第14話 死がふたりを分かつまで▲

 ――空を飛んでいる。ゆっくりと動きながら、ぐるぐると月と地面がひっくり返ったりして、すごく面白い。




 風が強くて、気持ちが良い。いや、ちがうな。これはすごい勢いで吹き飛ばされているんだ。

 飛んでるんじゃなくて、で飛ばされているだけ。


 ヒトは飛べないものね……残念だけど。


 さっきから耳の中が押し付けられて聞こえないのも、爆発のせいだ。


 爆発って……? ……何のことだろう?




 ああああ、雨。雨。真っ赤な、きれいな雨……。血の雨。


 ううん、黒い雨。夜なんだから、色はついてないはずだよ……。


 わ。泥みたいなものが顔に当たった……。

 水っぽい、脂っこい何か。


 どうして、色んなものが、こんなにつぎつぎと飛んでいくのか。

 やっぱりそれは、爆発があったせいなんだ。

 




 ――思い出せない。




 遠くで、何かが落ちた。

 ばきばきっ、って……人があの高さから落ちるとすごい音がする。2階からタンスを投げ落としたみたいな音。

 背中から思いっきり落ちた。怒って、おもちゃの人形を床に叩きつけたみたいに跳ねた。


 あの子、生きてる?


 うわ。あの子、あんなに汚したら、すごく叱られるよ。あれは水たまりじゃなくて、血溜りだから。血はなかなか取れないんだ。


 血。血。血。

 でもこの赤い霧は、じゃなくて、だ。


 月が真っ赤だ。目の前が真っ赤だ。




 手足をばたばたしてる。


 下は柔らかい地面だったけど、すごい高さから物凄い叩きつけられたから……。全然受け身を取れなかったから、後頭部や腰を強く打ったっぽい。


 ああ良かった生きてる。フレンズだから大丈夫っぽい。普通の人なら、頭蓋骨骨折や脊髄損傷・腎臓破裂で死んでるところ。




 フレンズ……。動物や、動物由来の有機物に……空気中の「サンドスター」が表面に接触・生物濃縮することで、発生する


 私はのか。残念だな、だったらよかったのに。


 ……お父さんって誰? あの女の子は誰?


 ……私は誰?




 だ。んだから。


 いや、そんなことはないな。ここは寒くて冷たいから、あの子に服をあげて、どっか行っちゃったんだな、父さんは。




 どうして、寒くて、冷たいんだろう?


 水がばしゃばしゃ流れている。まさか、あの子は大きいくせに、したのかな……?

 ううん、前に下げた水筒が三つともぐしゃぐしゃに形が変わって、穴が空いていて、中の水が流れている。


 ……いや、でもたしかあの子はしたはずだ。トイレに行こうとして、間に合わなくて。

 私がそんなことしたら、怒られるよ。


 怖いんだ、は。




 ネコのフレンズが、女の子のそばに寄ってきた。

 片足でバランスを取って、ぴょんぴょん。足をケガしてる。に巻き込まれたからだ。


 


 黒い房毛のあるネコ、カラカル……私の初めての友達……。私が出会ったのがこの子だ。私のだ……。




 あっちで倒れているのは、キリン。DNAの解析結果では、四種類に分類されるという。私は勉強してるから、詳しいんだ。


 向こうに転がってる白黒の縞模様のフレンズは……シマハイエナじゃないな、あれはアードウルフ。アリを食べるハイエナ科の。ウルフとつくけど、オオカミの仲間じゃない。ハイエナのなかまは、マングースやフォッサに近いんだ。


 



 こういう事を話すとが褒めてくれるから凄く嬉しい。白い人が無理やり勉強させなくても、お父さんが「――――――はすごく賢いな」って、喜んでくれるなら、動物のことでもでも、何でも勉強するのに……。




