第10話 君の耳毛を舐めたい♀
「ひゃあ、うまいっ! もういっぱい!」
便器の水をおいしそうに、ぴちゃぴちゃと舌で音を立てて
「それにしてもこのトイレって、不思議よね…………ん? この白い石の裏側に何かあるわよ……?」
便器の前にしゃがみこんで目線を低くしていたカラカルは、給水タンクの裏にビニール袋がダクトテープで張り付けられているのに気が付く。
「……!! これは……どうしてこんなものがここにあるんだ……!?」
幾重にも密封されたビニール袋を開くと、中から銃器と対応する弾薬、予備
「32口径の
「あ、ハナコさん、それは『じゅう』ですね」
アードウルフがひょこッと顔を出して銃口を覗いてくる。
危ないってば!
「これで3つ目ですね~……そんなにたくさんあるんだから、わたしもひとつくらい欲しいなぁ~……」
「だ、ダメですよ……
「けち! わたしもカッコよく『じゅう』を使いたいですっ!」
不機嫌になって、ぷいっと顔を背けるアードウルフ。
はぁ……女の子ってほんとワガママだなぁ……。
「そう言わないでよ、アードウルフさん……コレはとてもうるさい音がするから、フレンズさんが使うには向いてないんだから……」
「……ふん……じゃあ、いいですよ~だ。うるさくなくて、それにもっとかわいい『じゅう』を見つけたら、わたしに下さいね。約束ですよ」
アードウルフはすぐに機嫌を良くすると……どこにあったのか、カバのぬいぐるみをつかんで遊び始めた。誰かの忘れ物か……?
それにしても……「可愛い銃」って……? なんだそりゃ、全然わからん……デリンジャーとか?
気を取り直して、この短機関銃だが……いや
……このような小型だが火力の高い銃……わざわざ隠してあったのだから、猛獣やセルリアンに対する護身用というワケでもないと思うのだが……。
やはり治安がそうとう悪かったんじゃないか、ジャパリパークって。
この湿原地区付近にだって、恐ろしいセルリアンがいるって噂だし……。
「……しかしこんなものが、『銭湯』という暗殺の定番の場所に……誰もが
「ハナコ先生ぇっ! この『
「服を脱いで裸に…………って、えぇ!! ハッ、ハダカぁ……!?」
そ、そうか! そういえばそうだったぁ! ここ銭湯だもんね!
スッカリ忘れてたけど、お風呂に入る時は服を脱がなければいけないんだった!
あわてて振り向くとヘビクイワシが、壁に押しピンで留められたポスターの前に立っている。日焼けして色褪せた古いポスターと錆びた画鋲――ヒトの手で貼られてから、少なくとも十数年以上の年月が経っているように見える。
上半身だけ私のほうを向いて、子供っぽく背伸びして挙手して、質問を投げかけてくる。……見た目は大人っぽいお姉さんなのに、そういうこと外見に不相応な仕草をするから……フレンズって、そういうギャップがすごくかわいい。
問題の壁のポスターは……おそらくフレンズ用の注意書きなのだろう、入浴の際の諸々の注意点が書かれている。仕様されている全ての漢字に大きくルビがふられている上に、分かりやすく図解で説明されているのだ。
「このぽすたあ?とかいう高札は……余が思うに『おふろのはいりかた』を描いたものであろう。……だって『ぽすたあ』にそう書いてるからな!」
ぱたぱたと歩いてきて、そう解説するホオジロカンムリヅル。キリンやヘビクイワシと同様に、彼女もある程度は文字が読めるらしい。
頭に手ぬぐいをのせたカピバラ(鼻の下が長いのは南米のげっ歯類の特徴だ)や、アザラシらしき目の大きい海獣、それにシロサイらしき獣(口の形がそのように見えるが……どういうチョイスだ?)などなど――デフォルメされた動物たちが毛皮や皮革・ウロコや羽毛を脱いで、風呂に入る様子が描かれている。
浴室に入る前に「服」をきちんと脱ぐ、浴室内は走らない、浴槽内で体を洗わない――などといった注意事項が、字が読めない
ポスターのそばには、プラスチックの展示パネルが掛けてある。
この銭湯では「サンドスター温泉」が湧きだしているという説明だ。『サンドスターの湯は、アニマルガールの滋養強壮・体力全快・万病治癒・解毒効果・精力増強……etc.』と、様々な効能が書いてある。
このアニマルガールという分かりやすい名称は、フレンズの別称だろう。それから、ヒトや動物には「毎日入ってもただちに影響はない」レベルのサンドスターの濃度であるらしい、という注意書き。
……かなり気になる点がひとつ――隅に非常に小さく書かれた記述があるのだが、それが『研究中で不明な点が多い』と上からシールで貼って訂正されている。かなり怪しいが……少なくとも毒ではない……ハズだよな?
