第10話〜遊部紋章、考案ノ記憶
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「…ということで、あなたたち個人の能力や個性に応じてエンブレムを持ってもらいます。エンブレムはあなた達の象徴になるんです。いいですか、エンブレム、つまりあなた達が個人のブランドを持つということは、あなたたちの行動にそれなりの評判が伴ってくるということで、責任や連帯責任、色んなものをあなたたちも背負うことになるのです。ですから、えー、」
学園長の話のほとんどは、大勢の生徒たちの耳から抜けてしまっている。一体、どれだけの生徒が話の全容を把握しているのだろうか。
「エンブレムだってよ!かっこよくしてもらわねぇとな!!」
「えー、可愛いのがいいー!」
ガヤガヤと騒ぎ始める館内に「静かに!!」と牽制が入る。当たり前だ。余談だが学校の先生というものは「静寂の待ち人」などとあだ名される程、生徒の喧騒にはうるさい。
「えー、長くなりましたが、それぞれ部活ごと、またはそれなりのグループごとで何か共通のデザインがあるものを提出してください。先生方と協議の上それらが個人個人に相応しいか審査してから、えー、業者に頼みます。」
溜息混じり。話の大半は生徒に届いてないと諦め半分で話をそそくさと終わらせる学園長。
学園側でデザインしてくれるんじゃねぇのか…等々と声が上がるが、緋音はしれっと(業者なんだ…業者に頼むんだ…)と無駄な思考を巡らせていた。
全体朝礼は終わり、楽しそうでワクワクする議題に騒がしくする生徒たちは教師に叱られてから漸く黙り、教室へと返された。
そして場所は変わり、教室へ着くなり生徒たちの話が一気に盛り上がる。
私たちはどうしよう、どんなのがいい、やっぱ部活ごとだな!、などなど一気に騒がしくなる。
もちろん遊部も例外ではない。
「俺らはもちろん部活で、だよな」
「そうだな…」
確認するように話し出した六花に、仁が頷く。しかし、肝心なところはそこではない。
「各々が自分のデザイン提出しなきゃいけないんだろ、どうするよ?」
と火呂。
それである。
「お絵描きできないんですよねぇ」
黒成は椅子の背もたれに顎を乗せながらだるそうに喋る。
「いや俺とマイシスターお絵描きできるぜ?!」
緋音は忘れてもらっちゃ困るぜ!と勢いよく喋るも、
「全員分描く気か?」
仁のその言葉に、一瞬黙る。
「9人分、ですかねぇ〜」
「あ^〜逝きソ/(^o^)\」
お絵描きできると喋ったことを後悔するも、いつかは必ず回ってくる問題。でも誰かが必ず描かなければならないのだ。かといって淡い絵や厚塗り系が得意でスタンプ絵系統が得意ではない妹に丸投げするという気持ちは一切無い。妹に優しすぎる、緋音のシスコンたる所以である。
「まぁ、とりあえずは部活が始まってからだな」
一度話は打ち切られ、修学旅行直前のようなテンションの生徒たちは授業にほぼ集中する事なく放課後を迎えた。
賑わう部活、賑わう生徒たち。
今日は一段と賑わっている。
きれいに整備された広大なグラウンドから、バレーボール部やらバスケ部やら、卓球部やら何やらと凄まじい数の部活動を物ともせず抱え込める体育館から、そして、割り当てられたそれぞれの部活動場所の教室から、楽しそうな声が響いていた。
「まぁぁ……とりあえず、皆の要望聞いてから描いてきますぜー…」
遊部はまだいい。部員数が9人と両の手の指で数えられるほどなのだから……。他の部活ときたら、一体何十人分と作らなければならならないのか。そう考えれば幾分かはマシな気がする。
「とりあえず、マイシスターは描けそうぜ?」
「私は切り絵とかエンブレム系とかは、…描けない!!」
「おぅ、そうか!!」
「でもサポートはする」
「さすがマイシスターだぜぇ」
「私のをクソみたいのにデザインしたら殺すからね」
「イヤァァ…)^o^(」
部室で妹に脅される姉は、紙に全員の特徴や能力をまとめ始めた。
「この部室の中にいる状態で真剣な緋音は初めて見た気がするわ!より縮まって見える!!」
「それ分かるわw!」
「だまれぇッ!」
ぐふぅ!と横で騒いでいた華乃と黒成は緋音の出現させた悪魔羽にバシィ!と良い音を出しながら引っ叩かれていた。
「華乃の最後のあの一言さえなければ…www」
「そうだな…」
冷静に状況解説する仁と六花。
「そういえば緋音って悪魔羽ってかコウモリみてぇな羽しか出さねぇよな…」
「鳥の羽って一枚一枚骨繋げて何千と生成しないとダメだから面倒らしいゾ」
「確かに面倒そうだな…」
仁は刃物を召喚し、扱う能力。基本的には刀を扱うが…そう考えながら少し形が複雑な刀を召喚してみる。確かに、簡単な形じゃないと想像力やら色々無いと難しそうだ。
ふと目を話し相手だった六花に向けると、六花はいつの間にか味噌汁を飲み始めていた。
( い つ の ま に ? )
しばらくして原案は完成。
秋夜「ヴォーすげぇ」
黒成「鳥肌やばい…」
涙音「秋夜さんのこれ、メンヘラなの?」
緋音「メンヘラではない」
秋夜「メンヘラではない。(念押し」
涙音「……メンヘラではない(復唱」
秋夜「メンヘラ、メンヘラうるせーわ!!」
緋音「ごめんごめん、あれ、黒成のこれ強くなったフ⚪︎ーさんだわwww」
黒成「描いた本人がそれ言う?!」
緋音「配色したらマジでフ⚪︎ーさん」
華乃「我輩ヤタガラス!強そう!」
火呂「華乃って現時点では最弱能力sy…」
火呂は華乃の謎装置によって強制的に黙らせられた。
スゥ……
顔だけ見えてる鷹。静かに出来上がったデザインを眺めていた。
夏らしくホラー演出だと思うだろうが!!