 あ……あの子が走る。走ると水がぼたぼた流れ落ちる。


 水じゃない。血だ。血がすごく出ている。


 は、お腹のだけでは防ぎきれずに、衝撃で肋骨が折れている。一二対ある肋骨のうち、下部の五本は胸骨で接続していないから、簡単に折れてしまう。

 右わき腹からすごい出血。たぶん、折れた肋骨が肝臓に突き刺さったっぽい。


 


 散らばったを集めている。


 ああ、そうだ、あれは動物園に行ったとき、お店で買ってもらっただ。ああやって、飛び出た中身をお腹に詰め直せば、生き返るんだ。お父さんが、すぐに直してくれるんだ。


 飛んでっちゃった耳や鼻を、満月の薄明りの中で、手探りで拾い集めて……。


 よく見たら、あの子もうボロボロじゃないか。骨盤が折れて、内股になっちゃって。まともに歩けてない。

 左鎖骨が折れているから、左腕が動かせないみたい。

 右手の指も全部曲がっちゃって、あれじゃ肉がずるずる零れ落ちて、全然拾えてないじゃないか。


 全身の裂傷・打撲・完全骨折・不完全骨折・脳内出血・肺挫傷、いくらフレンズって言っても、よく生きてるなあ……。

 まあ、すぐに出血多量で「サンドスター」が枯渇して、死ぬな。



 カラカルがあの子を取り押さえる。


 ああ、よしなよ、カラカル。邪魔しないであげて。


 今からを直すんだから。綿をもとにもどして、取れちゃった眼も耳も鼻も縫い直せば生き返るんだから。

 それにしても、キバが一本しか見つからないみたいだね。もう一本は、どこにとんでっちゃったのかね?


 あ、ほら、の手足が動いてるよね?


 ぶるぶるぶるぶるぶる。

 ぶるぶるぶるぶるぶる。


 ばたばたばたばたばた。

 ばたばたばたばたばた。


 ちゃんと生きてるんだ。



 え? って……決まってるだろ?

 もちろんだよ。




 キリンさんも好きだけど、ゾウさんのほうがもっと大好きだよ。

 だって優しいんだもん。

 賢いゾウさんが「私の絵」を描いてくれた。


「新しいフレンズ」だから、特別だからってことで、私を描いてもらったんだ。この時だけは、自分がフレンズに生まれて良かったなあ、って思った。




 ああ……どうしてあの子はんだ。




 え? に食べられる前に、私が食べてあげれば、……だって? のと同じように……。


 なにそれ?


 そもそも、って誰だよ? ああ、もちろんセルリアンのことか。


 だいたい、ヒトのほうがセルリアンをしまくった悪いんだ。だから、ああいうふうに、怖い奴にしちゃうんだ。


 いじわるするから、いじわるされるんだ。二回目の異変が起きるまで、そんな簡単な事も分からなかったんだな、ヒトは。


 私は違うぞ。勉強しているし、んだ。




「あ あ お !!  あ え お !!」


 何だ? カラカルがさっきから、ずっと同じこと言っている?


 くそ……まわりがうるさくて、よく聞こえないよ。


 誰だようるさいヤツは? くそ忙しいときに……。


「はなお!! やえろ!!」


 うるせえなあ、ちくしょう。

 誰なんだよ、さっきからずっと叫んでるのは……。




「ハナコっ!! 止めろっ!!」


 ハナコって……誰?







 






 あああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああ




 私だ。


 さっきから、ずっとうるさく泣き叫んでいるのは、私だった。







「オエップ!! コレうんこじゃねーか!! うんこ食べちゃったよ!! げろっぴ!!」

「ゾウのうんち食べてどうすんのよバカ!!」


「……この子はお母さんがいない子なんだ!! セルリアンなんかに食べさせて、独りぼっちにさせない!! この子のお母さんになってあげるんだっ!!」


 肉を食べて。吐く。肉を食べて。吐く。肉を食べて。吐く。

 その繰り返し。繰り返し。繰り返し。

「やめろっ!!」


「いやだ、いやだ、いやだ!!!!」

「しっかり見ろっハナコッ! もうその子は死んでるわよ!」

「うそだ、うそだ、うそだ!!」

「さっきアンタの目の前で……『パッカーン』とはじけたのは何よ……『その子の頭』でしょ!!」

「ちがう、ちがう、ちがう!!」


 私の中からはもう、胃の内容物も胃液も出てこない。代わりにどろりとしたゲル状の血の塊が口から噴き出す。 私の中身が出て行って、ゾウさんの中身と一緒になる。


 ああ、こんなんじゃ私……お母さんになってあげられないよ……。




 カラカル。きれいな服も、すべすべの肌も傷だらけで……。


「ああああああ……!! カラカル、そんな……ケガして……全部、私のせいだ!」

「ハナコ、ね? もういいでしょ……」

「私が『サバンナのルール』を破って、あの子を助けようとしたせいで、みんな巻き込んで!」

「もういいよ……もう、やめよう……」

「良くない! 結局この子も救えなかった!」


「……カラカル、死にかけの私を、君が生き返らせたよね! どうしてそんなことしたんだよ!? 私は死んだままで良かったんだ!! こんなことになるなら、生まれてこないほうが良かったんだ!!!!」




「……いい加減にしろッ!! このクソバカァッ!! ブチ殺すぞこのヤロウッ!!」

 カラカルの、今まで聞いたことが無い声、言葉、唸り声。


 迫る顔。

 がぶり。


 私の顔を噛む。息ができない。


 ああ……止めてください、これでは死んでしまいます。


 そういえば、ずっと前にもこんなことがあったなあ……。カラカルにこうして「キス」をされて……。

 あれは、私を生き返らせてくれた時だ。


 それと同じように、まちがって生まれた私を、こうして殺す気なんだ……。




 犬猫は死んだ飼い主を食べるって言うなぁ……別に、あなたの飼い主なんかじゃないですけど。

 ……だいたい、私は「死んだヒト」なんだろ? つまり、ただの肉だ。さっさと私を食べてくれ……。もう、この世界に居たくないんだ。この残酷すぎる世界に、「生まれてこない自由」だって、私にはあるだろ?


 それで、いなくなるなら、せめて私は……最後は好きな人に食べられて、になりたい……。




 あ、そうか、私、カラカル……この人のこと、ずっと好きだったのか。


 私を食べて。


 一緒になろう。




 ぱか。


 顔が離れる。牙を向いた大きな口。

 粘性の唾液が糸を引く。


 ……どうして、止めるんですか?

 どうして獲物を食べる肉食けものが、そうやって泣いているんですか?


 お願いですから、はやく、私をべてくださいよ。




「た……べてください……」


「た……べないわよ……」




「どうして……私をべないんですか? 私、骨ばっかりで胸もなくて、まずいから。もないから……?」


 ぱくり。

 わ。突然、またキス。やっぱりたべる気じゃないか……。



「わからずや。べないわよ。べない……けど、今度そんなこと言ったら、本当に喰い殺してやるから」

「……意義あり。……カラカル『けんじ』の発言は、ムジュンしています……つじつまが合ってません‥…」


「違うわよ。アンタがあーいう言ったら、あーして全部べてあげるって言ってるの……」

「きっとお腹を壊すよ、そんなの食べたら……」

「あはは、最初に会った時に『といれ』で『げりぴー』したハナコみたいに?」


「本当に、助けてくれなくてよかった。死んだままで。……こんなに、みんなを傷つけてしまうくらいなら」


「あのね……」カラカルが何かを話そうと一呼吸置く。




「あの時は『人を助けるのはあたりまえ』なんて、お姉さんぶって言ったけど。本当はすごく怖かったの。あの時が、死にそうな子を助けたの、初めてだったから」

「……そうだったのか」


「怖くてどうして、いいかわからなくて、持ってた『サンドスター』を使うことすら忘れてたくらいで。ハナコが助かって、本当に良かった……って思った。あの時ホントは私も嬉しくて、ハナコと一緒で、オシッコ漏らしちゃうところだった」

