26話 「日曜日<月曜日って……」
奈月に振り回された週末が明けてまた月曜日。前期の講義や実習が後半に入ったが、さらにその内容が進んでいくのと同時に夏も近づいてきて気温も上がってとても暑くなる。
そして講義の方も近づくテストに向けての話も増えてきてより休めなくなってきているが、暑さと悪い意味で講義に対しての”慣れ”(いかにどうさぼれば出席点を減らさずにテストにも対応できるかなどの把握)がさらに進行してさらに講義に参加する生徒が減る。そして教授の機嫌が悪くなる。
そんな感じで俺たちの周りの環境はどんどんと変化を見せるが、ぶっちゃけ俺のいつもの行動の流れは変わることは無い。
「健斗君、なんだかいつもよりもお疲れっていう顔をしていますね。この週末あまりよく休めなかったのでしょうか?」
夏帆とこうして実習以外でもご飯を一緒に定期的に食べたりすることも変わらず続けている。
毎週顔を合わせているせいか少しの俺の変化にも気が付くようになったのか、夏帆からは鋭い質問が飛んできた。
「うん? まぁ……そうだね。ちょっとこの週末は色々とあってね」
昨日一昨日と結局二日とも奈月に振り回されるという結果になり、どれほども昨日だらだらと休みの時間を過ごすことが出来なかった。
土曜日は約束であった『奈月の買い物に付き合う』ということに一日を使う。これは想定していたのだが……。
結局日曜日もある女のせいでろくに休めなかったなんて夏帆に言えるわけないんだよなぁ……。
昨日は結局どうなったか簡単に言うと、奈月が俺の部屋から出て行ったのは夕方である。
前回は奈月の方から慌てて起こしてきてそそくさと俺の家から出ていたくせに、今回は全く違っていた。
「……ほら、朝だぞ。とっとと起きろ」
休み特有の二度寝したい欲求を押さえつけながら、朝早めに起きて俺のベッドで爆睡する奈月をたたき起こす。
「うーん……。まだ寝てるから……」
「ふざけんな、自分の家に帰ってから寝直せや!」
自分から起きるどころか、布団を引きはがしても起きる様子はない。大きな音を立てても全く気にすることもない。
この後もさらに一時間ほど起きてさっさと帰るように言ったりしたが全く効果はなく、挙句の果てには俺の声にすら反応しなくなってしまったので俺も静かにしているなら別にもういいやと奈月を起こすことをやめて二度寝を始めた。
しかしその二時間後の事。
「お腹空いた! さっさと起きろー! 朝ごはんにしよーぜ!」
「……家帰って飯食えや! 俺は休みの日は朝や昼ご飯は寝ている限り要らねえんだよ! 用意するものなんてないぞ! ただでさえいつも買い物に行ってた土曜日が昨日一日無くなって食材なんてねぇよ!」
「うぐっ……」
そんなしょうもない会話をいつも通り続けながら結局昼までだらだらはしたのだが、いつものようにベッドで寝れなかったことに加えて奈月が一回起きてからは目覚ましのスヌーズ機能みたいに一定間隔で「お腹空いた」とでかい声で叫んでいたせいでまともな二度寝が出来なかった。
そのあとそのうるささで結局昼前に起きてしまった俺は、奈月に昼飯を出す羽目になった。その後、なんだかんだ強引に奈月を帰らせたときにはもう日が傾きかけていたのである。
「大変だったんですね。無理はしちゃだめですよ?」
「おう、ありがとう」
俺が無理をするしないという話の前に奈月の前では俺は無理をせざる負えないのだが、夏帆が心配してくれることはとても嬉しい。
そんな優しい夏帆に俺はあるものを準備しておいたので、さっそく夏帆に渡してみることにした。
「そういえば、今日は夏帆にちょっと渡す物があるんだ」
「私にですか?」
「うん、これ夏帆にプレゼント。いつも実習のお世話になっているのと前回のキーホルダーのお礼。あんまりセンス良くないし、お金かけられてないけれども……」
「これは……?」
「三つ編みブレスレット。そこまで派手じゃないし、それならいつでもつけていられるし。オシャレで夏帆の落ち着いた雰囲気に合うかなって」
「なるほど、私は派手さの無い地味な女だということですか?」
「い、いや! そうじゃなくって……。なんというか落ち着いた雰囲気で夏帆の上品さを損なわないからその……」
「ふふ、冗談ですよ。健斗君がいっぱい考えてプレゼントしてくれたことが分かって嬉しいです。それに可愛いですし」
実は土曜日の奈月の買い物で最初に買ったブレスレットを見た時、このたくさんのお店の中で自分なりに考えて夏帆に似合うものをプレゼントしたいと思ったのだ。派手なものを売っているお店が多かったが色々奈月について歩いている間に見ていった結果、三つ編みブレスレットにたどり着いた。俺の値段でも買うことが出来るくらいの優しさだったし。
ということで、適当なタイミングで奈月に「トイレに行く」と言って一時的に離れて素早くこのブレスレットを購入してきたのである。
ただ一つ気になることがあって、その時俺はなぜかとても悪いことをしているような気分になった。未だにその理由がよく分かっていないが、夏帆が嬉しいと言ってくれたので何一つ間違っていないということにしておこう。
「早速つけてみました。似合いますか?」
「おお、いいじゃない。自分で選んどいて言うのもどうかと思うけど」
「ふふ、ありがとうございます。なんか周りの女の子が就けているピアスや指輪、ネックレスは派手であまりつけようと思わなかったので……。本当に嬉しいです」
「そかそか。喜んでくれたならよかった」
夏帆の表情を見てもかなり気に入ってくれたようなので、ホッとした。しかし、夏帆の笑顔には癒されるなぁ。毎回何度でも言うが、本当に癒される。
なぜか世の中の大半の人が身体的にも精神的にもコンディションは日曜日>月曜日であるはずなのに、俺の場合は今のところ日曜日<<<月曜日ということになっている。
「今週もよろしくお願いしますね、健斗君っ」
「今週も頑張ろうー」
夏帆と一緒にいると楽しいし、心も洗われる。しかし、午後の講義に戻ってしまうと今頃教室でふてくされて菓子パンにかじりついている女にまた振り回されることになるんだよなぁ……。
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