第15話 星を見て眠るけもの達▲

“――お前をにした『悪いヒト』は、がみんな……”




 わああああっ!!

 何だ!? 何!? 今の声は……!?


 わ、私は……!?


 私は……? どうなったんだ……!?

 痛ぇッ!! 体中が痛い!!




 ……いつのまにやら、私の右わき腹から、ずしりと殴られたような鈍痛が走り続けている。熱いものが流れる感触。そこから噴き出るサンドスターの煙……。

 あの「時限爆弾」でのキズが開いてしまっている……。


 見上げると、切り立った崖……見下ろせば、谷底……。ここは……あの……。思ったより平たく、そして表面がざらざらしていて、滑り落ちる心配はないようだ。


 すぐそばにはヤツの潰れた眼球が見える。寄生体セルリアンがそれに憑りついているが……何だかこいつ、ないか……?

 身体の大部分は、ちぎれてどこかへ飛んで行ってしまったのだろうか?


 ヤツの「砲塔」は、体腔内に引っ込んだままになっている……その腹の傷口から体液が流れ出ていて、そこから虹色の粒子が舞い上がっている。

 そうか……上に向かって「最後の一撃」を撃ったから、砲撃の反作用を全く逃がせずに……反動をまともに受けて砲身が自壊してしまったらしい……。




 そうだ! 砲撃っ……!


 私たちは足場を崩されて、下に落とされて……。


 脇を見やると、フレンズ達が地面に落下している……。


「カラカル! キリン! アードウルフ! ヘビクイワシ!」

 彼女たちは呻き声を上げたり、ずるずると這い動きまわっている。それは直視しがたい悲痛な光景であったが……私と同様に、みんな、なんとか生きているようだ。よかった……。


 私たちはそうとうな高さから落ちたはずだが……フレンズが非常識なまでに丈夫なのに加え、岩場の切り立った斜面に生える灌木類がクッションの働きをしてくれたのだろうか……。




 ほっとしたのも思った束の間。振動する地面!


 戦車セルリアンが動き始めた!! 私を降り落とすつもりか!?


 まだ死なないのかクソッ……!! はやく何とかしないと、下のみんなが轢き殺されてしまう!!




 ……こいつは……!!




「……うおおおおっ!!」

 私は戦車の「目玉」に突進する。足は折れて、骨盤はひび割れているようだが、知ったことではない。


「あの仔の分を喰らえッ!!」


 リュックの中から取りだしたをセルリアンの眼球に突き刺す。耳障りな金切り声。なんて不快なBGM……これから地獄へ行くものへ手向ける葬送歌ダージとして、相応しい音色だ。


 で象牙に体重を目いっぱいかける。そして、あっけなくズルリと、その眼球はり貫かれる……。メロン大の眼球が、それに接続された大小の視神経のような内臓器官ごと、露わになる。


「手間ァかけさせやがってェ!! 地獄に行けこのクソッタレがァッ!!」

 悶え苦しみ動き回るセルリアン……まるで地震のようだ……。


 私は象牙を「視神経」の間にねじ込み……水道のバルブをぐるぐる回すようにして……ぶちぶちと引き絞って切断する。

 ばきり。象牙が折れる。


 腕力だけでは、足りない。


「トットとぉ……おっねやコラァッ!!」

 私はセルリアンを攻撃するその腕で体を支えて両脚を上げ、すぐそばの斜面を蹴り飛ばして、脚力と自分の体重を利用して、眼球を完全に引きちぎることに成功する。


 完全に本体から分離した眼球を寄生体ごと……ハンマー投げのように、視神経を掴んで振り回し、勢いをつけて、そばの崖の岩に思い切り叩きつけると、バチンと鋭い音がして、内部の圧力が解放されて汚い液体を周囲に飛び散らせて、ぜる眼球……。


 そして足元には、ぽっかりと虚ろに空いた眼窩……。

タマらせてもらう!!」もう目玉タマは取ったけど。


 私はロシア製拳銃を取り出し、弾倉を挿し込みスライドを引く。……眼窩の中めがけてトリガーを引き、で銃弾を発射する。

 セルリアンの固い外殻と、音速を超える拳銃弾との乗算……そのが意味するのは……の内部で跳弾して跳び回る高速の銃弾が、周りに衝撃波ソニックブームを巻き起こし、その内部構造を、内部から撹拌ぜて粉砕ミキサーする!