ついでに横のパネルには……この場所は、超物質・サンドスターの源泉を引いて、動植物の成長を調査する学術研究施設であったのを、ヒトとフレンズのふれあい公衆浴場に改装したという由来が書いてある。煙突や温室設備を浴室用に流用しているとのこと。
……そうか、銭湯を増改築したような外観だったが、実はその逆……研究所に銭湯部分が増築されたワケだ。
「むむむ…この絵によると、『ふく』ってのは毛皮のことらしいわね……『ぬぐ』ってのはこう! 毛皮って……引っ張れば取れるのよ!」
「う~ん! 不思議よねー、トリックよねー、私たちの毛皮ってこうやって取れるんだから!」
カラカルとキリンが得意げに自分の衣服を脱ぎだした!
ちょ、ちょっと待ってぇっ! は、「裸のおつきあい」ですよねっ、これからっ……私、まだ心の準備がっ!
こーゆー行為はマダ早いですよ。そーゆーのは、もっとお互いのことを知ってから――ぶ、文通から始めましょ……あ、ダメだ、フレンズは字を読むのニガテなんだ……。
「おお~っ! わたくしも……ヘビが脱皮するように羽毛が取れますねえ!」
「よぉーし、わたしも『ふくをぬぐ』っ!」
あぁっ……! ヘビクイワシさんとアードウルフさん! あなたたちまで一糸纏わぬ、あられもない姿にぃっ!
「うわわわぁーっ!! 待てェっ、アンタらっ!! いきなり脱ぐなっ!! うわっ……お、女の子の裸はちょっとぉっ……!」
と、年頃の女の子がそのように柔肌を晒すのはいけませんっ!
ああーっ! 正直目のやりどころに困るっ! 私にとっちゃ目に毒ですよっ! 目に猛毒っ!
「……ハナコ、どーしてダメなのよ……そこの絵に描いてあるのは、おふろでは毛皮は取らないとダメってコトでしょ?」
ほとんど服を脱いだカラカルが疑問を口にする。
「ま、まあ、確かにそりゃそうなんだが……」
「そもそも毛皮が取れるって教えてくれたのは、アンタじゃない……ハナコも毛皮を取りなさいよぉ~、恥ずかしがり屋なのは知ってるけど~」
「いや、私は脱ぎたくないって言うか……。みんなが脱いでるだけで、十分眼福って言うか……」
「問題ない! 私たちもハダカよっ! みんなが恥ずかしければ問題ないでしょ。ハダカを隠すならハダカの中……これ推理小説のキホンよっ! えれめんたりっ!」
堂々と発言するほぼ全裸のキリンだが……その論理はおかしいぞ、推理ミスだぞ、キリン君!
「のうみんのハナコ殿、ワガママ言うでない!」
ホオジロカンムリヅルが話に首を突っ込んできた。
「『銭湯の掟』を描いた絵図では、羽毛を取ることになっているであろう……。余の『お城』においては、たとえヒトであれども……むしろ決まりごとが大好きだというヒトだからこそ、その掟に従うのじゃっ!」
そうでもないっ! 規則がキライなヒトだっているんだっ!
「ええい無礼な! 『まちむすめ』ふぜいが、いっちょまえに恥ずかしがりおってっ! 皆のもの、であえであえっ! こやつの帯を回すのじゃ!」
あ、農民から町娘にレベルアップしてるよ……って、服を引っ張って脱がすのはやめてぇーっ!
「やっ……やめて下さい! ……お代官様!」
「『じだいげき』名物、帯回しじゃあ! ……お主の帯はどこなのじゃ?」
「よォし、私も毛皮を剥いてやる!」
「ほれほれ~取っちゃうぞぉ~! ……あははっ、おもしろっ!」
オイこらやめろキリン、カラカル!
く、くそぉっ……キリンと言いツルといい、これだから首が長い
「お、おやめください……! ご無体な……!」
「ふっふっふっ……これこれ、ういやつじゃのう……よいではないか、よいではないか……!」
「ムダなテイコウは止めなさい! 毛皮でハダカを隠してもダメよ、『いらいにん』は探偵に隠し事をしないし、『かたりて』は読者に隠し事をしないんだから!」
「そんなに必死こいて隠すってことは~、脚のあいだに『ヘンなもの』でもついてるのかしらぁ~?」
つ、ついてないに決まってるだろっ、バカカラカルッ!