この部活では日常茶飯事である。
六花「クソゥ、好きな銃がありすぎて、クソゥ、一種類しか選べないなんて、なんて残酷なんだ…くそっ、悪魔め、悪魔め…クソゥ……」
謎のダメージを負った六花。
仁「(厨二心くすぐられる、良い)…ところで、エンブレムなんだぞ?枠はどうする?」
緋音「まだ決めてないぜぇ」
キラーン✨と涙音の目が光る。
涙音「……お絵描きの基本その1、」
緋音「1つずつコツコツと!目に入った描きたいとこだけ描いてくと順序良く進められない!」
涙音「初心者は大抵これで、描きたい漫画や絵を、描きたいとこだけ描いて完成することなく挫折することが多いです。」
緋音「目に付いたから!ってあちこち手を出すと描き残しとか塗り残しが発生したりするから要注意だぜ」
涙音「ねぇ緋音?説明する必要あったのか分からないんだけど?」
緋音「外の世界では必要な方々がいたりするんだよ」
メタい発言はよせよ緋音……。
緋音「ということで、まずは皆のエンブレム本体だけを描きあげて、そこから皆のエンブレムにどの枠が最も合うのか決めて描いてくのぜ!」
「これとか良さげですね」
「アッ好き」
「おーー、完成かな!!?」
「よし!!おK!!」
「完成だぜ!!」
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=73426274 遊部-ASoBu- Emblem | 病みの緋い悪魔-でびる #pixiv
仁のエンブレム。
-刃狼 Jinro-
銀髪からハイイロオオカミを連想。
オオカミに眼帯。目隠しではない。
一時期七つの大罪に当てはめた際「憤怒」の罪に振り分けられたことから、所々ドラゴンと刃物を意識したトライバルを配置。背負うの刀2本は、仁の能力から。
題名は「人狼ゲーム」の「人狼」の当て字。刃物を召喚する能力者なので「刃」とエンブレムモチーフの「狼」。
刃を振るいし、誇り高き隻眼の狼。
六花のエンブレム
-恐犬 Kyouken-
六花の名前。そしてあだ名としての「犬」から犬の頭蓋骨を連想。
銃を扱い狙った対象に必ず当てる能力者の為、頭蓋骨の目には銃の照準マークを使用。下の銃は六花が今現在好きなハンドガン(PX4)。真ん中の肉球には逆さ十字架と十字架の十字を照準と見立てた円を配置。
題名は「狂犬」の当て字。そのままでも良かったが、皆当て字を使ってるので、「恐るべき犬」もしくは「恐ろしい犬」。
銃を扱いし、恐れられる絶対の猟犬。
鷹のエンブレム
-透冥 Toumei-
能力もアサシンな感じなので、最初は夜の暗殺者と呼ばれるフクロウをイメージしていたが、名前がそもそも「鷹」なので鷹に設定。
光が当たる部分だけを白で描き、透明化をイメージして青のグラデーション。(フード被ってる設定なので、鷹本体を完全なベタ塗りの黒にしたところ何故かスズメに変身したので断念)暗殺者なのでナイフを持ってもらった。
題名は「透明」の当て字。「透ける」と「冥土へ送る」意味を込めた。「見えない死神」
見えぬ死神、影の鷹。
火呂のエンブレム
-災凶 Saikyo-
本人から「最強」「∞」「サングラス」と希望をいただいたのだが、サングラスを∞に見立てて最強の文字を影として配置しようかと考えたが全員動物モチーフの中で1人それは無ぇだろと断念。「百獣の王」である「ライオン」とアルビノの逆である「メラニズム」をモチーフに、サングラスを∞に。立て髪を、最強の証として王冠、そしてコートに見立てて配置。鬣には「最強」の文字を隠して配置。
題名は「最強」の当て字。「災い」と「凶兆」をもたらす者。また、黒は「何色にも染まらぬ色」。最強さんは敵に回しちゃいけない。安直だがちょうど良い。
黒を纏う、最凶災厄の百獣の王。
黒成のエンブレム
-雷酩 Raimei-
「大食い」、「巨体」から熊をイメージ。また、バンダナをしているためバンダナも施した。静電気を操る能力者からエネルギーを生み出すトンデモ野郎になったので、バリバリとした電気系のトライバルで装飾。
余談だが、髪色と電気系の色「黄色」と黒成のバンダナの色「赤」で完全に色分け、ベタ塗り配色すると完全に「フ⚪︎ーさん」になるので断念した。
題名は「雷鳴」の当て字。雷はそのままだが、酒飲み野郎なので「酩酊」の「酩」を使用。どこかのお酒の名前にありそう。
神鳴りの如く、
闇を裂く狂戦士の大熊
華乃のエンブレム
-天災 Tensai-