「い、言わないでよソレは……ほかの人たちには、お願いだから秘密に……」


「あはは、いいじゃない。私たち、から」




 そうか。

 それもそうだな。


「アタシ、もう動けないわ。足が折れてるし。疲れちゃったから、サンドスターのツメが出ないの」

「私も戦いたいけど、歩けないし。手が使えなくて、武器も握れないんです」

「私の手くらい握れるかしら?」

「あなたが握り返してくれるなら」


 戦車セルリアンの逆襲。

 宿主の眼を潰され、寄生体が索敵して我々を見つけたようだ。


 怒りに身を任せて、私たちめがけて突進してくる。


「ダメだなあ。あれ、避けられないわよ。私たち、ぺしゃんこになって死ぬわ」

「ごめんなさい。全部、私のせいで」

「いいのよ。今まで生きててずっと、おもしろかったから」




「カラカル、きれい。体中、虹色に光って」

「フレンズは、こうやってサンドスターが身体から出ていって死ぬのよ」

「そうなんだ。よかった。私たちフレンズの最後って、すごくきれいなんだね」

「そうね……」




「月が、きれいですね」

「うん……」




 セルリアンのキャタピラの轟音が近づいてくる。

 幕引きの時カーテン




 本当にごめんなさい。

 みんな、さようなら。


 一緒にいた時間はほんの少しだったけれど、いつも優しくしてくれた、わたしのけもの友達フレンズ……。


 本当にありがとう。

 私はジャパリパークに生まれて幸せでした……。







 ――――気が付くと、私は空を飛んでいる。何故だろう? セルリアンの突撃で、跳ね飛ばされたのだろうか?


 それはありえない。


 私たちはキャタピラで轢き潰されて、今頃いるはず……。




「ぬわっ!! なんだこれ!?」


 ここが、世に聞きしところの「天国」……いや、辺りは真夜中だ……? つまり、時間帯は変わっていないということだが……これは現実か……。


 後ろを振り向くと、青白い服を着たフレンズが背後からしっかりと私の腹に手を回している。


「わわわっ!? あなたっ、誰っ!?」


 のだ!




「…………! …………。…………! …………♪」

 私が振り向いたことに気が付くと、彼女は何も言わずに笑顔でうなづき、その表情のみで私に何かを訴えかけてくる。


「えっ……なっ、何!? 何ですかっ!?」


 む、無口なのかこの子……それもすごく。

 いや、言ってることは、なんとなく分かる……ような……?


 彼女は、昼間に水場で見かけて、そして裁判所でもほかの者たちに混じっていた、あのフレンズだ。

 こうして近くで見るのは初めてだ。


 青白いカラーリングの空色ワンピース――一部の生地がシースルーになっていて涼しげだ。半透明の波のようにうねる髪の毛を、頭の上の二か所で結ってお下げにしている……。そして、まるで大きな海藻類のような、空色の半透明の尻尾……。黄色の髪飾り。胸元には鮮やかな空色のリボン。末端部に入る黄色のアクセントカラー……。  


 何の動物か、全然わからん!!

 ウミウシやイカのような軟体動物か!? それともクラゲジェリーフィッシュか!?

 海の動物だよね!? でもこうして、空飛んでるよねえ!?




 一体何者なんだ?

 スカイ色の衣をまとう水棲動物フィッシュのフレンズ……。


「あ、ありがとうございます。あなたは何のフレンズですか……?」

「…………? …………。…………。…………。…………☆ …………♪♪」


「? 私のことより……いいから下を見ろ……? ってコトでしょうか……?」


 彼女が無言で促している?通りに、はるか下……サバンナの大熱帯草原を見やると……そこには……。




「インパラ! グレビーシマウマ! スプリングボック! セーブルアンテロープ! グラントガゼル!」


 はるか眼下では……セルリアンから避難したはずのシマウマとレイヨウのフレンズが……カラカル達ではないか!! ど、どういうことなんだ!?