 殻で弾ける音! 肉を刳り貫く音!

 木材破砕機ウッドチッパー作動音ひめいだ!

内臓モツごとバラしてイヌ喰物エサにしてやる糞野郎ッ!!」


 すべての銃弾を撃ち尽くすと、銃のスライドが後方で静止する。もう予備のマガジンは無い。


 さんざん私たちを苦しめた戦車セルリアンは、もう動かなくなった。







 ――突然、視界の外からが私に襲い掛かる!

 こいつ! 眼球から離れた「本体」が隠れていたのか!?


 ……岩を落とされてひしゃげて跳ね上がった装甲の下に!


 ぐ……! この体勢は……まずい……!! セルリアンは、触手を絡ませて背後から私の腕の関節をねじ上げて、その動作を封じている。触手を「4の字」の形にして、テコの原理で肩と肘関節を極めている――腕緘うでがらみ――C.W.チキン・ウィングアームロック――しかも両腕をだ!! さらに両脚をも触手でフックしている!! 腕が二本しかない人間ではありえない……セルリアン独自のワザ!!


「うあっ……」

 私は外そうと身体をよじって抵抗するが……そこへ電気ショック! 麻痺させるほどの威力は無いが、一瞬の隙を作るのに十分なほどの電圧!


 すかさずセルリアンは触手に結び目を作り……首吊り結びハングズマン・ノットの形にした触手を――「ヌタウナギ」という生物が自分の体を巻いて止め結びストッパー・ノットを作ることは知られているが――私の首に巻きつけ、そのまま後ろに引いて……締まる輪によって頸動脈と気道を絞め上げる!


「ぐぅぅぅっ……! げほっ……!! げほっ……!!」

 私は首を動かして、総頸動脈と椎骨動脈を圧迫する絞め技ストラングルホールドを解こうとするが……ダメだ……結び目が固すぎて……。

 この、上体が反らされて裸絞めリア・ネイキッド・チョークまった状態は……格闘技において、絶対に返されないとされる体勢……。


 解放タップは無い……このまま絞首刑しめころされる。


 強盗や殺し屋が使うという「地蔵背負い」の技だ。


 息が……できない……意識が落ちる――……。





ことはことだ! 殺されてもいい人間は、殺してもいいんだ! にした、あの薄汚い連中に……お前が受けたことを、やり返してやる! 俺に命を与えてくれたお前……”


 あなたは誰……? お前って、私のこと……?


 それに、間違ってるよ……殺されていい人間なんて、この世にいないんだよ……。


 私は、のけものにされてなんかいない。カラカルも、キリンも、アードウルフも、みんないいひとだよ……。

 キリンだけは、ちょっとヘンなヤツでウマがあわないけど。

 

 でも、私は生まれてからずっと友達フレンズに愛されてきたんだ。

 受けたことを「やり返す」なら、私はフレンズのみんなを愛したいと思ってる。


 フレンズが私に与えてくれた命なんだ。




“薄暗い便所の中で、俺は生まれた……。俺はいくらでも手を汚すから、お前だけは幸せになってほしいんだ。お前は違う。はるか昔、十数万年も前に……誰からも愛されて生きて、そして愛されて死んでいったお前……”


 私だって同じ気分だよ。フレンズの為なら、汚いことでも、何だってする。


 だいたいねえ……さっきから、お前、お前ってなあ……私には大事な名前があるんだぞ……それは――。




“花の子……BLUMENKINDブルーメンキント……花の中に葬られて、花の中で生まれたフレンズ……かつてのヒトの隣人……数万年にどこかへ消えた……ヒトの亜種……”


 な、なんで私の名前を知ってるの……。


 それに、そのヒトってのは……もしかして――。




“……ヒトのいでんしの中に受け継がれる……!”