頭の良いカラスと、華乃の白衣をイメージしたアルビノカラス。羽は鷹のエンブレムと被らないよう歯車を配置。華乃の研究者としてのイメージを持たせたかったので八咫烏+三種の神器。
剣、勾玉、鏡をそれぞれ、改造武器、フラスコの中の開発中の薬品、歯車 に見立てて配置。
題名は「天才」の当て字。「天災級」の実験結果に敵も遊部メンバーもタジタジ。
天災を招く頭脳、白衣を纏う八咫ノ鴉
秋夜のエンブレム
-兎覚 Tokaku-
動物の中では最も臆病と言われるウサギをイメージ。触れた相手の心を読む能力のイメージからハートと目を配置。サイボーグ化するのでハートの半分は歯車。また、サイボーグ化した際に能力を失うのでハートにあしらわれた目は閉じている。背景に見える武器は「内弁慶」という性格から、武器を隠し持つイメージ。メンヘラではない。
題名は「兎角」の当て字。言葉辞典では現実に存在しないものの意味だが、動物の中で最も臆病といわれる兎が覚醒する意味を込めて「覚」を使った。「臆病者の覚醒」的な。
臆病を捨て、臆病の象徴に牙を隠す機械仕掛けの兎
緋音のエンブレム
-緋狂 Hikyo-
猫と生体兵器であるバイオハザードのマーク、変身能力で多用する悪魔羽と爪をデザイン。頭の後ろ側に出た尻尾はポニーテールのイメージ。狂気的な性格は猫を笑わせればそれらしく見えるんじゃないかと。妹と同じく羽にグラデーション、「緋音」の名に乗じて赤を施してみた。涙音のものより丸っこくふてぶてしいイメージ。
題名は「卑怯」の当て字。色としての緋色の意味は「生命」。当て字題名で色の意味を使った直訳では「狂う生命」。または「狂った生命」。生体実験などにより狂ってしまった遺伝子や命の意味ともとれる。「死」を意味する涙音の死姫彩と反転する意味になる。
緋色を纏い、狂気を纏い、生命を知る 病みの緋い悪魔
涙音のエンブレム
-死姫彩 Shikisai-
緋音同様猫のエンブレム。本人が蝶と紫が好きなので、緋音と同じように猫に翅を配置。描いたものを召喚する能力者なので羽ペンから蝶の翅、模様多め仕様。また、名前が「涙音」なので涙模様も多数配置。
緋音のものよりシルエットはスラリとしている。緋音同様一応髪を結っているので尻尾は頭の後ろ側に出している。
題名は「色彩」の当て字。Shikisaiの「し」は「紫」にしようかと検討したが、紫色の意味は読みの「し」から、「死」を意味するそう。故に「死」を採用。また、蝶も「死」を意味する。「死を彩る姫」。
紫を纏い、高貴を纏う、死色の色彩を司る悪魔の妹 緋想の病み絵師
「っし、完成だぜー!!!!」
一通りの完成、いや、最高と言っても過言ではない完成に緋音は大きく伸びをする。
「妹ちゃん?あいつ何時まで起きてた??」コッソリと耳打ちする仁。
「あー、今の今までずっと起きてましたよ?」
「?!」
「私は緋音ほどじゃないんですけども、好きなことへの集中力が凄いんだと思います」
特に緋音は……と言いかけた妹ちゃん、涙音の顔が曇る。
「ど、どうした?」
仁は慌てて涙音の様子を伺う。何か泣かせるようなことでもしてしまったのだろうか、そんなことしたら緋音にフルボッコだドンされて喰われかねない。
「あ、すいません違うんです!えっと、緋音は自分の好きな人、親しい人の笑顔のためには努力も全力も惜しまないんです」
涙音は笑う。紫色の長いふんわりとウェーブのかかった髪がゆらりとゆれ、甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
(こ、この子!!やるわね!!)
ちょっとでも気を抜いたらドキッとしてしまいそうだった。
「あいつ、今日寝てないんで、授業、絶対頭に入りません。なので。」
妹ちゃん、涙音が手渡してきたのは100均で売っているハリセンを10個束ねたものだ。こんなんで叩かれたら死んでしまう。
「愛の鞭ってやつですよろしくお願いしますね!じゃあ私は自分のクラスに戻ります!」
愛の鞭じゃねぇよ、最早愛のカケラもない鈍器だよ……。仁は密かに緋音を不憫に思った。
そして、遊部がどの部活動やグループよりもいち早くエンブレムのデザイン提出を終えたのは言うまでもなく、審査もすんなりと通過し、いつになく機嫌のいい学園長からは、優しく活動記録の催促をされた。
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