24話 「奈月と割と普通な雑談」

 いつも通り奈月と午前の講義を受けていると、ふと奈月とこんな話になった。

 「健斗ってさ、カフェとか行ったりする?」

 「……こんなボッチの男がカフェ行ってたら女の子たちから通報もらいまくるとは思わなかったか?」

 「……どんだけ自己評価低いのよ。会社務めるサラリーマンとかだって普通に居るんだよ?」

 当然、高校大学生にもなるとみんなス〇ーバック〇とかのお世話に一度や二度は大抵の人がなるのではないだろうか。

 テスト勉強の場所に。友達との雑談場所に。はたまた恋人との癒しの場所に。

 まぁ、そういうところに行けるということは一種のリア充と言うことである。当然一人で行く人もいるだろうが、そういう雰囲気を楽しもうという気持ちがなければあまり行くことなどないだろうからな心に余裕があるということは素敵なことである。

 ちなみに俺はこのカフェと言うものに別に恨みはないが、俺が中学校の時は金持ちの子供ばかりで毎日学校終わりにスタ〇に行くことが当たり前だと思っていたようだ。俺は一回も行ったことないと言った時には「庶民の味を知らないお坊ちゃん」と言われた。貧乏ということでいじられるのではなく、あまりにも相手が世間知らずすぎる煽りをしてきたので今でも覚えている。

 それ以来、行きたいとなんか一度も思ったことがない。っていうか行く機会もなかったし。

 バイトも出来ない中学生が毎日500~1000円使うのが当たり前なんだとか。それ以外にも母親がお弁当に色どりで入れてくれたカイワレ大根を雑草とか言われました。マジで世の中舐めてますよね。

 「健斗、目に光がないよ……。ごめんって嫌な思いで思い出せて。今度一緒に行かない?」

 「奈月と一緒なら行ってみたい」

 「おっけ。今度行こ」

 コーヒーを飲むことは別に嫌いではない。親が飲むということで一緒に飲んでいるうちに飲むようになった。ちなみに俺はコーヒーはブラックしか飲めません。

 それであんなおしゃれなカフェの飲み物を楽しめるのかすらよく分かっていない。

 「奈月は行くのか? ああいうところはやっぱり」

 「そうだね、やっぱり女子はそういうの好きだよ」

 「頻繁に行くと結構財布事情厳しくならないか?」

 「まぁ、そりゃね……。でもちゃんと節約するところはしているからさ。ほらちゃんと自炊するとかさ」

 

 !?


 こ、こいつが自炊をしているだと……?

 天地がひっくり返ってもそんなことをしないと思っていた俺は今この奈月の発言に雷を打たれたような感覚になった。

 しかし彼女はそんな衝撃を受けている俺の事など全く気付く様子はなく、そのまま話を続けてくる。

 「ねぇ、自炊ってちゃんとやってる?」

 「あー……しんどい時はやらないな。実習がない時はそこそこ早く帰るしまだ気力あるからやったりするけど、実習ある日はしんどくて作り置きしたものか冷凍を電子レンジでチンっていうパターンが多いな」

 「へぇ……毎日体に悪いものしか食べてないのかと思ってたけど、意外にちゃんと作り置きとかするんだ」

 「意外には余計だ。お前こそいかにも料理が出来なさそうじゃないか。自炊しているだなんて嘘だろう?」

 「心外すぎる。私のどこをどう見たらそんな発想になるのか」

 いやいや。そのチャラチャラした見た目といつも脱力した様子からして絶対に料理できない女の雰囲気が漂っていますけれども。

 あとそのコメントも料理が出来ない女がいかにも言いそうな言葉だ。

 「お前が料理作るとこを想像すると嫌なものしか浮かばないんだけど……」

 「むかつくー、絶対にその発言後悔させてやる」

 「じゃあ何が作れるか言ってみ? カレーか? シチューか?」

 「クッソ腹立つううううう! そんなの材料を切れたら出来るようなラインナップじゃん! どっちもほぼ作る過程同じだし!」

 「そんなことないぞ? まずは焦がさないように炒められるか。あと水の分量を間違えないか。あとは……カレー作っているときにシチューの要領で牛乳入れないか?」

 「なんで今日こんなに煽りがキレキレなんだ……」

 俺の想像では、カレーが完成段階まで来て牛乳入れだして「バターチキンカレーみたいじゃない?」とか言って出してきそうなイメージだ。

 それぐらい奈月の料理をするということが想像出来ない。

 「分かった! 今度私の家に来て私の料理を食べればいいんだ!」

 「え? あ、いやいいですよそんなの」

 「マジで信用してないな、その目は! 何でも希望のものを作ってあげるから食べたいものを言ってごらんなさい?」

 奈月はどうしてもこの俺の認識を変えたいのか意地になっている。

 「そうだな、別に何でもいいから和食をじゃあ作ってくれよ」

 「和食ね……」

 和食と言うのは非常に手間がかかると以前、母親が言っていた。その上外国の料理に比べて味はかなり繊細でなければならない。

 果たしてこの難題にどう対応してくるのか。

 「分かった。今度、筑前煮や煮魚作ってあげる。だから今度は私の家に来なさい? 喧嘩を吹っかけてきてまさか逃げるだなんてことしないでしょうね?」

 「マジで作るのか……?」

 和食とかいう難しい課題を出せばおとなしくなると思ったのに、割とちゃんとしたメニューを口に出して作ると言い張りだした。

 「お酒も用意してあげるから来てよ。先週色々ごちそうになった分は私だって返したいし、それで今の認識変えられたら最高だしね」

 「分かった。またその予定も考えようぜ」

 「うん。出来るだけ早めに見せつけたいね。本当にごめんなさいって言わせてやるんだから」

 奈月はめちゃくちゃ気合が入っている。その気合が空回りしないといいがな。

 「ただめっちゃまずかったら俺たちの関係もここまでだ。俺は飯にはうるさいからな。まずい飯を食わされた相手は海よりも深く恨むぜ?」

 「作り置きや冷凍で普段小さくまとまっているやつが偉そうに……。絶対においしかったって悔しそうな顔で言わせてやる……。もう私の料理食べた後、作り置きが食べれないって泣いても知らないんだから!」

 何故かカフェの話から熱い料理についての話になったこの午前の講義。残念ながら話に夢中になりすぎてほとんど講義を聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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