第12話 戦象へのプロモーション▲
戦車セルリアンの突進を受け止めるふたりのフレンズッ!
キリン! マルミミゾウ!
「うもももぅーっ!!」
「ぱおおーっんんん!!」
「カラカルっ! バーバリー! クロアシネコ! 生きてるぅっ?」
「なんとか~!」
「かみのけがチリチリなのよ~!」
「我らは
あのセルリアン2体が、けもの20匹分に相当する戦力であれば……キリンとゾウ……こちらのコンビは200匹に匹敵する! 10倍だぞ10倍!
「めいたんていのチカラ、とくと見よ!!」
「悪いセルリアン! わたし、もう怒ったぞーう!!」
うおーっ! かっこいいっ! 殺っちまえ! セルリアンをブチ殺せ!
……よしっ、「ビッグ・ザ・サバンナ」タッグがセルリアンの攻撃を食い止めている間に、私のほうはカラカル達三人を助けなければ!
乾いた暗闇の
なんだこれは……? こんな光、今まで無かったハズだが……。人工物……機械……バイクだ!
イネ科植物の繁茂した
縁の鋭い長い葉をかき分けていくと、その全貌が明らかになる……。変わった外見の……ミリタリー仕様の……クラッチもブレーキペダルも無い……「電池」があるオートバイ……!
黄色の地に、はっきりとした褐色の斑紋……これは迷彩パターンというか、ネコ科動物(ヒョウかチーターか?)の毛皮を模したカラーリングだ。動物の肢や耳や鼻を模したカウルまでついた「ジャパリ迷彩」とでも言うのか。
何故こんなものが熱帯平原のド真ん中に置いてあるのか……どうして突然ヘッドライトが点灯し、電源が始動したのか……まさか先ほどのセルリアン「電撃」のせいで……? カギ穴にキー(ゾウのキーホルダー付き)が差しっぱなしで、ここで隠されるように置かれたままになっていたが……。
この突如として出現した乗り物に対しての疑問はもちろん山ほどあるが……それよりも今はフレンズ達を救い、セルリアンを倒すことが先決! この「ジャパリバイク」は、「使ってくれ」と言わんばかりに静かに電動音を響かせている……。
もし動いてなかったとしても……カギ穴に中指突っ込んで回路ガタガタ言わしてでも動かしてるところだよっ!
スロットル全開でアクセルを吹かすと、植物の
「大丈夫!? みんなっ!?」と、単車にまたがったまま声をかけると、フレンズ達は目を見開いた驚いた顔をして、耳や尻尾を立てて興奮している。
「ハ、ハナコ……何それ……?」
「わぁー、目が光ってるー。たぺたむー。その子もネコのフレンズなの?」
「その正体は皆目見当つかぬが……珍妙不可思議で……
セルリアンの電撃で麻痺して動けないカラカル達は、呑気にも次々に各々の疑問を口にしてくる。ネコ科フレンズはみんな好奇心旺盛なのか? しかし私は「後で説明するから」と断りを入れて、彼女たちを負ぶってサイドカーのシートと後部トランクに尻を押し込んで乗せてから、再びオートバイを発進させる。
「飛ばすからすっごい揺れるよっ! みんなしっかり掴まっててね!」
「あ、走り出したわ。走ると『まんまる』が回るのね」
「『まんまる』が回るゆえに、走るのではないか?」
「トムソンガゼルより、ずっとはやい!!」
くそっ……サイドカー付きのバイクってのは、こんなに曲がりにくいのか……車体が倒せないし。それに定員オーバーでスピードが出ない……。女の子とはいえ、側車に三人は重すぎる……。
かといって道交法の定員人数を守り、彼女らを置き去りにして楽しく夜のツーリングとしゃれ込むわけにはいかない(そもそも免許証不携帯だし――私は自分の記憶すら不携帯だ――おまけにノーヘルやぞ)。
私は負傷したフレンズ達を救出したその足で、対戦車型セルリアンの戦線に加わる。
「キリン! ゾウさん! 私も一緒にヤツを引き付けます!」
私は砲撃の標的になりにくいようジグザグに蛇行しながら、キリンとマルミミゾウに声をかける。彼女らも、私の使役する「鉄製の動物」の登場に少し動揺したのが、表情や耳や尻尾から見て取れたが……それでもセルリアンへの果敢な攻撃の手を緩めることはなかった。
「『しんし』はつねに『すとれーと』……!! そして私は『しんし』であるっ!」マフラー攻撃を繰り出すキリンの台詞だが、よく分からん。
左脚前のオーソドックス……首のマフラーの両端をだらりと下げた、ヒットマンスタイルの構えから……キリンのストレート「マフラー」が炸裂する! これはきっと、オスキリンの首のぶつけ合い「ネッキング」に由来するワザなのだろう。オスキリンの頭部のように大きく固くツノが盛り上がったマフラーの先端部を……超高速のスピードでムチのように動かし、遠心力によってセルリアンの装甲に叩きつけるっ!
