クローン・キャスト小梅、怪談に挑む

亀野あゆみ

1. 小梅、江戸時代へ飛ぶ

 時空転移装置の窓から、星が見えていた。ヤバいよ。この装置、壊れてんじゃないの。あたしの勤め先、「日本昔話成立支援機構」の時空転移装置の窓からは、星なんか、見えない。無数の光の筋が猛スピードで走り去るのが見えるだけだ。星が見えてるなんて、おかしいじゃん。

 しかも、この装置は、スタートしてから、ガタガタ揺れ通しで、あたしは、頭をシートのヘッドレストに打ち付けて、目から火花が散りそうだ。

 外から見た時に、イヤな感じはあった。この装置は、「昔話成立支援機構」のものに比べると、ひとまわり以上小さい。しかも、特殊合金の一体成型じゃなくて、あちこちに、溶接のあとがある。溶接なんて、あたしたちのラムネ星では、前世紀の技術だろうが?


 あたしは、「日本昔話支援機構」に所属して、日本昔話の成立を助けるクローン・キャストの小梅だ。もっとも、小梅ってのは、あたしがクローン人間養育所でつけてもらった愛称で、あたしの正式名称はM2018だ。

 つい先日、あたしは、日本昔話のひとつ『屁こき嫁』を成立させるために、日本の「むかし、むかし、あるところに」送り込まれた。特大級のおならをする嫁を演じるはずだったんだけど、ここぞという所で、鼻の穴に羽虫が飛び込んだせいで、おならでなく、超特大のクシャミをしてしまい、『屁こき嫁』は不成立。

 あたしは、減給処分を食らった上に、あたしの鼻水被害を受けた現地の商人への賠償金をボーナスから差し引かれることになった。鼻に羽虫が飛び込むなんて、まったく想定外のアクシデント。それなのに責任を取らされるなんて、とんでもない話だ。


 そこへ上司が、『日本怪談成立支援機構』からの応援要請に応えたら、減給もボーナスからの天引きもチャラにしてやると言うもんだから、あたしは、迷わず、引き受けたね。でも、今では、後悔してる。だって、命あっての物種だよ。給料減らされようと、ボーナス差し引かれようと、生きてりゃ、たまには上手いモノでも食って、冗談言って笑うこともできる。だけど、オンボロの時空移転装置に閉じ込められて、宇宙の彼方に飛ばされちまったら、それっきりだ。

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