「――ュュリュぇァぁぁァーッ!!! ュュあああッアーッ!! ぁアアェッ!!」

 セルリアンのうるさい声。


 セルリアンが拘束を解いて、離れていく。


格闘技スポーツじゃ無い……」


 私の首に掛けられた触手なわが、鋭利な刃物のようなもので、断ち切られている……。


生存競争せんそう……獣の戦いころしあい……」


 右手からぬるりとした感覚がして、黒い何かがかんかんと音を立てて転がって、セルリアン戦車の背面装甲を滑って落ちていく。


 あれは私が作った黒曜石のナイフだ。どこかのポケットに突っ込んでいたやつ。右手の内側、手のひらと指の内側が一文字にぱっくりと切り開かれて、傷口から鮭の切り身のようなピンク色の肉と、白い骨が覗き、ぼたぼたと血が滴り流れ落ちる。


 を使って、朦朧とした中、無意識でヤツを……。無意識……? いや、ずっと声が聞こえていた……あれは、私のの――。




 ぶすり。


 右わき腹をが貫いた。


 見ると、セルリアンが背後から肝臓を狙って、触手で「象牙」を刺している。

 あの時見つからなかった、あの仔のもう片方の牙……。


 ぎゃあぎゃあとわめき散らしながら、傷口をえぐるように回しながら、そそり立った牙を私の胎内はらのなかにねじこんでいる。




ってェなァ……オイ……」


 刺さった牙を掴み、投げ捨てる。からんころん。からんころん。内臓きずぐちから勢いよく血が噴き出る。


「あの牙の……あの仔みたいに……私をりたいんだろ……?」


 セルリアンが、ぱっと飛び退く。

 私は口から血を流しながら話す。


「……素手でかかってこい。私は、ナイフぶきバイクのりものも捨てた。お前も、象牙ぶき宿主のりものもナシだ。正面から、正々堂々かかってこいよ……」


 背中のリュックを逆さにして、空の中身を見せてやる。

 私の手の中は空っぽだ。




「あの仔を見殺した私は、たぶんこれから……死んだら、ここのフレンズとはんだと思う。だから、ひとりぼっちじゃ、寂しいから――」




 セルリアンが、触手を躍らせて、私に飛び掛かってくる。





 ばしゅっ……ぶちゅっ。ぶちゅっ。ぶちゅるっ……。




 セルリアンは茫然と……しているように見えた。


 口に溜めた吐血をセルリアンに吹き付けてして……。触手を切り落とした――リュックにしまっておいたものをこっそり取り出して、袖口に隠していたナイフを使って。


「『ウソ』じゃ、人間様に勝てなかったみたいだな……」


「植刃器」あるいは「尖頭器」と呼ばれる替え刃式のナイフ――縄文時代の日本や中南米の文明で黒曜石を使って作られ、またポリネシアではサメの歯が使われたという――アードウルフに持ってきてもらったアカシアの木の棒に、黒曜石のかけらやガラス片、鏡の破片を平行に埋め込んで自作した、小ぶりの刃物。


「でも、最後には、本当のことを言うよ……」

 血を吐きながらしゃべり続ける。





 ナイフをめちゃくちゃに叩きつける。セルリアンの触手が切り落とされる。肉片が飛び散る。体液が流れて、私のものと一緒に混じって、区別がわからなくなる。ナイフの刃が欠ける。棍棒で叩く、叩く。突いてひねる。すり潰す。棍棒が壊れる。触手を掴み引きちぎる。触手の先のを剥がす。「眼」に両親指を突っ込む。両手の握力で眼を刳り貫く。踏み潰す。蹴り飛ばす。目玉が破裂して飛んでいく。噛みつく。噛み千切る。血の味。お前には血が流れているのか……?


 そしてたおれて動かなくなる。怪物も。わたしも。







 生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く

 死に死に死に死んで死の終わりに冥し







 夜の澄んだ星空。

 夜風が冷たくて心地よい。


 ここは天国だろうか?


 色とりどりの獣の衣を身にまとった、たくさんの天使たちが、私の周りにいる。


 今度こそ、本当に、死んだんじゃないのか? ずいぶん何度も死ぬ日だなぁ……。


 それにしても、たいへん熱烈な歓迎だこと……。よく覚えていないが、生前の私はそんなに善行を積んだのだろうか?


