れたように身体をダラダラと揺らしながら歩み寄ってくるのは火呂と黒成だった。

「タカは多分透明化してるから見えないだけだと思うけど、記憶は全部思い出したの?」

「「思い出してる」」

二人の声が重なった。

「最初に覚醒した時のセリフ言えばなんか分かるんじゃね?」

菅野の提案を聞くと二人は顔を見合わせて、なるほどそうか、と頷いた。

「「じゃあやるか!、せーの!!」」

「あばばばばばばばばばばば!!!」

「俺様覚醒ぇーーーーーーぃ!!!」

シュバァっと強い風が二人を包み込み、

黒成はバチバチッと雷を纏い、

火呂はドラゴン○ボールのように光を纏い、

二人は無事覚醒した。

「できるんかーーーい!!」

菅野のツッコミは虚しく、二人は勢いよく宇宙人の群れへ突っ込んでいった。


「はぁ、あの四人には悪いけど2日間は頑張ってもらおう。」

「そうだな……」

さっきまで会話に参加してなかった奴の声が聞こえてハッと振り返ると、そこにはさっきまで何の音沙汰も無かったタカの顔だけが宙に浮いていて、、、

「ギャーーーーーーーー!!!?」

菅野はビビった。

「心の臓がまろび出るかと思った……」と、のちに話している。

そして、戦闘員四人が前線で頑張っている間の2日間、秋夜は頭以外をサイボーグにささげ、能力を失った。

また、銃を作り、ナノマシンさえも作り上げた。これは注射器にして身体に取り込む方式だ。そして、気づいた。自分の怪我をした箇所が自由に動かせるようになっていたのだ。

それだけではない、治したり相手に移す能力に能力が変わっていた。つまり、傷を自由自在に操る能力。これを使えば致命傷も敵に移せば良いダメージを与えられる!!今までの能力は相手の傷を自分に移すだけだったが、それを超える能力に変わっていたのは十分に素晴らしい!!もしや、他のメンバーも?!

残っている5人にこの事を伝え、ナノマシンと武器を持たせた。

2日と言っておきながら、1日と半分で出来上がらせるのはさすがとしか言いようがない。

これがニッポン人の精神。スゴイネ。




「はぁ、はぁ……!!」

前線で頑張っているのは、四人だけではなかった。

ハゲてるおじさんは予知能力を使って前線で活躍する四人ともう二人に、次の攻撃の指示を出していた。そう、一番最初の大きな事件だった、黒成誘拐事件の首謀者であった。

そして、四人ともう二人の双子。

それは、仁のかつての家族を皆殺しにし、仁に殺された兄と、その復讐の果てに殺された弟だった。

「「まさかお前と一緒に戦うことになるとはなぁ!!」」

「それはこっちのセリフだ!!」

ざんっと敵の首を切り落としながら仁は叫ぶように言い放つ。

「なんだぜ?前世の知り合いか?」

「腐れ縁だ。」

緋音の言葉に仁は面倒くさそうに返す。

「緋音!!」

赤い蝶の翅で前線へやってきた涙音は緋音の名を呼び、遊部メンバーにナノマシンを渡す。

「注射器怖いぜ〜」

と笑う緋音に、涙音は「ペイントペイン」と技名を唱えながら首にナノマシンをブッ刺す。

「マイシスッッッ?!」

「はい、アンタの分終わり」

ズボッと雑に注射器を抜き、地面へ捨てる。

そして、遊部メンバーそれぞれもナノマシンを体に注射し、注射器を投げ捨てる。パリンパリンと小気味良い音を立てて割れ、全員の頭の中に声が響く。

『やっほー!みんなー!菅野だよー!』


全員の通信を終え、数の少なくなってきた宇宙人たちに動きが見えた。

逃げようとしている。

それを察したタカは火呂にナノマシンで伝えた。

『俺とお前の姿を消して、一気に敵の上層部を殺る』と。

火呂はタカを担ぎ上げ、息を止める。

『頼むぜ!相棒!!』

『おう!!』


敵を凄まじい勢いと火力でボッコボコに殴り、溜め込んだエネルギー弾で周りの敵を薙ぎ倒す。黒成は全身が光に包まれ、触れるだけで簡単に感電するほどエネルギーに満ちていた。まさしく無敵状態!!

「まだやるがこのボケナスどもがァァ!!」

と、啖呵を切ったが、ここで緋音たちと合流し、能力を一旦解除したのが間違いだった。

スッポンポンなのである。

「ギャーーーーーーーー!!!?」

黒成と緋音はビビった。

「心の臓がまろび出るかと思った……」と、のちに話している。アソコは出ていたが。

物凄い瞬発力で涙音の目を塞いだ緋音が「おバカーーーー!!」と叫ぶ。

黒成も涙目で必死にアソコを隠す。

「どんなコメディだよ ちくしょうめー!!」

泣きながら咆哮する羽目になった。

さっきからずっと考えていた、この能力を『エレクトロックマスター』としよう。なんて考えが消えてしまいそうだった。


タカと火呂とのやり取りを聞いていたメンバーも宇宙船に乗り込むことを決めた。

と、先に乗り込んだ火呂からナノマシンで連絡が入る。

『能力者が何百人と捕まっている!』と。

タカの能力は姿を消す能力だった。

だが、それは以前の能力。今は、「消す」事に特化した能力。物は触れて念じるだけで消え去り、透明化させておくこともできる。気配すら「消し」て、敵の肉体を数秒でも触れられれば「消せる」。姿を?いや、肉体を、だ。痛みも苦痛も与える事なく、ただ、消えるだけ。今までのクソみてぇな敵の懺悔など聞きたくなかった。

