第34話 ドラゴン・プレッシャー

 私は自分を転がしたのは何かとうしろを振り返る。

 でも、見えるのは青々とした草むらのみ……。


「ナビー、大丈夫か!?」

「怪我はないか!?」

「どれ、見せてみろ!!」


 私を心配して参謀班の3人が駆けつけてくれる。


「うーん、大丈夫、心配しないで……」


 と、私は乱れた長い金髪を手で整える。


「本当か? 立てるか?」

「挫いたりしてないか?」

「膝擦りむいてないか? どれ、見せてみろ」


 みんなが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「もう、過保護なんだから……、大丈夫だってば……、ほら!」


 と、私は元気よく立ち上がり、パッと体操選手みたいに両腕を開く。


「大丈夫そうだな、よかった……」

「それにしても、何につまずいたんだ? 何もないはずなんだが……」

「わかんない、あの辺でつまずいたぁ」


 と、私はつまずいた辺りの草むらを指差しながら言う。


「この辺か……?」

「何かあるのか?」

「探してみよう」


 参謀班の3人が雑草を足でかき分けながら辺りを捜索する。


「人見、これだ、見てくれ」


 青山が何か見つけたみたい。


「お、でかしたぞ、ナビー、ビンゴだぜ」

「これか、あの魔力の正体は……」

「うーん? なぁに?」


 と、私も背伸びをして、彼らのうしろからそれを覗き込む。

 それは金と銅の中間みたいな色をした丸い棒。

 それが斜めに突き刺さって地面から伸びている。

 杖? そう見えた、先端にシルバーで、天使のような彫刻が施されていたから。


「どうしたの、ナビー?」

「何かあったのか?」

「あ、うん、それにつまずいて転んじゃった」


 と、騒ぎを聞きつけて来てくれた夏目と和泉に事情を説明する。


「なんなのこれ? 彰吾たちが探していた物ってこれ?」


 人見に尋ねてみる。


「ああ、これだ……、不明な、微弱な魔力反応があったものでね……」

「へぇ……」

「だが、たいした代物ではない、場所も特定できないような微弱な魔力反応だったからな……、ただ、その魔力を帯びた物が刃物類であった場合は話が別だ、東園寺のバーサーカー・イン・ザ・ブレードや鷹丸のファルケン・シュベルトの切れ味は知っているだろ? 魔力を帯びるとあれほどの切れ味になる……、もし、それと気付かず踏みつけてしまったら大変だ、怪我じゃ済まない……」


 確かにね、魔力が込められていなくても、剥き出しの刃物がその辺の草むらに落ちているだけでも大惨事になるよ。


「じゃぁ、さっさと処分するか……」

「おーけー、やっちまおう」


 と、青山と南条が、その杖みたいな棒に手をかける。


「せーの、で、いくぜ?」

「おう」

「せーの」


 そのかけ声で杖のような棒をひっぱる。


「おう?」

「な、なんだ?」


 二人の手が止まる。


「どうした?」


 人見が怪訝そうな表情で尋ねる。


「い、いや、なんか、おかしい……、びくともしない……」

「ここ、地面だよな、土だよな? なんで、びくともしないんだ、まるでコンクリートにでも突き刺さっているみたいだ……」

「あ、いや、これ、でかいんだ」

「ああ、そういう事か……」


 と、彼らが何度も棒をひっぱりながら話す。


「船体の一部か?」

「そうかもしない、人見……」

「そうか……、なら、撤去は無理だな……、一応、本当に船体の一部か確かめよう、掘るぞ」

「おーけー、人見、シャベルだな」

「了解」


 と、彼ら3人がシャベルを取りに行く。


「それにしても、綺麗な細工だよね……」

「そうだね、材質はなんだろう?」


 参謀班がシャベルを取りに行っている間に夏目と和泉がその棒に近づいて彫刻部分を観察する。

 私も何気なくそれを見ようと近づく。

 濃い金色の棒と、その先についた銀色の天使の飾り……。


「うーん……」


 よく見えん……。

 私は顔を傾けて、その天使の飾りと角度を合わせる。


「うーん……、うーん……」


 そして、その棒を掴んでさらに顔を傾ける……。


「うーん……」


 顔を精一杯傾けるけど、あっちも逃げるように傾いていくぞぉ? 