「ほぉ~、良い眺めよのう~……あっぱれあっぱれ……」
その辺から持ってきた扇子……ならぬプラスチックの団扇をあおぐカンムリヅル。
「私たちと同じく、毛皮を取るのがふぇあってモノよ……げひひ……」
「そうよ、ふぇあよ! アタシたちだって『脱いだ』んだしさぁ、頼むわよぉ~……」
スケベそうに言うなっ! エロオヤジみたいな言動しやがってっ!
……さっきから、なんか三人とも様子がヘンだぞ……。気の弱いアードウルフさんと温厚なヘビクイワシさんもちょっと引いてるじゃないか……。
三人とも、目が輝いてますけど……よだれ垂らしてますけど……。
もしや皮を剥きたがるのは肉食獣の本能なのだろうか……。でもキリンは草食だろ……と思ったけど、時々小鳥などの食べるらしいし……。
こ、この銭湯は「サンドスター源泉」を薄めてるそうだけど……みんなやたら興奮してるのは、その影響なのでは……?
「お代官様、おたわむれを~! そ、それだけは……パンツだけはご勘弁を~!」
「勘弁ならぬわ! ……そんなに叫んでもここには誰も来ぬぞォ……ほぉ~れ、諦めて下の毛も取るのじゃ~……」
「あ~れ~っ……!!」
カンムリヅルさん……悪そうな顔もすごく似合いますね……。黄金色のジャパリまんとか好きそうな悪い顔だ。
そうこうするうちに抵抗むなしく、あれよあれよと帯を回されてしまい……私は脱衣を余儀なくされるのだった……。
私の目前には……中高生くらいの年齢であろう裸の女の子が、脱衣場の大きな一枚鏡に映っている……。
これが私の姿なのか……。
……フレンズさんのと違って、自分の身体をいくら見ても全然そういう気分にならないな……まあそりゃ当たり前か……。
我ながらずいぶん貧相な体つき、ってのもあるけどね。上半身も下半身も痩せすぎてるから、もうちょっと「脂肪」がついているほうがいいよな~……。
それにしても、この体は……「自分のもの」という感じがしない……全くの「他人のもの」のような印象を受ける……。
今までに私の脳内に生まれた思考・知識・習得技術(日本語の使用、日本文化への造詣、バイクや車両の運転技能など)……そして性的嗜好を振り返って考えると……やはり「フレンズ化する前の私」は、成人の日本人男性であったに違いないと推測できるが――いや、同性愛者の女性であった可能性もあるけど。
さらにその人間は……近接格闘や、原始武器による白兵戦闘、そして銃器の使い方といったものが身に染みついていて……ある程度以上の戦闘訓練を受けたことのある者であるのは確実だ。
この男性、つまりフレンズ化する前の「私」とは一体何者であったのか……という謎も、もちろん十分気になるのだが……それに加えて「この身体」は一体誰のものなのかという、もう一つの疑問も無視できない。
大鏡の上に設置されたLED照明のもとでよく見ると、セルリアンと戦った際の傷が所々にあるのが分かる。
パークで目を覚めた時のトイレの鏡でも自己観察をしたけれど……この鏡に映った自分の身体を、細部まで観察してみることにした。
小さな怪我であればきれいに完治するが……ある程度の深い傷だと、サンドスターによる治癒の後でも、目立たないながらに、体に傷跡が残ってしまう。サンドスターといえども万能ではないということだろう。
手首には深く大きな傷跡……これは目覚めてすぐに、小型の食肉獣セルリアンと戦った時の傷……。
手のひらの真ん中には、穴のような傷跡……これはアードウルフさんを助けた時の、げっ歯類のようなセルリアンに突かれた場所だ。
そして、腹部には盛り上がった傷跡……あの大型セルリアンの爆弾で負傷した部分か……。あの時は中身の入った水筒が爆発を防いでくれたおかげで、致命傷にならずに済んだ……。もし直撃していたら、水筒の水の代わりに、腹腔からバケツ何杯分かの
まだこの「ジャパリパーク」に生まれてから一週間も経っていないけれど……。ずいぶんこの身体を酷使してきたものだ……。こんなに
鏡のわきに身長測定器があったので、身長を測ってみる。およそ158cm……今まで出会ったフレンズ達はほとんどが思春期の女子中高生ぐらいの見た目であったが、彼女らの平均的な身長ぐらいだろうか。
体重計もあったけど……まあ、そっちの数値はヒミツとしておこう。