捕まっている人たちの鎖を「消し」て解放し、敵を見えない敵に怯えさせる。

『タカ、俺にも一発ぶん殴らせてくれ』

そう、最初の世界では、一発ぶん殴ることすら出来ず消されてしまった。

ここにいるトップはあの初老の宇宙人ではない。だが、殴りたいものは殴りたい。鬼畜の果てに鬼畜を重ねた野郎共を許したくはなかった。

タカの透明化を使ってトップの前に仁王立ちした火呂は、力いっぱい相手を殴る。その速度は限界を超え、光を超えて敵の頭を潰す。

側から見ていれば宇宙人の頭が光って、突然ひしゃげたように見えた。

「が、ぁ……」

突然、トップがやられたもんだから、宇宙船内は大騒ぎだった。

緋音や、黒成たちが辿り着く頃には宇宙人はもうほとんど残っていなかった。

「あ、ありがとうございます……」

解放された人たちが、それぞれの感謝の意を伝えてくれる。

「あ、あなたたちは、あの時見せしめにされてた……」

「お、俺たちを知っているのか?」

遊部のトップである仁は少々困り顔で続けた。

「そっちの世界で?俺たちはもうやられているのか?」

と尋ねる。

「はい、ですが、私は時間を操る能力者です。元の世界に戻る時でも時間を巻き戻しす事が可能なんです。そして、こちらが、次元を超えることができる能力者です。」

データのもと、戦いの果てに連れ去られ、奴隷のように扱われ、能力者のいない世界線に次元を繋げるよう指示されたことを話してくれた。

『なぁ菅野、皆の能力が飛躍的に覚醒してるらしいじゃねぇか。もし、これで時間を巻き戻して、緑色のアイツらに勝てるなら、、、』

仁は、刀をしまい、菅野に連絡する。

「いいね、そうしよう!」

いつのまにか船内にいた菅野がサラッと返事をする。

「ギャーーーーーーーー!!!?」

仁はビビった。

「心の臓がまろび出るかと思った……」と、のちに話している。

「ひでぇ!?」

我輩も戦って、わざわざ来てやったのに!と怒る菅野。お前も同じことやってたじゃんと、思いながらすまんすまんと、謝る仁。

「あっちの世界のことを思い出したってことはサ、ワイたちは元々ここの世界線の住人じゃないんじゃない?」

「六花……」

「復讐、しに行きましょうや、なぁでびさんや」

アソコを隠した黒成は緋音に聞く。

「くけけ、そうだねぇ!色々とやり返したい事があるしねぇ!!なぁ、マイシスター?」

「そうね」とだけ返した妹、涙音は手鏡を使って自分の目を見ていた。その口元はとても嬉しそうだった。


そして、

緋音は敵の首に能力が使えないようにと菅野が開発したジャマーを装着して、拷問を始めた。

「許して、ください!おねがッッッ」

「要らねぇことは喋んなって言ってんだろ」と爪と皮膚の間に釘を打ち込む。

「がァァァアァァァァァァァ!!」

「キヒヒヒヒ!!じゃあもう一度言うぜ??「あなたは宇宙船の操縦はできますか?」ふふっ」

緋音は笑う。

「でぎる!!でぎますッッッ!!だがらッ」

「しー。要らないことは?」

「しゃ、喋らない!!」

「正解♡」

爪と指の間に刺さっていた釘を一気に引き抜く。

「ぎぁッッッ!!!」



「あいつホントに容赦ねぇな。」

「緋音だもん、ジェノサイドだもん」

メンバーは宇宙船内の会議室でくつろぎながらモニターで拷問部屋の様子を見る。

黒成は緋音の拷問に耐えきれず、キラキラと虹のかかったナニカを吐いていた。

「で、どうする?この人たちの能力使えば本来の世界線で、本来の死亡フラグを折る事ができるかもしれない。ここの世界の家族には悪いけど、俺たちにはやらなきゃいけないことがある。」

「ワイは賛成やな」と六花。

「わぁも賛成」と黒成。

「俺もだ」と顔だけのタカ。

「右に同じく!賛成だ!!」と火呂。

「我輩も賛成だ」と菅野。

「ボクも同じです」と秋夜。

「私も賛成です、あと、緋音も」と涙音。

全員賛成のようだった。

しばらくすると、緋音が会議室に戻ってきた。

「皆どうするか決まった?」

「全員賛成」

「そっか!良かった。あのミドリムシこの宇宙船、操縦できるってよ」

「そうか、なら緋音監修の元で操縦はお任せだな。」


満場一致で本来の世界へ行く事に決めた遊部。


そして、


次回!死ぬことのない世界へ!

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