「あっ!」

「な、ナビー!?」


 そのまま、トテン、と、身体ごと横に倒れた……。

 な、なぜ……。


「えっ、倒れた?」

「な、なんだ、これ、剣……?」


 と、夏目たちが言っている。


「うーん……?」


 半身を起こしてそれを見る……。

 私のお尻の下には濃い金色の棒がある、ちょうど私が跨る感じ、そう、魔女スタイルだ……。

 そして、私の後方には……。

 大きな、それは大きな刀身があった……。

 刃渡り1メートルは優に超える大きな刀身……。

 それは分厚く片刃、みねの部分には白いガードが付いていて、それに見た事もない青い文字がびっしりと書き込まれている。


「ど、どうした、ナビー!?」

「ぬ、抜けたのか!?」


 と、人見たちも駆けつける。


「なんか、倒れたら、出てきた……」

「倒れた?」

「あんなにがっちり埋まっていたのに?」

「ナビー、ちょっと、どいてくれ」

「うん……」


 と、私は棒を跨いで立ち上がる。


「で、でかいな……」

「なんだ、これ……」


 あらためて見ると、ホント大きい……、たぶん、棒、柄の部分を合わせると、私の身長より少し大きい、150センチくらい、いや、もっとあるかも……。

 しかも威圧感も凄い。


「まぁいい、掘り起こす手間が省けた……」


 と、人見が柄を握る。


「な、に……?」


 持ち上げようとするけど、ぴくりとも動かない。


「な、南条、青山、ちょっと、手伝ってくれ」

「おーけー、人見」

「重いのか?」


 と、今度は3人がかりで持ち上げようとする。


「う、うそだろ……」

「え……?」


 またぴくともしない……。


「い、和泉も頼む……」

「お、おう……」


 4人でも動かない……。


「な、夏目さん、あと、ナビーも……」


 最後はみんなで持ち上げる事になった。

 なんで、私まで……、と、思いつつ柄の部分を握る。


「いくぞ、せーの!」


 と、簡単に持ち上げられた。

 しかも、超軽いよ。

 なに、もしかして、今までのお芝居だったの? 騙された……。

 と、私は手を離す。


「ぎゃぁあああ!?」

「うわああああ!!」

「おげああああ!!」


 私が手を離した途端、みんなが支えきれずに剣はそのまま倒れた。


「な、なんで……」

「び、びっくりした……」

「こ、腰が折れるとかと思った……」


 な、なんで、超軽かったよ……。

 私はもう一度剣の柄を握ってみる……。

 そして、力を入れる事もなく、すっと剣は持ち上がる……。


「なぁんだ、やっぱり軽いじゃん」


 と、私は垂直に剣を立てて、その美しい刀身を見上げる。


「な、なんで……?」

「うそだろ……?」

「し、信じられん……」

「ちょ、ちょっと、ナビー、貸してみて……?」

「うん、はい、ハル」


 と、私は和泉に剣を手渡そうとする……。


「うっ」


 うん? 

 あ、駄目だ、僅かに力を抜いて渡そうとした瞬間、和泉がバランスを崩した。

 私はとっさに両手に持ち替えて、剣のウェイトが彼に行かないようにする。

 あぶない、あぶない……、このまま渡していたら、和泉の指とか手首が折れてたよ……。


「あつっ……」


 それでも、和泉が手首を押さえて痛そうに顔をしかめる。


「こ、これって、ナビーしか持てないの……?」

「み、みたいだね……」


 うーん、なんだろ、いったい……。


「優れた剣は持ち主を選ぶと言うが……」

「じゃ、じゃぁ、ナビーは選ばれたって事……?」

「ああ、おそらく……」


 選ばれちゃったのかぁ……。

 と、また剣をかざして、綺麗な刀身を見上げる。

 でも、選ばれた感じもするんだよね、この剣を持っていると身体が熱くなるの、なんか、不思議な力が働いている感じ。

 それにしても熱い、身体が熱いというより、胸の辺りが焼けるように熱い……。

 と、私は胸の辺りを手でまさぐる……。

 あっちっぃいいい!? 

 ネックレスが超熱くなってる!! 

 と、私は慌てて、剣を地面に突き刺して、両手でネックレスを外そうとする。


「あ、あれ……?」


 熱くない……。

 手の平に乗せて、指先でトントンとしてみる。

 うん、常温。


「これは、ナビー専用だな」

「うん、やっぱりね、ナビーって特別だったんだよ」

「いいなぁ、ナビー」


 うーん……? 

 胸に手をあてながら、剣の柄を握ってみる……。

 そして、力を入れて、引き抜いた瞬間……。

 あっちっぃいいい!?

 と、ネックレスが高温を発する。

 剣から手を離すとすぐに冷たくなる……。

 ははーん……。

 わかった……。

 このネックレスは、魔力を込めたアミュレット、それは、ここヒンデンブルク広場にあったもの……。

 効力は身を少し軽くしてくれるというもの……。

 でも、効果はほとんど実感できなかった。

 それもそのはず、これは身を軽くするものではなく、この剣を軽くするアイテムだったのだから……。

 この剣とこのネックレスはセットだ。

 ふふふっ……。

 みんなには黙ってよっと。


「それはキミの剣だ、名前を付けてくれ」

「名前?」


 と、人見が言ってくるので聞き返す。


「ああ、そうだ、その剣の名前だ。今のままでは放出魔力が微弱すぎて感知できない。だから、名前で紐付けして感知しやすくするんだ」


 ああ、だから、みんな武器に変な名前を付けてるんだ、東園寺のバーサーカー・イン・ザ・ブレードとか人見のミスティック・オーバーロードとか。


「なんでもいいぞ、好きな名前を付けてくれ、それで関連付ける」


 うーん……。


「うーん……、うーん……」


 悩むなぁ……。

 私はまた剣を空にかざして刀身を見上げる。

 太陽の光が飛行船の骨組みに反射し、複雑な光がこの大剣に届く……。

 なんか、光の加減か、ツバ、ガードの部分が竜の横顔のように見える……。

 ドラゴンねぇ……。

 そして、この分厚いブレードの重厚な威圧感……。

 うん、そうだね、決めた。

 思いっきり腕を伸ばして天に掲げる。


「ドラゴン・プレッシャー」


 そう、この大剣の名前はドラゴン・プレッシャーだ。

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