第8話



いつだったか。自分がサングラスをかけ始めたのは。仁は生まれつき左目が見えず、同じ夢を見続けていて。秋夜は足が悪くて。菅野は狭く閉じ込められた世界が嫌いで。緋音は小説上の怪我と同じ場所、左上半身に痣があって。妹ちゃん、涙音ちゃんも小説上での死亡原因である首の位置に痣があって。……

この小説には共通点が多すぎた。

何故、この小説を書いたのか。

火呂は黒成が読み終えた小説を手に取って溜め息をついた。この小説、元は仁の夢を元に形成したプロットに文書を重ねていったものだ。

「不思議なこともあるもんだな」

「んぁ?何が?」

火呂の独り言に黒成が反応する。言い忘れていたが、コイツは津軽弁訛りがひどい。稀に緋音でなければ理解できない言語を使う事がある。

「いや、久々に全員集まったからこの小説見ると不思議な気分だってコトだ」

「んだが、まぁ、この中じゃみんな死んでらもんな」

ハハハ、と笑って久しぶりに全員揃ったメンバーは自然と輪になり、

「続き気になるなー!」

黒成の早すぎる小説の催促を無視して火呂はとりあえずその場しのぎでメンバーを飯へ誘う。

「先読みのしすぎなんて意味のないことはやめてェ!!今日は美味しいものを食べようぜ!!」

「んだな!!!」

食べるの大好き黒成の雄叫びが部室に響く。

「おいうるせぇぞ黒成ィ!」

「いいだろ別にィ!!」

そんなこんなで、いつのまにか全員で飯を食いに行く事になった。



「なぁ秋夜。あの小説みたいに本当に皆が死んで、世界が終わるとしたら、どうする?」

メンバーが連なってそれぞれの話に花を咲かせて歩いている中、最後尾で杖をついてゆっくりと歩く秋夜に火呂は問いかける。

「……未来はずっと先だよ、僕にも分からないよ」

秋夜はとある曲の歌詞を使って笑って答えてくれた。

「ハハ、そうかもな!!」

笑ってサングラスを外す。

夜の街の街灯はやはり目に痛く、何か得体の知れない恐怖を覚えた。目に浮かぶあの小説のワンシーン。自分が消える瞬間。ドクンと高鳴る鼓動、恐怖心、その感情に驚き、恐怖を振り払うように火呂はすぐにサングラスをかけ直した。


「と、いうか……」

そんな矢先、列の先頭を歩いていた仁が足を止める。

「何食うか決めてなくね?」

「そういえば!」

何を食べるか。遊部ではそれも遊びの一つだった。そもそも飯を食いに行く、と言っても彼らは行き先を決めてから行動するのではなく、行動しながら行き先を決める不思議集団でもある。

「がっつり肉が喰いたいぜ」

なぁマイシスター!と、妹ちゃんの肩をガッシリ掴む緋音。おい、嫌がられてる顔されてるぞ。

「味噌汁とパーン!」

それはどのお食事処でもメニューとしては置いてないと思うゾ、六花。

「味噌カレー牛乳ラーメンとかは?あの、よぐ分がらねぇ味がまだ良いんだよ……」

そのご当地名物は、此処がご当地だからいつでも食べれるから、な、黒成。

「……いつも通り、割れるねぇ」

緋音が牙にも見える八重歯を見せて笑う。

「もういっそ色んなもの揃ってるファミレス行こうぜ?」

「ラミレス?」

難聴かよ、大丈夫か疲れてんのか六花。

「賛成です」

妹ちゃんはファミレスに賛成派のようだ。

「……」

無言だがグッドサインを出す鷹。こちらも賛成のようだ。

黒成、も。賛成のよう。


「おし、じゃあファミレス行きますか」

そんなこんなで9人という結構大人数の遊部御一行様がファミレスへ。



「そういや、この前突然緋音が送ってきた小説、めちゃくちゃグロかったんだけど……あと同じような題名で火呂と六花からも……」

一行は大所帯用の席に案内されお冷を受け取りながら会話を進める。

「あぁ、あれ?すごく素敵だったろ?」

緋音はお冷を飲みながら笑う。

「火呂と六花と相談してさ。お前がグロでマジ吐きするのか?っていうのが俺の担当で。」

緋音は目線で火呂に話を振る。

「六花の性なる小説でマジおっきするのかっていう検証と」

目線に気づいた火呂は自慢げに六花の小説の説明をしながら六花に緋音と同じように目線を送る。

「火呂の爆笑小説で笑い殺せるかっていう検証」

六花も目線を受け取り、しょうがないなぁと楽しげに話を合わせる。

「全部わぁを殺しにかがってる!!?」

「正解☆」

ひでぇ、ひでぇと笑いが起こる。

「それ黒成だけに送ったのか?」

菅野が羨ましそうに話に入ってくる。

「ズルイぞ、緋音のはともかく性なる小説は捨て置けん!」

仁はお冷を飲み干しダン!とテーブルに打ち付ける。お前はお冷で酔っ払うな。そして性なる小説に惹かれるな。

「男が変態で何が悪い!!!!」

「男はすべからく変態だ!!!!」

仁と六花が猛々しく語る。

「マイシスター、あんな大人の話は聞いちゃダメなのぜ」

緋音は笑顔で妹の涙音の耳を塞ぐ。

「大丈夫だ、問題ない」

フラグを立てるなマイシスターアァァァァァ!!と騒ぐ緋音。

「僕もその小説読んでないので見たいですね」

そう、小説は個人でメールで送信していたので検証、もとい実験台となった黒成以外は見ていないのである。


「そうだなー、じゃあ全員に送るか」

緋音は屈託のない笑顔でスマホを取り出す。

「やめろ、そのグロはマジでエグいだけだから!!」


そんな大騒ぎを横目に鷹は1人、メニューを見て日常の平和、というものに心なしか安心していた。



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