23話 「幼馴染?に挑みました」
今週の実習の内容は至って平和である。と言うかあまりにも先週が大変だっただけで、先週の採取した血清を使っていろんなデータを出してそれをグラフに表したり考察をまとめたりすることがメイン。
来週はまたラット関係を扱うことになるできつくなるが、今週は中休みと言った感じで夏帆もすごくリラックスしていた。それどころかこういう分野になると俺がすっかり夏帆の力に頼りっぱなしだったんだけれども。
夏帆はとても優しいので何一つ嫌な顔をせずに俺のアドバイス含めて面倒を見てくれたので、ただただ感謝しかない。
2時前から始まって先週なら6時過ぎまで実習だったが、今日はなんだかんだ5時くらいには終わった。体感として随分と楽に感じる。
夏帆とはもう臆することなくコミュニケーションが取れることもあって、俺にとっては実習はそこまで苦痛なものではなくなってきているのだと思う。
そして実習においてうまく事が進んでいるのは俺たちだけでなく、奈月のほうもうまくいっているらしい。
『だんだん同じプラッテ(実験机)のほかの班の子が助けてくれたりしてね。困ったらその子たちが助けてくれるようになった』
最初こそはみんなよそよそしい感じだが、やはり何度か顔を合わせて活動しだすとだんだんと話す言葉も増えてお互いにサポートをし合っていくもの。
きっと奈月の大変さや頑張っているところを見て色々と感じてくれたのかもしれない。今日の電話ではだいぶ楽だったとは言っていたが、随分と元気だったので近くに助けてくれる人が出来たことが一番の要因だろう。
大学はいい意味で拘束された団体行動が少ない。それはお互いに不快に感じるほど長時間一緒に居る必要がないということで、お互いに心の余裕を持ちながら助け合える。いじめや陰口と言った団体行動のマイナスの面よりはプラスの面が非常に大きく出る。
同性同士の協力はもちろん、大学生くらいになれば同じ実験机でいるメンバーなら異性同士の話だって違和感なく出来るものなのだ。
「そりゃよかった。お前の声を聞いていたら、相当支えになってくれているっていうことは今日のお前の元気ぶりからよく分かるよ。その子が困っていたら助けてやれよ?」
『言われなくても当然よ』
そんな優しい子たちに助けられたこともあって、俺に対していつも続く長時間の愚痴は今日は全くなくてすぐに会話が終わった。
「今日は時間あるな……。梨花に電話かけてみるかな……」
自分の中で空いた時間があるときに早めに梨花に電話をかけて色々と奈月が泊まりに来る前にするべきことを教えてもらわねば。
実習、講義、小テスト。そんなことを言っていたら、あっという間にGWが来てしまう。梨花がバイトとか友達付き合いとかがあって繋がらないことも考えて早めにかけてみようと思う。
俺はメッセージアプリを開いて梨花のページを開いて通話ボタンを押す。何気にこれを押して自分からかけるのは初めてだ。親には普通の電話でかけるからね。何か言いたいやつもいるだろうが、ここでは発言させる気はない。俺の心をクラッシュされるわけにはいかないのだ。
『やあやあ、健斗君。どうした? 最近電話で話したばかりだが、もうさみしくなってしまったのかい?』
梨花はすぐに電話に出た。いつも通りの口調である。
「よう。たまには俺からかけるのもありかなと思ってな」
『珍しいな。いつも私からかけて嫌そうに出るのがいつもの流れだというのに。何か聞きたいことでもあるのかい?』
「お、鋭いな」
『ふっふっふ。これでも君の幼馴染だよ? 君の心理などお見通しなのさ』
ちょっと分かってくれて嬉しいけど、こういう反応は死ぬほどうぜぇ。ちょっと梨花は厨二病みたいなところもある。前回の会話でもそんな感じだったし、今更だけれども。
『で、聞きたいことは何かな?』
「今度さ、友達が家に泊まりに来るんだけどさ」
『ええっ!?』
梨花の異常な驚き方をしていた。こいつの性格からしてわざと煽っているのかと思う人もいるが、今の驚き方はマジだ。
『じ、自分の家に遊びに来させるどころか人の家行くことですら誘われても頑として行かなかった君が人を泊まらせるだと!?』
「ま、まあそういう反応になるわな」
こればかりは認めざる負えない事実。小学校までは仲のいい友達の家に行ったり呼んだりして遊んだが、中学時代から闇落ちしてからは人のテリトリーにも入りたくなければ、自分のテリトリーに人を入れるなんて死んでもしたくなかった。
確かに大学に入ってと言うか、奈月によってこういうところも俺は変えられているような気もするな。
『ま、まあ君が変わっているようで嬉しいよ。アドバイスとしてはそうだな……ただ遊びに来るだけでは入ってこないお風呂場とかの掃除は当然の事、洗濯物は出来るだけ前日のうちに回せるものはすべて回してしまって干して片づけておくといいぞ。さすがに他人の前で洗濯物を出すわけにいかないだろう?』
「それもそうだな……」
『後は泊まるならちゃんとベッドや布団はきれいにしておきなよ。汚いところで寝かせるなんて最低だぞ』
「……」
『どうした?』
いやもうすでに汚いベッドで一度女を寝かせてしまいました、梨花さん。どうすればいいでしょうかなんて聞けねぇ。
「なんでもない」
『そうか。とにかく綺麗にしておくことだな。ま、前回電話をしたときに掃除をやけにしていたようだから大丈夫だとは思うが』
「そこはな」
なんだかんだで俺の事をよく把握し、考えてくれる梨花。
『それより、今日は私のことについて聞きたいこと、セクハラしたいことなどは無いのかい?』
「あ? あるわけねぇだろ。てめぇのことなんざどーでもいい」
『そうは言うものの、どうせ泊まりに来るというのはこの時期から考えてGWの予定というところだろう。まだ先の事であるのに、こんなに早く聞きに来たということは私のリアルの用事を気にかけてということだろう?』
「……」
「図星のようだね。もう15年近く付き合いのある幼馴染に対しても遠慮してしまう君はとても可愛いぞ。そういうところは変わっていなくて私は嬉しいよ」
「う、うるせぇぞ! もう電話切るからな! 情報に関してはありがとうだよ!」
『ははは、また電話してきてくれたら嬉しいぞ?』
最後の梨花の言葉にはあえて反応せずに切ってやった。ちくしょう、やはりあいつに勝つことは出来ない。いろいろと俺の考えていることはお見通しでその上でかわいいだの、面白いだのいじり倒す。
本当に梨花には勝てない。いつも変な口調だし煽ってくるし弄ぶし。
でも、それでも。
それは誰よりも俺の事を理解してくれているからこそであって。いつも俺の悩んでいることや考えていることにそっと気が付いてアドバイスをくれる。
本当にむかつく。でも一番頼りになる。
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