22話 「オシャレ人権無し→エロ野郎」

 すっかり奈月に乗せられてお互いに選んだブレスレットを買った後、また俺は奈月について彼女の行きたい方向にしたがってついて行く。

 「進んでも進んでも同じような店がずっと続いているんだが……」

 「すごいよねー、こんなの都会じゃないとこんなところないもん」

 確かにこんな同じような商品を売っているお店が同じ場所に密集しているスタイルを取れるのは確実に都会だけと言っていい。田舎でこんなことをしたら確実に生き残っているのは一店舗だけになる。

 「しかしいくら人が来るとは言え、ここの場所代やら含めて採算取れるものなんかね? こういう人がいっぱい来る場所はやっぱり場所を借りるだけでも結構かかりそうなもんだがね」

 「なーに難しいことを考えているんだか。こういう場所ならその店舗がなくなったら、すぐにまた同じような店が出来るからいつも同じように見えるだけよ」

 「なるほどな」

 以前俺の服を奈月に選んでもらった時とあまり変わらない感じの店の並びなので、相変わらず俺は服を売っているか、装飾品を売っているかとかの違いしか分からないので服を売っていたらどこも同じようにしか見えていない。

 だから奈月があるお店には寄りたいと言うが、こっちのお店には寄らなくていいのか?と聞くと別にそこは興味ないからいいとかあっさりスルーしたりする。

 常々、女の人の買い物は難しいと思う。それに比べて男の買い物って……。俺たちは簡単でいいよな、うん。

 「健斗、これどう? 私に似合うと思う?」

 奈月が一つ服を手に取ると体に当てながらそう俺に訊ねてくる。

 「え? 似合うんじゃないか?」

 「こっちはどう? 私に似合うかな?」

 今度はまた違う服に持ち替えて再び同じように俺に訊ねてくる。

 「えっと、似合っていると思うけど」 

 そんなやり取りがしばらく続いたのだが——。

 「……健斗。これはどう? 私に似合っていると思う?」

 「え? 似合っているんじゃないか?」

 俺はよく分からないのでとりあえず奈月が持ってきて俺に聞くということは奈月の中で結構いいと思って持ってきているのだろうし、よく分からないのに批判するのもどうかと思ったのでとりあえず同じようなことを言っていたのだが。

 「ちょっと! さっきからどれもこれも似合うってしか言ってないじゃん! これのどこが私に似合っているのよ! こんなサングラスしてフード付きの服着たらただの不審者でしょうが!」

 どうやらそんな俺の反応がお気に召さないらしい。わざと似合わないコーデを持ってきて俺がちゃんと否定するか試したようだ。

 「えー、なんかそういうのですら奈月が持ってくるのならなんかもうここ最近のトレンドにでもなっているのかと。えっと不審者コーデとかいう感じで……」

 「そんなわけないでしょ! 一体、健斗は女の子のトレンドを何だと思っているのよ……」

 「というか俺に聞くなって。自分の服ですらちゃんと選べない男に女のオシャレを総合的に考えて判断して似合っているとか似合ってないとか分かるわけないじゃん」

 「……可愛いか可愛くないかとかさっきのブレスレットの時同様分かるのでしょうが」

 奈月はそう言うが、俺のような一部の男が思うことで女性からすれば最低だと思うかもしれないけれども正直なところ美人か可愛い人、またはスタイルがいいとどれもちゃんと着こなせているようにしか見えない。

 だってテレビに出ているモデルとかだったらどんな変態コーデでもその人たちが着たら、それなりに様になっているんだもん。そう思ってしまっているやつに聞こうというほうが間違っているとは皆さん思わんかね?

 奈月はむかつくことに結構身長は高くて出るところは出ているので、スタイルがめちゃくちゃいい。っていうか毎回思うけど、こいつあれだけ物食っているのになんで体がそんなに細いのか。

 それに容姿も……。認めたくはないがいいので何を着ても様になっている、としか思えないのだ。

 ちなみにほかの女性陣のお話もしておくと、夏帆は奈月ほど身長があるわけではないが夏帆もかなりスタイルがいい。一方、梨花はここ最近のSNSの写真を見ても高校時代の時と変わらぬ平地が広がっているようだ。

 高校時代からあのいつものらりくらりどんなことも軽く避けながら生きる梨花が唯一俺の前で死んだ目をしながら自分の胸に手を当てながら「健斗よ、やはりないとダメなのだろうか」とぶつぶつ言っていたからな。で、どうしたらいいか梨花に尋ねられるごとに豆乳飲むかキャベツでも食えばいいんじゃね?って言うといつも「変態、セクハラだ」と言われるのだが、なんて言えばいいの? まだ「誰かに揉んでもらえば?」ってだけは言わないでおこうって配慮したのにな。

 最近SNSのリプライで一方的に梨花をフォローしているやつが「梨花ちゃん相変わらず死ぬほどかわいいけど、まな板だよね(笑)」と送ってきたのを晒しあげた挙句、ブロックしていたからな。相変わらず本人はかなり追い詰められているらしい。

 梨花がマジで切れたところをこの俺ですら見たことがないのだけど、多分唯一梨花を本気で怒らせられるのがこの話題だと思っていいだろうな。

 「ちょっと健斗! 何ぼーっとしているのさ!」

 「ごめんごめん。そんな焦らなくてもまだたくさん見ていないお店あるし、そこまで見てから考えようぜ。俺もちっと真面目に考えながら見るからさ。それで一番似合っているやつをまた買いに戻ってくればいいし」

 「そ、そうね……。まだ見たいとこたくさんあるし、そうしようかな」

 「一応真面目に意見はするけど、絶望的なセンスの発言だから文句は言ってくれるなよ?」

 「うん」

 その後、数時間かけて奈月の見たいと言った服屋さんに回って彼女が持ってきた服について俺なりに真面目に考えて発言してみたが、結局ボロクソ言われて途中から俺に聞くことを止めてしまった。

 「結局健斗はただのエロいやつだってことがよーく分かったわ。似合っているって言ったの露出多い服ばっかりだったし。……最低」

 「……」

 さっきの言葉を思い出せって言い返したかったけど、確かに思い返してみれば自然と露出が多い服ばかりを彼女に勧めていたような気しかしない。

 もうすぐ夏だからね、暑がりな俺からしたらそっちの方が快適……だと思ったんだろう。あら俺って超優しい。オシャレと快適さを考えられるなんて。

 まぁなんだかんだあったが、彼女は一番欲しい服を無事買うことが出来たようで非常に満足そうにしていたので良かったと思う。

 いつも通り奈月に終始振り回されたけど、こういう外出を奈月とするのも楽しいと思えたので良かったことにしておこう。

 

 

 


 

 

 

 

 

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