鐘の音

綿麻きぬ

5時

 ふと、私は顔をあげる。それを待っていたかのように5時の鐘がなった。それは毎日決まった時間に同じように時を知らせる。


 それを聞くと何もない日常、何も変わらない日々、何もしない私が浮かび上がる。その合図は私に質問する。




 今日の記憶はある? いや、ない。気づいたら5時の鐘がなっていた。


 何をした? 記憶がないのだから分からない。


 私は何を思った? 私は思ったのかすら怪しい。


 昨日と何が違う? 何かが違うはずだが見つけられない。




 そして、私は気づく。


 あぁ、今日も私は何もしていないし、何も出来てない。しなければいけないのに。


 そして、今度は私が質問する。




 時間は無駄にしちゃいけないんでしょ? 


 社会の役に立たなくちゃいけないんでしょ?


 何かをしなきゃいけないんでしょ?


 なのになんで私は出来てないの?




 だけど、鐘の音は答えない。その上、私は自分の質問に答えられない。


 あぁ、私はなんのためにいるのだろう。もうすぐ、鐘が鳴り終わるというのに。

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鐘の音 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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