「くぬやろ!! くぬやろっ!! くぬやろおおおぉーッ!!」
マフラー回し打ち連繋! 中国武術の「多節棍」や、脚の長いタイ人キックボクサーのしなる蹴り技を思わせるが――それら「人間のワザ」との違いは、首を中心としたマフラーの「回転運動」による攻撃ゆえに……命中時の反動を利用して反対方向へ回転させての
人間にはとても無理な芸当な「フレンズのワザ」……。七色に輝く「サンドスター」を力学的エネルギーに変換してマフラーを回転させているのか……⁉ その攻撃スタイルを支えるのは、キリンの細い首に隠された……アマレス選手もビックリの、尋常ならざる筋力!
あの、これ言っちゃ悪いが――
「さっすがァ! やっるぅキリンっ!」華麗なマフラー攻撃にカラカルも感嘆の声をあげ、見とれている。
だが……。
「
バーバリライオンがそう指摘する通り、一方的にキリンのマフラー突きを食らい続けるセルリアンだが……ほとんどダメージを受けた様子が無い。
おそらく、キックやフルコンタクトのハイキックが「軽くて動きやすい目標」の頭部に瞬間的に当てるのが効果的で、ボディに対しては効果が薄いのと同様に……キリンのムチのような高速のマフラー打撃も、セルリアンの固い殻をはじいて威力が分散するばかりで、内部へ攻撃が通っていないことが見て取れる。
「はぁ……はぁ……な、なかなかやるじゃない……こいつっ……!」
まずい。さすがのキリンも息が上がってきている……。
「ムリすんなーキリン! わたしが代わるぞう!」
「もなみ! マルミミ! 『ばとんたっち』よ! よろしく頼むわねっ!」
小さなフレンズのマルミミゾウ……。「裁判」では随分のんびりしていて、口数も少なかったけれど……。小柄な私より、さらに背が低い(なお、胸は結構ある)彼女だが……独りでセルリアンを食い止められるのか……。
そういえば、マルミミゾウはアフリカゾウの仲間で、古代ローマ軍やカルタゴ軍の「戦象」として戦った種類のゾウだという。フレンズ戦車vsセルリアン戦車……サバンナ戦線における機甲戦の火ぶたが切って落とされる……。
「ぱおおおぉっ!!」
セルリアンの後部めがけてダッシュで突撃するマルミミゾウは、意外と足が速い。頭部「主砲」の死角となる、尻尾の方向から奇襲をしかけるつもりか……!
だが、上面の眼球で背後をじろりと一瞥したセルリアンは、尻尾状の器官をムチのように振り回し……電動ノコギリのような轟音をあげて……弾丸状のものを連続発射してきた! ……まるで、カバがあれをまき散らしてマーキングするみたいだが……殺傷能力は段違いだ!
赤黒く輝く立方体の「機銃掃射」がマルミミを襲う!
「こんなものっ! このまま突っ切る!」
「ゾっ、ゾウさんっ! 危ないッ!」
「痛くないぞうっ!
ムチャだよっ! 強行突破する気か!
マルミミは両腕で頭部と首をガードし、手首を内側にして動脈を守る……さらに「鼻のマフラー」を腕にクロスさせて二重に顔面を防御する構え――ジョージ・フォアマンのアルマジロスタイル「クロスアームブロック」ならぬ……エレファントスタイル「クロスノーズブロック」だ!