「…………?…………!…………。…………☆ …………!☆♪」

「ん? え、えぇ……? なな……何ですか、その不敵な笑みは……??」




 するっ。




「ぎゃあーっ!!」


 彼女は手を放して





 ……!!


 ウワーッ!! じ、自由落下ァ!!

 ぐわぁー!! めっちゃ速ェ!!


 ぱっ、パラシュート!! パラシュートッ……!!


 ねえよそんなもん!!


 クソォ、コートを脱いでパラシュート代わりに――!!

 うわダメだこれっ!! 風圧で脱げないっ!!


 ご、五点着地で落下の衝撃を和らげればッ!!

 む、無理ムリッ!! さすがにこれは高すぎるっ!! 手も足も骨折してるしぃ!!


 あーっ!! ダメだー!!


 あかん、やっぱりこれじゃ死ぬゥーーッ!!


 みんなァーっ、それじゃあ元気でーッ!!







「オ!! ないすきゃっち!!」

「ぐえっ!」

 ヒキガエルみたいな変な声が出た。また私は、空飛ぶ誰かにお腹を抱えられている……。


 な、何回も飛んだり落とされたりで忙しい日だなぁ……。


 ……今度は誰だよ?


「おまたせ致しましたぁ、ハナコ先生っ! わたくし、ただいまサンジョウでありましょうっ!」

「あ……あなたは……! ありがとうございます、死ぬかと思った……」


 私を掴む猛禽類のフレンズは紛れもなく……サバンナ地方のスーパーモデル『ヘビクイワワシ』だ!


「どーして上から落ちてきたんですかぁ? ハナコさん?」

「あ、あの……青白い服の……空色の空飛ぶフレンズが、助けてくれて!!」

「ダレでありましょう? そんなフレンズいましたっけ……? わたくしの知らない鳥の子でしょうね」


「ホントに鳥なんでしょうか……」

「マルミミゾウやカモノハシみたいな、お隣のじゃんぐるちほーから来た子じゃないかと……」


 一体何者なんだ……謎フレンズ…‥……名付けて「空色そらいろころもきみ」!




 ゆっくりと草むらに着地するヘビクイワシ。

 ほかのレイヨウのフレンズ達もそこに集まってくる。


「わあああん! 私、死んじゃうかと思いましたぁ!」

 どうして真っ先に私に抱きつくのか、アードウルフさん。


「ふふふ……名探偵は、滝に落ちようとも帰還するものだからねっ!」

 あなた、ホントいつもどおり変わらないな、キリン。


「がおーう」「にゃーあ」「ぱおーん」

バーバリさんもクロアシさんもマルミミさんも、よくご無事で……。


「よっ、また会ったわね」

「カラカルさん……さっきは、その……」

「言わないで! 色々あったけど水に流しましょう!」


「はい……あの……避難したはずのフレンズさんたちは、どうして……?」

「ああ、それは本人たちに聞いてよ」




「アナタたちが戦うの、遠くから見てたの!」

「あんなにがんばってるのに~、私たちだけシッポを巻いて逃げるわけにいかないですよ~!」

「怖がりのアードウルフだってがんばってるんだ! 私たちだって!」

「セルリアンがこわくて、『げー』ってしても、大丈夫だもん!」

「吐いちゃっても、またジャパリまん食べればいいもの!」

 インパラ、シマウマ、スプリングボック、セーブル、ガゼル……。




「いよーう! 私たちもいるぞ!」

「ハナコの『ばいく』もここに運んどいたぞ!」

「さばんなちほーを走り回ったから、疲れました~」

 アフリカニシキヘビ! ナイルワニ! そして彼女らを背負っているフレンズはオグロヌーと……?

