23話 「一日に二回チョロいと自覚させられる」
昼ご飯を挟んでそのまま午後も奈月の見たいところにただひたすらついて行って、また奈月に似合うかとか聞かれて午前と同じようなくだりをしながら見て回る。
何気に今回初めて奈月が自分の好きなものを買い物をしたところを見たわけだが、俺は素直にこう思った。
結構こいつ、ちゃんと考えて買うんだな。衝動買いとか言う言葉は奈月みたいな性格の人にあるものだと思っていたけれども。
以前にバイトを今は出来ていなくて自由に使えるお金が少ないということを言っていたこともあるのだろうが、色々ちゃんと吟味して本当に欲しいと思ったものだけをチョイスしているようだ。ただし……。
「なぁ、奈月さんよ。俺はそろそろ足が死にそうなんだが」
「え、さすがにそれは貧弱すぎるんじゃない? 本気でちょっと毎日ランニングするとかした方がいいよ……」
引きこもりあるあるで、ちょっと大きなショッピングセンターや商店街を歩き回っただけで足が悲鳴を上げる。多分、今の感覚なら数日間は筋肉痛に襲われるだろうな。
「あとどれくらい見るところあるんだ?」
「心配しなくても大体見終わったわ」
「おお、じゃあもうスーパーに寄って俺はもう帰ることが出来るんだn—」
「見てきて欲しいのがこの通りの一番最初のあたりのやつだったから、そこまで戻ってそれを買ったら今日の私のお買い物はおしまいよ」
「え」
ちなみに今は商店街のようなところにあるが、その端から端まで歩いてまた最初のところまで戻るというのだ。引きこもりに商店街を徒歩でシャトルランは結構拷問かもしれない。走らないからシャトルランって言わないんだろうけど。
「だから”見終わった”って言わなかった? 別に買い物が終わったとはだれも言っていないのだけれども?」
「マジですか……。もう俺をここに置いていってください……」
「なーに言ってんの。そこの物買ったらもう終わりだからもう少し頑張って」
奈月にそう言われてより一段と重くなったように感じる両足を引きずって歩く。もし女の子と付き合えたら金銭面のやりくりだけでなく、身体的にも精神的にも鍛えられるな。新手のトレーニングかなんかに思えてきたぞ。
そしてやっと最初の商店街の入り口近くまで戻ってくると、奈月はお目当ての店の前で止まって「ちょっと買ってくるから待ってて」と言うとそのままお店の中に入って行った。
俺は商店街の通りの道のど真ん中に置かれたベンチに腰掛けた。俺以外に座っている人もすべて男性で俺と同じように疲れているのか、へたり込んでいる人とスマホをいじっている人、子供の相手をしている人だけである。
「元気やなぁ、あいつ」
思い返せば自分も小学生くらいのガキの頃は自分の欲しいものを買いに行くときは親の制止を振り切って走って先に行ってたな。あのエネルギーはどこに行ったのか。
「お待たせ」
そんなことを思っていると、奈月がお店から出てきた。買うものを決めて入っているので出てくるのも早かった。
「ちゃんと欲しいの残っていたのか?」
「うん、これを含めて今日は欲しいもの色々買えちゃった。ありがとう」
すっかり奈月の両手は多くの紙袋でいっぱいである。満足しているようなので今日の目標は最低限達成できたと言ってもいいだろう。
「じゃあ、スーパーで買い物して帰ろうぜ」
「おっけー、何が食べたいの?」
「お前が作りやすいものでいいよ。どうせお前が作ったものなら何でも俺の料理より格上になるだろうしな」
「本当に料理のことに関してはものすごく素直になったね……。そんなに私の料理が恋しいかこのやろー」
「……食べたいです」
「よし、よく言えたぞ」
そんな話をしながら、以前連休時に立ち寄った大きいスーパーに再び足を運んだ。
「今日のその買ったもの、俺が持つわ」
「ん、ありがと」
料理をするのは奈月で素材を選んでもらわないといけないので、俺が荷物を持つことにした。
「え、やたら重いやつが一つあるんだけど」
「大事に持ってよね。私のお金で買ったものなんだから」
見て回ったところは大半が服や小物といったある程度買ってもそこまで重くなかったりしないし、仮に服が重かったとしてもこのやたら重い紙袋の重さというのはそういった服の重さではなく、何か固い物質が袋に入った時の重さなのだ。
中身が非常に気になるが、しっかりと袋の口のところをテープしてあるので中を確認したくてもすることが出来ない。
「これ一体何が入ってるんだ? 今まで立ち寄った店の系統からは考えられん重さなんだけども、どういうことよ?」
「見たら怒るから。健斗はその荷物たちをしっかり丁寧に持ってくれればいいの」
奈月に中身を聞いてみたが、結局何も教えてもらえずそのまま俺はずしりと重い物が入ったものをはじめとする紙袋群を丁寧に俺は持つことにした。
「さて、何を作ろうかなー。あ、せっかく作るんだし私も今日晩御飯一緒に食べてもいいよね?」
「そりゃな。わざわざ俺のだけ作ってさようならって言うのもあれだしな。それに二人分作る方が作りやすいもんな」
「そそ。何よ、話がよく分かっているじゃない。そうと話は決まれば、食材と一緒にお酒も買わなきゃ……」
「おいこら、酒を買うのは今日禁止だぞ」
奈月がお酒を買う気満々の発言を早速しているので、俺はすかさず彼女にお酒購入禁止令を出した。
「なんでよ! 健斗のお金だけで食材全部買うだなんて言わないし! 私だって半分ちゃんと出すから別にいいじゃん!」
「ダメだって。今日はお前俺の家に泊まるわけじゃないんだ。前みたいに泥酔されると俺としてもお前の扱いに困るんだよ。……色々と」
あの時はまだ初めてだったからまだまぁまぁぐらいで収まるかもしれないけど、二回目以降はさすがに洒落にならない。
「……いいじゃん。ケチだな」
「癖になったりでもしたら困るだろ。っていうか俺が何かしないかとか心配じゃないのかよ……」
「どうせ童貞だからビビりで何も出来ないでしょ」
「ぐ……。まぁそうかもしれんが、お前のためにもだな……」
「はいはい、分かりましたよーだ」
俺の言葉は最後まで聞くことなく彼女はいじけてしまった。確かに俺としても奈月とお酒を飲むことは非常に楽しいが、ここはぐっと我慢しないといけないと思う。
「お酒ぇ……。飲みたぁい……」
我慢……しないと。ここは心を鬼にして奈月のためにも……。
「お休みの時ぐらいゆっくり飲みたいのに……」
いやいや……。……。
「うう……」
「分かった分かった! ただし、いつもよりは本数はちゃんと抑えてもらうからな!」
「了解でーす☆ やったぜ!」
その言葉を言った瞬間、奈月は食材を買うことよりも先にお酒コーナーに駆け込んでいった。それはまるで先ほど思い返した俺がガキの頃にゲームコーナーに向かう時の意気揚々とした姿とあまりにも酷似していると思った。
「あいつ元気やな……。そして俺は……ちょろいな」
もっと厳しくなろう。仮に甘やかすとしても許されるのは夏帆だけだと思う。奈月と梨花にはもう少し俺は厳しく向き合う必要があると改めて思った。
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