「ずおおおおぉーっ!! 」
全身に細かい傷を受けながらもひるまずに、強引にセルリアンに突進する!
「ぱぉッ……りゃああああ!!」
……ダッシュで踏み込んでの、双手の高速刻み突き……体重を乗せた両手突き出しパンチだ……!
伝統派空手や相撲で見られる諸手突き……というか、ただの野生パワー任せの突っ張りだが、セルリアンの臀部?を、両腕で巻き込む形のダブル張り手だ……破壊エネルギーを逃がすことができないっ……! 丈夫な装甲を手の形にひしゃげさせる程の破壊力!
その激痛に……壊れたスピーカーのように、甲高く耳障りな悲鳴をあげるセルリアン!
うぉー効いてるぅっ!
ゾウの足はかかとの部分に分厚い脂肪の塊があり、歩行時の巨体を支えるクッションとなっているという……。その柔らかい足の特徴を、フレンズの身体は受け継いでいるのであろう……。その柔らかい手首での張り手は――空手の手根骨での掌底打ちと同じで、接触時間が長く、重く押し込む攻撃――固い目標へ衝撃を与えるのに最良の一撃ッ!! セルリアンのカマを掘ったWパンチは、
「まだまだだぞうーっ!」
マルミミはセルリアンの後部装甲に両腕をめりこませる…………プロレスラーの固いクラッチのように脱出を封じ……そして、「鼻」マフラーでセルリアンの脚部をすくい上げ、アフリカゾウに比べて短く真っ直ぐに降りた「牙」の髪の毛をフォークリフトのようにして……!
え、えー、ウソだろ……小さな小さな女の子が……数トンはくだらない巨体をブレーンバスター風に
J.F.E.スープレックスを食らって放物線を描くセルリアンの巨体!
地面をえぐり、夜空に土くれを巻き上げながら転がり、横転したトラックのように横倒しになる! ヤツはすぐさま、アルマジロのように背面装甲の関節部の皮膚を伸ばし、身体を丸めて追撃に備えて防御するが……マルミミはそこへ走っていき、グラウンド状態の敵へ更に激烈なる追い打ちを仕掛ける!
4本のヒヅメ(アフリカゾウよりひとつ多い)を模した、つま先が保護された安全靴を抱え込み……装甲の薄い関節部分を狙ってのトーキック! ……いや、鼻を後ろへ回して蹴り脚を掴んでの……フェイントと頭部保護、そして鼻のばねの反動による威力向上を兼ねた、テクニカルなサッカーボールキック……!
フレンズの小さな身体には、
さらに……攻める! 攻めるっ! 攻めるのをやめないっ!
「ぱおっぱおっ! ぱおんっ! 『野生開放』するぞう! 倒れるまでぱおぱおしてやるっ!」
ぶおおーっと、マフラーから鼻息を吹くマルミミゾウ。鼻孔からサンドスター粒子が噴出する。フレンズ達の言う「野生開放」とは……野生の本能へのスイッチングか!?
いっちゃうぞバカヤロー! 熾烈を極める猛攻撃は続く!
スキだらけの
バーバリライオン達がヤツの「歩行用の多脚」をさっき潰したから……今の「キャタピラ型の内肢」の直線的な固い動きでは、ゾウの大振りの攻撃であっても回避することはかなわない!
私より小さな……マルミミゾウの一挙手一投足……手が、足が、鼻が触れるたびに……ゾウやサイのような大型陸棲動物を思わせるデカブツセルリアンが空を飛ぶ!
私も走行中のバイクから、
ああーっ……! ゾウさん……ゾウさんっ……もう強すぎますぅっ!
