14話 「女を弄ぶのは色々と危険」
俺が神崎さんからのまさかの攻撃を受けて全身がいつもと違う疲労感に襲われてベッドに転がっていると、スマホが置いていた自分の机の上で暴れ始めた。
「あいつのほうも終わったか」
俺はベッドから這いずり落ちるようにして降りて机まで向かってスマホを取って電話にでる。自分の部屋の中じゃ怠惰を極める俺。
「はいよ」
『出るのおっそい! すぐに出てよ!』
「はいはい。で、今日は何とかなったか?」
『うん。今日は声かけてくれてありがとうね、すごく嬉しかった』
「そうお前に言ったしな。そこは問題ないってことよ」
『いや、大ありでしょ。こっちばっかり見すぎて君のペアの子超不思議そうに見てたよ。もうちょっと自然に出来ないわけ?』
どうやらこいつから見ても明らかに不自然だったらしい。そりゃ神崎さんも違和感感じて声をかけてくるに決まっている。
マジで今日の俺見たら大半の女子は引くはずのなのだが……神崎さんの優しさはやはり神か仏か思えてきた。この疲労感も神崎さんの優しさから生まれたものを思うとすげぇ尊い。
『まぁ……それだけ私のこと心配してくれたのは分かったけどさ……』
「ならいいだろうが、ぜいたくを言うな」
『さりげない優しさが女の子に対して必要だというのに……』
「問題です。そんなことが出来ていたら、俺はボッチだと思いますか?」
『あっ……』
そこで「ノー」とか最悪「ざっこw」とかでいいので言って欲しい。本気でしまったみたいな声を上げないで欲しい。マジでそっちのほうが傷つくんですけども。
「はぁ……電話切ってもいい?」
『いやいや! 本気で萎えないでよ!』
「どうせ俺はずっと冴えてませんよええ……」
『そんなことないってば!』
こいつがしばらく本気で慌てていたのでちょっと面白くて、そのあともうちょっとこの状態を続けたら今度はこいつがだんだんいじけだしてしまった。
「ごめんって」
『どうせ私は性格悪い最低な女ですよーだ』
自分で言いたくないけど、俺たちこういうマイナスなところはめちゃくちゃ似てるのかぁ……。もっといい面で似ているところがあって欲しかったな、せめて。
本当はこんなやつとどこも似たくなんてないんだけれども。あ、容姿ならウェルカム。今からでもイケメンになれるなら俺は異世界転生でも転移でもなんでもする。
俺だってイケメンで高校時代までに可愛い女の子といちゃつけてれば、こんな陰キャ人生などではなかっただろうしな。イケメンなどこの世から消えてすべてマイマイカブリになれや、ちくしょう。
「はぁ、よし分かった。今週めっちゃ頑張っていたから俺に出来ることなら何でもするから機嫌直してくれ!」
『ん? なんでも?』
「金銭要求とかしたらマジでぶっ飛ばすからな」
『それ何でもじゃないじゃん……ま、どうせたいして金持ってなさそうだしそんなこと要求なんかしないけどさ』
昨日から思うけどこいつ機嫌悪くなると、毒舌キャラにでもなるわけ? めっちゃ毒舌ストレートに回転数かかっているんですけど。
『そうだなぁ、週末一緒に遊んでくれたらいいかな』
「遊ぶ? 漠然としすぎやな、もっと具体的に頼む」
『遊びに行くか、どちらかの家に集まって遊ぶとか……』
「どちらの家に集まって遊ぶ……だと!?」
こいつは何を言っているのだろうか。前者はいい。ごくごく普通に見受けられるリア充の光景だと思う。その一人になれてひゃほおおおうって言える。以上。
しかし、後者はどう考えてもアウトだ。大学生の異性二人だけ集まって遊ぶ? ナニをするんですかねぇ?
「こ、後者はダメだろ……さすがに」
『なんで?』
「なんでってお前な……」
本当にこいつ分かっていないのか。いやそんなことはさすがに無いだろう。ちょっと一緒に大学に居たくらいでひょこひょこ他人の男の部屋に来ようっていう考え方をするこいつの頭が心配になる。
この常にボッチの男ですら周りの品のない話が大きな声で聞こえてくる話でなかなかえげつない話を聞いて知っているくらいだというのに……。
もしかして、やはりこいつは最初に想像した通りそう言うことに抵抗があまりないタイプか……。
『……変なこと想像したでしょ』
「しないほうがおかしくね? お前今までそんなノリで男と関わってたわけ? 体を大事にしろよ……」
『……いや、今まで男の部屋なんて行ったことないから』
「そうかそうか、とりあえずどっか遊びに行こうぜ」
『絶対に信じてないなこれ』
いや、信じられるわけがない。そしてあまりその話とそこから始まる想像を広げたくない。なぜか話している女が抱かれまくっていると考えるだけで謎の大ダメージ心に受けている。これ気持ち悪い童貞の発想ってやつな。笑ってくださいよ。
「どこ行く?」
『やだ、君の家行く』
「いやいや……」
部屋をぐるっと見渡しながらその彼女の要求を拒否してみた。今は特に散らかっているとか見せたくないものがあるとか言うわけではないが、なんだか女に部屋を見られるとなると落ち着かない。
『出来ることなら何でも聞くんでしょ? これはさすがに出来るだろう引かないから』
しかし、彼女は一歩も引くことなく俺に要求を突きつける。だめだ、こいつの機嫌を悪くした俺の失敗だ。
「……わーかったよ。それで」
『やったぜ! これで昼飯と晩飯代も浮くぜ!』
「飯まで世話になっていくつもりかよ!? どんだけおこがましい奴だよ!」
『女の子には……なんでしたっけ? 今日の大事な話の主軸をもうお忘れですかね?』
「くっそ……安い飯でも文句言うなよ」
『いえーい』
だめだ、こいつと交渉とかすると間違いなく飲まれる。たいていいつも話をしていてもこいつにペースを持っていかれているあたりで学習していない俺が馬鹿なだけなのだろうけども。
『あ。あとさ』
「なんだ?」
『お互いにさ、”君”とかそっちに至っては”お前”か”こいつ”呼ばわりだし、そろそろちゃんと名前で呼ばない?』
そう言えば、こいつの名前知っているのにいつも呼んでない。今もこいつってなったしな。
「じゃあなんだ、伊藤でも呼べばいいか?」
『名前でって言ってんだろーが』
「えー、じゃあ奈月って呼べばいいの?」
『嫌そうに言われるのがすげぇむかつくけど、まぁいいや。私も健斗ってこれから呼ぶからね。そこんとこよろしく』
「あいよ。じゃあ、明日の講義で週末のことについては伝えるわ。今日も早めに寝ろよ疲れてるんだろうし」
『はーい』
そんなこんなで話が終わって電話が切れかけようとした瞬間だった。
『あ。名前で呼ぶことも決まったし家で遊ぶことも決まったし、お互いに名前呼び合っていちゃついているシチュ妄想して抜いていいぞ☆ 出しすぎんなよ☆ じゃーね』
そのまま電話を切られたため、言い返す暇がなかった。
「……ぜってぇやすい飯食わせてやるぞこの野郎」
その夜は意地でも抜くことしないと俺は固く決意したのであった。
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