「はじめまして。オグロヌーのおともだちの、わたしオジロヌーです」

 あ、どうも、はじめまして。これはごていねいに。


「ぬふふふ……これは、作戦なのでありましょう!」ヘビクイワシが説明する。




「つまりっ! 岩場コピエの『対セルリアン・とらっぷ』を準備し終わった我々『ヘビクイワシちーむ』は、草原の『ハナコ先生ちーむ』の応援に行きましたっ! だがしかしっ……あのセルリアンは手ごわくて、皆さんは大苦戦! でも、ネコ科フレンズやキリンやゾウのスピードやパワーに対して、私たちが助けようとしても、残念ながら足手まといっ……みなさんの連繋を乱してしまうでしょう……そこでぇッ!!」


 ペンを入れた胸のポケットから、「何か」を取り出すヘビクイワシ。

「このっ! 『サンドスターの小びん』を、さばんなちほー中から集めてきたのですっ!」


「いっぱいあるぞおっ!」

「さあ、使ってちょうだい!」

 ニシキヘビとナイルワニも、『SS小びん』を取り出す。


「早くみんな使って!」

「何言ってるのよハナコ! アンタのケガが一番ひどいでしょ!」


 に備えて、の差し入れとは!!

 なんて気が利く人なんだ、ヘビクイワシさん!!




 ――――――よし! だいぶケガが治癒してきた! さすが死人も蘇らせるサンドスターだっ!

 もうだいぶ歩けるし、両腕の握力も戻ってきている! バイクにも乗れるし、銃も使える!


 ケガしたフレンズ達も、走れるまでに傷が治癒している!




「おいっす! さっきはありがとね!」

「あ、イワハイラックスさん……よかった、傷を治してもらったんですね。……ねえ、ここにあなたの、壁を歩く時の『ねばねば液』をつけてくれませんか?」

 私はシャツをめくって腹の傷口を見せる。


「?? ケガのまわりに? どうしてなの?」

「この拾い集めた『ゾウさんの耳』を、お腹のキズに貼るために……『コラーゲン』と言って止血用シール…‥血を止めてくれるんですよ」

「そのゾウさんって……」

「うん……だから……ケガを治して、あの子のかたきは必ず討つ!」




 私は皆に話す。


「……あのセルリアンは、私たちを見失っているようですが……当初の作戦通り、サバンナの岩場『コピエ』に誘いこんで、岩を落としたいところです……。まだちょっと岩場まで離れているので、レイヨウさん達に頼りたいのですが、でものが心配で……」

「だいじょーぶです、先生! このヘビクイワシにいい考えがありますでしょう!」


 その「先生」ってのは止めてほしいけどね……。


「レイヨウやシマウマやわたくしのようなフレンズを、ネコ科やヘビのフレンズが『うんてん』するのですっ!」


「ヘビクイワシさん……なんていい考え! あなたこそが、サバンナ地方のだっ!」

「うふふ……ハナコさんの『ばいくさばき』を遠くから見ていて、思いついたことですが……でも、もっともっと、ほめてっ♪」

「いよーおっ、ヘビクイワシ大先生ッ! あたまがよい! すごくかしこい!」

「うっふっふ♪♪」




 名付けてコレ、『ばいくごっこ』作戦!


 さあ、セルリアンに逆襲だ!




 見よ! セルリアンを引き付けて、岩場の谷へ誘い込む、「フレンズライダー軍団」の走りを!


 サイドカーにマルミミゾウとハイラックスの乗っている、私の運転するバイクに劣らぬ速さ!




「インパラ、夜のことは私にまかせてっ!」

「おっけーい、カラカル! あなたのこと、信じてるからっ!」


「あ、あそこの岩を右に曲がってください! スプリングボックさん!」

「りょうかーい! アードウルフ!」


「ふむ……シマウマに乗るのは初めてだが……面白いぞ! ばいくごっこ!」

「ライオンさんを乗せるなんてぇ~、私も初めてですよ~」


「ぬー。暗いのに、よく周りのことがわかりますね……」

「クロコダイルの『ピット』のワザさ!」


 おぉ、サバンナのフレンズ達のコンビネーションは抜群だ!