明るいライトのもとで、自分の顔を鏡でよく見てみる。
肩ほどまでかかった頭髪はウェーブがかった栗毛で――濃褐色に近いか……。黒髪も茶髪も、世界中のどの人種でも一般的に見られるものだ。
そして、黒に近い灰色のふたつの瞳……。グレーの虹彩色はロシアやフィンランドなどバルト海付近の民族でよく見られる特徴だと言われている。
私の肌の色は――専門的な知識が無いので、イメージで考えるしかないが――
以上の身体的特徴を総合すると……う~ん……いや、どういう人種なのか分からん。語弊のある言い方だろうが、
「全然分からん……」
胸や下腹部をまじまじと見てみる。やはりというべきか、全然興奮しないけど……。もうちょっとボリュームがあったらなぁ……。
「『ロリコンでない』ことぐらいしか分からん……」
「まぁ~たそうやって、何を悩んでるのよっ」突然カラカルが、ネコが仲間にするような調子で、抱きついて頬を寄せてきた。
「うひゃあっ……! び、びっくりするじゃない! そんなに突然ひっついてきてっ……し、ししし、しかもハダカで……」
自身の身体とはうってかわって……彼女の裸体は……なんて魅力的なんだろう。ああ……急に心臓がドキドキしてきた……。
何故だ? 私に無くて、カラカルにある物……身長や脂肪分だけではなくて……もしや……。
カラカルの……各部に筋肉がありつつも、女の子らしく丸みを帯びた骨格や……胸や腰や脚の、脂肪の柔らかさが目立つ身体……。それは筋肉と関節で筋張ったオスネコというよりも……身体全体が曲線を描く、メスネコの肢体を思わせるものだ……。
そして、ネコのフレンズ特有のネコ耳と尻尾が私の肌に触れるたびに、心拍数が高まり動悸と息切れが激しくなっていき……。
「ぐふふふ……いや、その……なんちゅーか、ちょっと……こうして全裸になりますと……。
い、いきなり何を言っているのか私は……これじゃどう考えてもヘンタイじゃないか!
「え……!? な、なんつったの、今……!? ……いきなし長くて難しいこと言われて……ごめん、よく分かんなかった……」
そら見たことか。
カラカルもさっきのセクハラ発言の怒涛の勢いに引いてるぞ。口では謝ってるけど、毛が逆立ってるぞ。
とは思いつつも、口の方からは――
「ふへへへ……そういうヒトの部分よりも、私にとってさらに魅力的なのは……ふさふさの毛のついた耳と、ぽてっとして肌触り滑らかなシッポ……ああ、裸体という白いキャンバスに描かれた絵画のように芸術的で……獣の部分――耳と尻尾だけが際立って、もう、たまらねぇというか……」
堰を切ったようにあふれ出すセクハラセリフ。
「な……何の話してるの……!? ごめんなさいだけど、ホントに全然分からん……」
ぐぐぐ……セクハラだとは承知しながらも……抑えきれない。湧き上がる欲望が、脊髄反射的に言葉となり口から流れ出てしまう……。サンドスター温泉の効能に、精力増強って書いてあったけど……浴室から香ってくるサンドスターの湯気が、この心の底から湧き上がる情動の原因なのだろうか……?
い、いかん……本能が理性を覆いつくす……。
ああ……もう冷静に思考することができない……。
「こ……このふさふさのシッポが悪いんだ~……このシッポが私を狂わせる! ずびびっ!」
卑猥な言葉だけではなく、よだれまで口から出てきやがる……。
「ど、どうしたのよ、ハナコ!? すっごいよだれ出てるし……息が苦しそう! 目つきもヘンだし……な、なんか肉食
カラカルがドン引きしている。耳毛や尻尾が逆立っている。
そ、そういう目つきは……それはそれで興奮するんだなぁ……。
……それにしても、そんなにヤバい剣幕してるのかぁ~、今の私……。
あー……だってぇ~……カラカルのこと……食べたいんだもの……。
「カ、カラカル……貴女の耳の先っぽの黒い毛……食べちゃってもいいかなぁ……? 耳毛……しゃ、しゃぶっ……しゃぶらせてちょうだぁい……正直もう、辛抱たまらんっ……」
「バ、バカっ!! いきなり何言いだすのっ!? いいい、いったい、どうしちゃったのよ!?」
とうとう耳と尻尾がへにゃっと折れ曲がるカラカル。ケンカで負けたネコのようだ。
そういう「心の気圧」の低下を、私に潜む野性の本能が見逃さない。
弱気になったところで一気に押し倒すっ!
