30話 「悩める相談役」

 「って、君は真面目にそんなことを私に聞いているのかい?」

 俺の相談を聞いた後の第一声はそんな呆れかえったと言わんばかりの反応であった。

 「分からないから真面目に聞いているに決まってるだろう?」

 「いや、ちょっと考えたらどうなるかーなんて男の君でもさすがに分かるだろう。それなりに良い意味でも悪い意味でもそれなりに”人間関係”について君は過去の経験値がちゃんと蓄積されているだろう?」

 「いや、確かにいかにも性格が全く合わないだろうと思われる女子二人が接触したらなんか嫌なことが起きそうだなって思うけどさ……。でも片方が絶対に気が合うって言い張るんだよ」

 梨花に言われなくてもそうなりそうだという認識くらいは俺だって持っている。知りたいことはそこではなく、”奈月の発言を含めた上”で会わせるということがどういうことであるかということである。

 「……申し訳ないけど、その二人と君の接点についてもう少し話を聞かせてもらってもいいかな? 私が持つ情報量が少なさ過ぎるとしか言いようがないな」

 そう梨花に言われたので、俺は奈月と夏帆と普段どういう風にかかわっているかなど簡潔に伝えることにした。

 それを一通り聞いた梨花はふうっと一つため息をついた。

 「……まず一言。君が高校時代と何も変わっていないということが先ほどまでの君の話で十分に分かったよ」

 「それは褒めているのか呆れているのかどっちなんだ?」

 「両方……と言いたいところだが、今回はどうだろうか。とても複雑だ。いいとも悪いともとれる。だが褒める呆れるという話からはずれてしまうが、私のように君のことを見続けた者と性格の悪い者からすれば喜ばしいことなのかもしれないな」

 「……すまん、何を言っているのか全く意味が分からない。要するにお前は性格が悪くて嫌な女ってことを自分で言っているということなのか?」

 本気で意味の分からなかった俺は、真面目にそんなことを梨花に聞き返していた。そんな俺の事をば聞いて面白かったのか、ふふっと笑って話を続ける。

 「さあ? それは人それぞれによるんじゃないのか。私からはそんなに悪いと思っていなくても君からすれば私は嫌なやつになるかもしれない。喜ばしいかそうでないかというのは誰にでも分かる明確な結論を表示しているだけであって理由や感情を知って自分の考えと重ね合わせない限り判断することは出来ないよ。そして今、私の頭の中で考えた時に喜ばしいという意思表示をする奴がそんな人物に当たるであろうと判断しただけだね」

 「????」

 さらに訳が分からなくなってしまった。梨花はたまにとても難しいことを話し始めるが今回もまったく理解することが出来ない。

 「すまない、また私の悪い癖だな。君の求めている答えについてだが……。話を聞く限り私は二人を会わせるということは”間違ってはいない”と思う」

 「そ、そうか」

 「しかし、今回ばかりは私からはあまり多くのことは言えない。頼りにならなくて申し訳ないな」

 「いや、難しいことを聞いてすまなかった。いつも真面目に答えてくれることには感謝している」

 「そうか……。私としては今回、何もまともなことが言えた気はしていないから礼は言わないでくれ」

 梨花は少し落ち込んだ様子でそう言ったところで今日の通話は終えた。相当彼女を悩ませてしまったようだ。

 「もうちょっと自分でよく考えて結論を出さないと……。あいつばっかりに何でも頼ってるの申し訳ないな……」

 いつも梨花に対していじられることについてはうざいとか言ってまともに取り合わないのに悩んでいるときなど都合のいい時だけ梨花を頼ろうとする自分を反省しようと思った。

 「今度夏休みに地元に帰った時にでも飯かなんか奢ろうかな……」

 そんなことをぼんやりと思いながら俺はスマホをベッドの上に放り投げて自分も横になって休むことにした。



     ************


 「……」

 通話が切れていつものホーム画面に戻る。L〇NEやらSNSのアプリ、ソシャゲのアプリのアイコンが所狭しと並ぶいつもの画面をぼーっと眺める。

 「やはり私は性格の悪い女……なのだろうな」

 どう考えても誰が見てもそうとしか思えない。なのに私は苦し紛れの悪あがきのようにべらべらと言葉を彼の前で並べてしまった。

 話を聞く限り、健斗にかかわっている女性二人は健斗に対して”そういうこと”なのだろう。

 きっと健斗のことを評価できる人はきっと魅力的でいい人であるに決まっている。そんな素敵な人と知り合い、仲良くなっていく健斗。それが私は嬉しくて仕方がない。

 でも、私たちはもう小学生じゃない。おこちゃまで純粋な発想である中学生でもない。悪い意味で子供ではなくなってしまった、ということだ。

 仲良くなる。それは決して友達になるということを指すわけではない。友達になるということではないということはどういうことか。

 その二人が出会うということは、いつかどちらかが傷つくことになる。それは遅かれ早かれ彼がどんなに二人の接触を阻もうとも必然的にその時は訪れる。

 しかしそんなことよりも私は健斗と仲良くなれる異性が現れたということの嬉しさ感情がが勝つ。

 どちらが勝とうが傷付こうが関係ない。結果的に健斗の横に魅力的な女性が付いて彼が幸せになればいいと思う。

 きっと私が高校の時、彼の告白を素直に受けて一時的にでも甘美な時間を共有する運命をたどっていたならば——こんなことが起きなかったかもしれない。

 それを自分の勝手な感情を先行させて断っただけでなく、こんな身勝手な感情をさらにこじらせている。

 「本当に私は嫌な女だな……」

 そんなことを思う自分を私自身も嫌いだ。こんなことを思っていると健斗に知られたら一体どうなるのか想像したくもなかった。

 私の発言が彼にどのような影響を及ぼして、彼がどういう行動をとるかは報告を聞く限り知ることは出来ないだろう。


 どんな形でもいい、幸せになって欲しい。


 健斗に対してのこの思いに嘘偽りはない。でも、どんな行動をしても自分の身勝手さと意地悪さが顕著に表れて自分自身で更に嫌になる。

 「っ!」

 私は珍しくスマホを自分のベッドに向かって投げつけた。ふわふわの掛布団に勢いよく着地したスマホはそのままかけ布団にクレーターを作った。

 そしてあざ笑うかのようにスマホがいつものようにSNSやL〇NEの通知を音と光をたてて知らせてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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