「がぶり」

「きゃっ……名探偵の首をするはやめてちょうだいっ! クロアシネコ!」

「ごめんなのにゃ。キリンを見ると、つい、ほんのーてきに」


「この先の林は左だ!」

「りょうかいでありましょう! ニシキヘビさん! じゅるり!」

「ヘ、ヘビクイワシって‥…オレもう、その名前だけでイヤなんだが……」

「まあまあ、そう言わずに。名前と違って、ヘビ以外もよく食べるんですよ……そしてハナコ先生から分けてもらった『松明たいまつ』ゥ! わたくしは『火』だってへっちゃらなのですよ!」

「ワーッ!! お前やめろ、『ピット器官』のジャマだぁっ!!」


 えぇ……サバンナのフレンズ達のコンビネーションは……そんなに抜群でもないこともある……。

 っていうか、明らかに人選ミスでは……。




 私たちの後ろからセルリアンが追ってくる。手や指を使ってヤツの体高から距離を計測すると、背後数百mほどか……。

 このサバンナの不整地で、セルリアンは時速40~50kmもの速度で追跡が可能のようだが、レイヨウやシマウマのフレンズは時速60kmほどで長時間の走行ができ……本気を出せば最高時速80km以上で走ることができる!

 さらに「夜の目」を得た草食獣に、追いつくことはできまい!


 セルリアンは私の銃撃で「宿主の眼」を損傷しており、「寄生体のほうの五感」に頼って、我々を認識している様子。だが、夜間において細部の環境を正確に把握できていないらしく、また動作の小回りも利かないため、まばらに生える草むらなどの障害物を避けずに突っ切って、直線的に突撃してくる。


 ……いい感じだ。

 この調子で愚直に我々に追いかけてくれば、ヤツを確実に抹殺できる……はずだ……。




「あーっ、みんな戻ってきたよ!」

「待ちくたびれたぞっ! はやくオレもあばれさせろっ!」


 に差し掛かった時、不意にフレンズの声が上方から聞こえてきた。カモノハシとラーテルだ。鋭いツメを持ち「穴掘り」が得意な彼女たちには、この岩場の谷「やばけー」で、ずっとの準備を続けてもらっていたのだ。


 見上げると、満月の光のもと、見晴らしのいい大きな岩の上に……今にも崩れ落ちそうな大岩のそばに、小さなシルエットが見える。


「よし! キリン、ゾウ、ニシキヘビ、ワニ、みんな山に登って!」

 私はバイクを止め、力の強いフレンズたちを促して、「いわおとし」のトラップを敷設してもらった高所の待機場所へと登らせる。

 岩場に詳しいハイラックスの知恵が、ここで役になってくれた。それに眼下の崖の斜面にまばらに生える灌木が、ちょうどいい目隠しになってくれている。




 残りの草食動物フレンズと、その「運転手」フレンズは、切り立った崖が両側にある谷底の道を走っていく……彼女たちはセルリアンをへ誘い込む「囮役」だ。


 崖の途中の真ん中ほどの自然に狭まった地形には、フレンズ「工兵」達によって岩や木が自然に配置されてさらに狭められている……。そしてそこには「落とし穴」が敷設されて、敵を足止めできるようになっているのだ!