「――さっさと起きなさいよ……」


 聞き覚えのある、よく通るきれいな声。




「……起きないなら、ほんとにアンタ食べちゃうんだから……」


 食べられるのはさすがに困るなぁと、私は思った。


 すると私の喉に、柔らかい感触とともに……甘い乳と蜜が流れ込んでくる……。




「――ぶぉっほえぁぇッッ……!」




「やぁっと起きた……起きてくれた!! もうダメかと思ったじゃない!! このねぼすけ!!」

 バシュっ。うぎゃあ! 顔を走る、この鋭い痛みの感覚は……チーター以外は出し入れ可能だという、ネコ科動物のツメ!


「うももも! らいへんばっはぁーっ!! あきやのぼうけん!!」

 バコォっ。ぐえぇ! 頭に振り下ろされる、この気合いの頭突きは……繁殖期にオス同士でぶつけるという、キリンの首!


「よかったぁっ!! よかったぁよぅっ!! ハナコさん!!」

 ぺろぺろ。あぁん! この首筋や耳を舐め回す、器用な舌使いは……一晩に二十万匹のシロアリを食べるというアードウルフの舌!




「あなた方は天使で、ここは天国……んなワケあるかい! 忘れるもんか! カラカル! キリン! アードウルフ! ヘビクイワシさん、バーバリさん、マルミミさん! それに他のみんなも! 全員無事! ここはジャパリパーク!」

「もちろんみんな無事よ! アンタがセルリアンたちをやっつけたから!」

「ねえ、私にも推理できない、どんな『トリック』を使ったのよ? ……やっぱりあなた、ヤギじゃなくて、ヒトかもしれないわね」

「ハナコさんすごいすごい! だいすき!」


 ここは……サバンナ地方の、岩場の上!


 そして、獣の衣を身にまとった少女たちは、私の大好きなフレンズたち!


「よかった……本当によかった……生きててくれて……助かってくれて……本当に……ありがとう……」

「な、なに泣いてるのよ? あ、あんたが助けてくれたんじゃない……」

「そんなに泣かれると……つられるじゃない……うももぉ~ん!!」

「うえぇぇーん!!」




 ……パオ――――ンンン――――ンンンン…………。


 ――ゾウの鳴き声……?


 いや、が下から聞こえる……。


「あ……あれ、あの仔のお母さんだ」


 見下ろすと「一匹のゾウ」が泣いている。


「ダメだ、私……喜んじゃダメ。救えなかったんだ……あのゾウさんの仔……あの仔を見殺しにしちゃった……」


 涙を流している。


「ダメだ……あの仔……あの仔を見殺しにしちゃった……あの仔、にしちゃったんだ……ううううっ……うわぁぁぁん……!!!!」

「ハナコ……」







 ――それから、お母さんゾウと、私たちフレンズが泣き止んだのは、同じ頃だっただろうか。


「ハナコ、落ち着いた?」

「うん、ありがとう。カラカル」

「おっぱいをずっとしてたけど、アタシのおちちを吸いたい?」

「バ、バカ……女の子がいきなりそんなこと言うなよ。べつに、そんなんじゃないよ……」


「小さい時にお母さんがいなくなっちゃったネコがよくするのよ。まあ、出ないけどね」

「そう……あのお母さんゾウ、子供がいなくなっちゃったんだよね?」

「大丈夫よ。私たちみたいに、一緒に悲しんでくれる仲間がいるわよ」

「そうだといいね」




「キリン、私って本当にヒトかなぁ? 『めいたんてい』の推理を聞きたい」

「え、だってそりゃあヤギ説も有力だけど、『じょーきょーしょうこ』から推理すると、やっぱりヒトなんじゃないかなあ? ちょっと見た目がよわっちそうだから、『かばんさん』とは、違う種類のヒトかもだけどね」

「違う種類のヒトか……あのね、私……記憶を――」


「あ、ゴメン! 変な意味じゃないのよ! もちろん頭が良くて、優しくて……そういうとこは、ちょっとかばんさんみたいだし」

「……私は『カバンサン』みたいに、死んだけものを生き返らせることなんてできない」

「……だれだってムリよ。かしこくてかっこいい『ほーむずさん』や『ぽあろさん』も、死んじゃったヒトを生き返らせるのは、できないもの。かばんさんだって……そういうところは、きっと「ただのおはなし」なのよね……」