尻の毛むしって骨の髄までしゃぶって――ならぬ、耳の毛までしゃぶってやるのだ!
「はぁ、はぁッ……た、頼むっ……!! やらせてくれ、カラカル!! 耳の中までは舌入れないから!!」
「や、やめてよぉ……今のハナコ、こわい……」
「耳の先っちょの毛っ!! 先っちょだけでいいからっ!!!! あーっ、もうっ我慢でけんっ!!!!」
「ウワーッ!! たっ、食べないでぇ~っ!!!!」
「い、今の悲鳴は一体っ……! 急がなきゃ! こっちから聞こえたわ!」
私たちがあまりにも騒ぐものだから……観葉植物の葉っぱを押しのけて歩いてくるのは……まあ、いかにも「これから死体が発見されそう」な、こういう芝居がかったセリフを言うのは、キリンなのである。
「うわ……カラカルとハナコ、何やってんのよ、ふたりとも……。それ、新手の『かりごっこ』かしら?」
「はむはむ……耳毛うめぇ~」
「た、助けてェーっ! キリン! ハナコの様子が変なのよっ!」
「あっ、メェーって鳴いたわね? あなた……そのせんいしつをそしゃくする草食
「キリン……
「おー、ヤギのハナコ、よく知ってるわねぇ。そうよ、キリンのツノは二本と見せかけて五本なのよ。とくに役立つわけじゃないけど……でも何かのトリックに生かしたいと思ってるんだけどね」
「マフラーとブーツのみの格好が……エロいっ!」
「ん? ブーツって、このヒヅメのこと? これも取らなきゃだめなの?」
「ど、どうしたんですかっ!? ハナコさん!!」
「うわっ、ハナコ先生……!! 目が虚ろで、息が荒くて、よだれが……こ、これは『毒』ではっ!? 悪い虫に刺されたんじゃないですかっ!?」
愛欲に溺れることは、仏教の
そんなことよりも、
「ハナコの様子がおかしいのよっ!」
「ハナコはヤギだったのです!」
アードウルフ、ヘビクイワシ、カラカル、キリン……み、みんな……そんなに近寄って……ABCGのいろんなカップのバストが……ABCG包囲網! ……4組のバストから選ぶとしたらキミならどれが好き? 耳……尻尾……毛……羽毛……。あーかわいいかわいいかわいいっ!!!!
皆の衆、もっと
うっ! ごふっ――!!
うおおッ、やば……!! 興奮しすぎてものごっつい量の鼻血が……!! うぐっ、貧血……いや、立ち昇る虹色の粒子の煙……貧サンドスター――サンドスター欠乏症なのか、これは……?
「うわーっ! ハナコだいじょうぶっ!? すごいはなぢ!!」
「や、やっぱりこれは『毒』ですよっ! ハナコ先生ぇ!」
「きゃあっ! わ、私の名推理が犯人を追い詰めたから、毒で『じさつ』を……!?」
「うわーん、ハナコさんが死んじゃうっ!!」
――ああ、意識が遠のいていく。
フレンズたちの声が、どこからともなくぼんやりと聞こえる。
「皆の者、静まれ! 静まれい! ……まったく貴殿らは客人とはいえ、余の巣でどんちゃん騒ぎしおって……この『お城』ではぼうりょくやりゅーけつざたはごはっとじゃと言うのに……」
「カ、カンムリヅルさん! 毒ですっ! ハナコ先生が毒を盛られて!」
「落ち着け、ヘビクイワシ。……この『戸板』を外して、これに載せて運ぶのじゃ……。むふふ、余は前々から、ケガ人や『どーじょーやぶり』を戸板で運びたかったのである。『じだいげき』の定番なのじゃよ~」
「わーん! 死なないでハナコさんっ!!」
「心配するな、アードウルフ。寝かせるところが、向こうにあるのじゃ。それに、この銭湯の『サンドスター湯』は毒にもよく効くそうじゃからの~」
「死ぬなヤギハナコっ! 死んだ仲間のヤギがそんなこと望んでいるとでも思うのか! きっと生きて幸せになって欲しいハズよ! 私と同じ『クジラ偶蹄目』の根性見せろっ!」
「そ、そうよ! このままじゃ……何だかわからないまま、アタシ耳をしゃぶられたし!」
『子曰、朝舐耳、夕死可矣(
――孔子『論語 里仁』
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