「ヘビのフレンズのワザ『ピット器官』で……ヤツのが近づくのを感じるよ!」

「クロコダイルの私だって! 親戚のアリゲーターには『ピット』は無いんだけどね!」

「この私、カモノハシも……地上なのに、電気定位でセルリアンの『でんき』を……ビンビンに感じてますよっ!」


 視覚、聴覚、嗅覚、それ以外の各々の感覚により、宿敵の接近を感じるフレンズたち。

 決戦の時は近い。




「このまぬけセルリアン! ばか! ばか!」

「あーっ、つかれて転んじゃったー! わたし、食べられちゃうー!」

「や、やっつけてやります~っ! こわくないですよう~!」


 谷底の道の途中、罠の空間で立ち止まって、精いっぱいの罵倒・演技・挑発で、セルリアンを誘う草食フレンズたち……そこへ、私の思惑通りに突進してくるセルリアン!




「今です! 岩を落として下さいっ!」

「それっ!」

 私が合図を出すと、岩場の影に隠れていたフレンズ達は飛び出し、その怪力で谷底へ岩を落とし始める……つまり、これで谷の前方への道が封じられた……。状況を察知した戦車セルリアンはキャタピラを逆回転させて急ブレーキをかけるが……時すでに遅しであった……大質量の物体の突進は、そう思い通りに止まらなかった。


 地面に掘られた穴ぼこに足をとられ、フラつきながら突進して、前方に積み上がっていく岩の壁に衝突するセルリアン!


「よーし! もっと岩落とせ! どんどん落とせ!」

「くらえ! 後ろにも落とそう!」


 足止めを受けている間に、前方と後方の退路を断たれるセルリアン。両側は切り立った崖、地面には落とし穴。

 もうお前に逃げ道は無いぞ!




「それそれ! 私たちも攻撃だ!」

「私もこの『スリング』で!」

 腕力の劣るフレンズ達も、追撃で投石をして加勢する。


 そして私も……アードウルフに持ってきてもらった「バオバブの樹皮」や「サイザルアサの繊維」で、ヒマを見つけて編んだロープを使った「投石器」での印地打ちで、セルリアンに石を投げまくる!


「見ててください! こーち! これぞ『毒針さーぶ』ッ!!」

 カモノハシも、テニスボール大の虹色のエネルギーのようなものを、ラケットのような尻尾で叩いて眼下のセルリアンめがけて撃ち出す!


「ふぃふてぃーん・らぶ! よーし、『せかんどさーぶ』はこんとろーる重視で……」

 さらに第二球で追撃を……ってオイ!


 今見えちゃったけど……キミ、そのは……パ、パ、出しましたよねぇ!?(錯乱)


 ねぇ!? ねぇ……!? タマ、タマタマ……どどど……出したのかなぁ~っ!?(セクハラ)




「どうですか? ハナコ先生!? 私が指示して作ってもらった『セルリアンわな』の出来は?」

「もう最高ですよぉ、ヘビクイワシさん! こんなに上手く行くなんて!」

「ヤッター!! ウワーイ!!」


 そう、本当に思っていなかった……。この単純な作戦――フレンズに言葉で詳細を伝える以上、単純なものに――で……この「魚採りの罠」程度で、アイツが本当に倒せるなんて……。


 作戦を立案した当初は、あそこまで頭が回るセルリアンだとは思っていなかった……。あのずる賢いアイツ……攻撃されて頭に血が上って、分かりやすい陽動に引っかかってしまった、ということだろうか……?




「あっ!」


 誰かが落とした大岩が、セルリアンの潰れた前面装甲に落ちて……その端が砕け落ちて……まさか、!?


「やばいっ!」


 装甲が一部剥がれて、ヤツの長い――が再び自由になってしまった!


 くそっ……だが、高所に陣取っている私たちに「砲撃」を行うには仰角が急すぎるはず……。


 いや、積み上がった岩に無理やり突進して……再びっ、車体を我々を仰ぎ見る角度に置き……大砲の「ストライクゾーン」を!!

 を取られた!!


「畜生ッ!! みんな逃げろッ!!」


 一体、今夜だけで何回もの閃光と砲撃音を見聞きしただろう……。

 セルリアンのは、私たちのいる場所の足元の岩を打ち崩すのに十分な威力だった……。

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