27話 「コミュ障について」

 「健斗君。最近、私こんな話を耳にしたんですけど」

 「え、俺の話? そんなの聞き間違いじゃないの?」

 「いえ、確かに健斗君のことだと思いますよ。だって同じ実験机であるそこの班の男の人が話していましたから」

 食事をつづけながら、ふと夏帆がそんな話を出してきた。

 「マジか。どんな話していたの?」

 「えっとですね、私にはあまり意味がよく分からなかったのですが、実習中と講義中の健斗君はまるで別人格みたいだって話してましたよ」

 「あー、うん……。それは紛れもなく俺の話やな」

 「自覚ありなんですか?」

 「うん……。すごくあるね」

 コミュ障な俺であっても2,3カ月経過した上に、同じ実験机で近くで実習を何回も行っているとよっぽど気が合わないとかがない限り割と普通に話をして仲良くなれるものである。全ての作業を班のペアとだけ協力してやるものではなく、実験机全体で協力する作業とかもあるのでそういったことで少しずつ仲良くなれるのだが……。

 「なんか話によると、実習中は明るくめちゃくちゃ話してくれるのに講義をする教室とかでばったり会うと『おう』とか微妙な反応しか返ってこないって言ってましたけど」

 「それはな……。コミュ障としての症状が出ているのだよ……」

 大体、俺のようなボッチを除いてみんな講義は仲のいいメンバーと一緒に受けている。講義の時はメンバーが割り振られてみんなが自由に集まって行動できない実習と違って大体俺を見つけて声をかけてくる時にもそいつらの回りにはぞろぞろと俺の知らないやつらがついている。そいつらの「誰こいつ?」みたいな目が俺はすごく苦手であると言うのが最大の理由である。

 相手がそういう目をしているだけで何も思われていないことは分かっているが、どうもあの周りにたくさん人がついている状況で相手を立ち止まらせて話をさせるというのが嫌である。

 そしてそんな視線を送られながら話をするということも過去の経験上苦痛で仕方がない。出来れば実習中に話しかけてくれっていう感じだ。

 意識しすぎだって? それがコミュ障なんだよこの野郎。

 「私から見ればいつも変わらないのですが……」

 「夏帆とはペアでずっと話しているし、気も合うからね。安心してお話が出来るから変わりません!」

 「そうですか! えへへ、嬉しいですっ」

 あー、可愛い。まぁでも、もし教室とかで夏帆の回りに夏帆のお友達がたくさんいる時に声をかけられたらいつもよりはやっぱり反応が微妙になるかもしれないな。

 あんまりあからさまに状況によってテンションが違うのは裏表があるように見えるので印象が良くないのでやめようとは思うのだが、なかなか難しい。

 自分の過去の経験上、そういう人間に見える=信用できないということは痛いほどよく分かっているので早く治そうとは思う。

 それ以外にも、原因はあって……。

 「もう一つの理由としては朝は基本的にテンションが低いって言うのもある」

 「そういえば、健斗君は朝に弱いって以前言ってましたね」

 「そそ。『講義やテストには絶対に遅れることが出来ない』っていう強制力のあるおかげで起きれるだけで、そうじゃないと基本的に自分の力で起きるとか出来てないからね。例えば『明日、休みだけで早起きして時間を有効活用しよう』とかいう強制力のない願望的なのを抱いて寝ると基本的に起きれてない」

 「なんだか分かるような気がします。『無理に起きなくても大丈夫』ってなると本当に起きるの辛いですよね。もうちょっとって二度寝したり布団にくるまったり」

 「おお、ここにも理解者が……!」

 夏帆も休日は布団にくるまってうとうとしているということだろうか。控えめいってめちゃくちゃ見てみたい。きっと尊いものであるに違いない。

 「とりあえず健斗君の中で何か避けたいことでもあるのかと思って心配しましたが、特にそういうことではないと分かって安心しました」

 「すいません……。いろいろとご心配をおかけしまして」

 「そうですよ。これで私にもこれからよそよそしくなったら私、健斗君に怒っちゃいますからねっ!」

 「夏帆が怒るとどうなるの? めっちゃ怖いの?」

 「毎日お昼ご飯に付き合ってもらう上に、週末も私の用事に強制的に付き合ってもらいますっ!」

 「……いまからよそよそしくなってもいい?」

 「なんでそうなるんですかっ!?」

 怒るって言って俺に課す内容が可愛い。怒らなくても平然と俺の自由な時間を拘束する女が今教室で菓子パンを不機嫌そうに食っている件について。

 怒っても間違いなく可愛い女の子と、怒ったらただめんどくさい女。容姿はどちらも優れているのにどこをどうしたらここまでイメージの差がついてしまうのか。

 「そんなに気にしなくても、夏帆に対してはよそよそしくなったりはしないから大丈夫だよ」

 「本当ですかねぇ。実習終わった途端、急によそよそしくなったりしませんか?」

 「絶対にしません! というか逆に夏帆に見捨てられそうで怖いけど」

 「そんなこと絶対にしませんっ!」

 そんな言葉を掛け合った後、お互いに勢いよく強い口調で同じような言葉を言い合うような形になった。

 「……なぁ、夏帆さんや。自分たちで言うのもあれだが、俺たちめちゃくちゃ仲いいとは思わんかね?」

 「それは思います。自分で言うのもあれですけど」

 「これでよそよそしくなったら逆にすごいとは思わんかね?」

 「思いませんよっ! このことに関しては健斗君を信用していませんからねっ!」

 「おおう、厳しいなぁ……」

 「だって今からよそよそしくなってもいいかって聞いたじゃないですか!」

 「いやぁ、夏帆が怒った時に俺に課す懲罰があまり的にも魅力的で……」

 「もう何を言っているんですかっ! 絶対にダメですからね!」

 「うん、了解」

 珍しくというか初めてそこそこ真面目に夏帆に怒られたような気がする。これ以上夏帆を怒らせたり心配させたりしないためにも、ちゃんと改めて直そうと思う俺であった。




 「今日あいつ帰ってくるの遅い……。これで買ってきたお菓子が全部しょぼかったらあいつを殺す」

 俺がディスっている例の女の殺意のオーラを増していき、菓子パンにかじりつく力がだんだんと強くなっていることに全く気が付かない俺はのんびりと夏帆とのお昼休みを今日は少し長めに楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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