「べつに、ごめんね……」

「いいのよ。わかってるもん」




「ハナコさん……」

「どうしたの、アードウルフ?」

「ハナコさんは、どうしてそんなに強いんですか?」

「強くないよ。武器があったから、あのセルリアンたちだって、なんとか倒せただけだし……」

「あの、そういうところももちろんですけど……そうじゃなくて、どうして、ほかの人のために、そんなに傷だらけで走り回って、頑張れるのかなあって。臆病な私にはムリだもん」

「べつに……なんか、ダメなんだ。みんなが傷つくのを見るのが怖くて。ホントは臆病なんだ」


「わ、私は……ずっと、シッポ巻いて逃げだしたかったです! お、オシッコ漏れちゃいそうなくらい怖かったです! ハナコさんが一緒にいてくれたから、初めてセルリアンと戦えたんです!」

「私の場合は……巻いて逃げるためのシッポが無いし……ずっと怖かったけど、オシッコは出なかった……『裁判』の時に飲んだヤツがいてね……どっかのアホが……」


「このやろ! またアホって言ったな!」

「いてぇ!」

「あはは」




 あの…フレンズのみなさん……なんで、わたしにしがみついているわけ?


「何考えてるか分かんないアンタ。崖から飛び降りるような、ヘンな気を起こしたら、がぶりと食べちゃうため」

 カラカルがそんなことを言う。それってマルチバッドエンディング……死亡率100%じゃないか……。


「アンタはよく分かんない。今日初めて会って、でもずいぶん長く一緒にいる気がするけど」


 もう四ヶ月くらい一緒にいるような、そんな感覚がするね。でも私も、私の事が分からないんだよ……。皆のことだって、実は大して知らないんだ。

 だから、もっと知りたい。自分のことも、みんなのことも。




「ねえ、なんか面白いお話をしてよ」

 え、いきなり? キリンがそうねだる。


「ヒトは、みんな面白いお話を知っているんでしょう?」

 そうでもないけどと思うけどな……。じゃあ、星座にまつわる話でもしようかな。



 だって、このサバンナの素敵な星空を楽しむ時間は、まだ残ってそうだもの。




「お話を聞きながら、一緒に寝ましょう。明日は、お寝坊してもいいですよね」

 そうだね、アードウルフ。

 お昼過ぎまで、一緒に寝ようね……。




 夜の暗い洞窟、その天井に空いた穴から垣間見える、光に満ちた楽園。そのお話をしよう。

 そこは、けものはいるけど、のけものはだれもいない場所。レイヨウも、シマウマも、ゾウさんも……死んだけものたちも、楽しく暮らしている世界。


 フレンズ達も、動物たちも……あるいは、どこかに棲んでいるヒト達も……おたがいに理解し合えなくても、みんなの魂は、この同じ満天の星空のもとで眠りについているんだ……。


 そう思うと……サバンナの夜は冷たいけれど……私の心は、フレンズたちでいっぱいで、なんてあったかいんだろう!




■星の砂の伝説■


昔々のあるところのお話です。

まだそこに、新しく島々ができたばかりの頃に、あったことです。


ある日、南の星の女神さまが、子供を身ごもりました。

天の神さまに相談したところ、ある島の南の沖のサンゴの美しい浜辺で産むのが

よいだろうとおっしゃいました。


女神さまはその浜辺で、星の子供たちを産みました。

ところが、それを知った海の神さまは、お気に入りの浜辺で勝手なことをしたと

たいそうお怒りになり、海蛇に命じて、星の子たちを全て喰い殺させてしまいました。


喰い殺された星の子たちの死体だけが、小さな星の形の砂になって浜辺に残りました。


これが、その島の浜辺にたくさんある星砂の由来です。


人々はたいそう悲しみ、星砂を香炉に集めて、お正月の朝にそれでお香を焚いて、

星の子の魂を天へ送ることにしました。


おかげで星の子の魂は天に昇って、今でも南の星の女神さまの周りを回って、

星となって輝いているのです。


それで、その島では、年に一度の祭りのときになると、みんな香炉の星砂を入れ替えるということです。


――沖縄県八重山郡竹富町に伝わる民話




『けもののきろく』


―序章-Chapter 1


【完】




 あ……なんか最終回っぽかったけど、まだまだジャパリパークでの冒険は続くからね!

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