「パンチだ! キックだ! 鼻ァッ! さらに、ヘソで投げるルー・テーズ式バックドロップ! ブリッジ時に描かれる、女の子特有のお腹の柔らかな曲線と、へそチラがたまらんぞう! おおっとボディスラムの体勢に入った……これは変形ノーザンライトボム……名付けて
「さっきから……ノリノリでよく喋るわね~、ハナコ。言ってるコトぜんぜんわからんけど」
「鼻息あらいのねー。目が輝いてるのよー……それがヒトの野生開放?」
カラカルとクロアシネコが、私の実況解説に突っ込みを入れる。
「アンタ……興奮するとそんなに話す子だったの……」
「よだれもめっちゃ垂れてるのー」
「や! ずびっ! だって凄い
「ハナコはゾウさんが大好きなのね」
「岩場に誘い込まずとも、ここでKOできるかもしれないっ!」
「どうかな……奴は先刻からワザと吹っ飛ばされている……」
「え……!?」
……確かにバーバリーの慧眼どおり……打撃がヒットする直前に、セルリアンはキャタピラ状の脚を動かして、自分から吹っ飛んでいる……。ボクシングで言う「スリッピング・アウェー」だ……。衝撃力で、巨体が宙を舞って吹っ飛んでいるということは……言い換えれば、攻撃の与えるエネルギーがその大質量を移動させる運動に使われ……内臓へのダメージは薄い!
初撃以降のゾウの攻撃は、受け流されてしまっている!
「ぱっ……ぉぉ~ん……んはぁっ、はっ! はぁ、はぁっ……!」
「もうフラフラじゃない! あの子、ほとんど汗かかないから!」焦燥の色を隠せないキリンが叫ぶ!
疲労の色濃いマルミミゾウ……。息も荒くなり、丸い耳をぱたぱた打ち付けて、耳の毛細血管を冷却しているものの……ゾウは元来汗腺が乏しい獣……。
くそっ、小さな身体であんなに暴れて、すっかりエンジンが温まってしまっている!
「ぱおっ……」とうとう地面に膝をつくマルミミゾウ!
のろのろとしか走れない彼女を引き潰そうと……追尾しながら全速で突進するセルリアン!
「ゾウさんっ!!」
私はバイクから立ち上がってアンテロープの角と骨と腱と皮で作った「ボウガン」で、シマウマの割れた大腿骨を装填して発射する!
しかし……防衛の際に一瞬だが目標の追尾が逸れてしまい、そのまま明後日の方向へと突進せざるを得ないセルリアン戦車!
よしッ! 現地調達の「工作」のぶっつけ本番の初使用で……しかも単車に乗りながらの
無事に距離を取るマルミミゾウに、ジャパリバイクで接近すると、キリンも続いて追っかけてくる。
私はマルミミゾウの頭に、いくつか持っていた水筒の水を全部かける。
「これだけしかないけど……ここでちょっと水浴び休憩!」
「ちべたくて気持ち良いぞうっ! ハナコ、ありがとう!」
「しかし……これ以上食い止めるのはムリですっ!
「いいや、私に任せて! セルリアンに『最後の一撃』を食らわしてやるぞーう!」
マルミミは怒りに燃えている! こめかみから流れるのは汗ではなく……ゾウ特有の「ムスト」と呼ばれる生理現象……! このゾウ汁は……ゾウさんブチ切れモードの証だ!
「わかりましたっ! ……でも普通のパンチやキックじゃ、アイツに受け流されてしまいます。セルリアンを踏み潰しましょう!」
地面と脚とでサンドイッチする「踏み潰し」ならば受け流すことはできない!
……ゾウの踏み潰しというのはヒトの処刑の一種でもある残酷な刑罰だが……セルリアンをスイカのように叩き割ってブチ散らかす分には最善の方法だ! サバンナの大地をヤツの赤い臓物の降る雨季にしてやれッ!
ゾウが踏んでも……壊れる
「さらに私、いい考えを思いついた! キリン、一緒にゾウさんを回そう! 回してセルリアンにぶつけるの!」
「おおっ! えれめんたりっ!」
マルミミゾウが自身に巻き付けた鼻を、キリンがマフラーで掴み……そしてキリンは、私の後ろのタンデムシートに乗る。
私がジャパリバイクを走らせれば……すごい勢いでゾウが回る回る! コマ回しの要領だ!
「あっコレ『さいばん』で、アタシにかけたワザじゃない! さっきはコレでひどいめにあったわよ!」
「ぬふふ……あれはこの『トリック』の『ふくせん』だったのよ!」
嫌な記憶が蘇るカラカルと、全然分からんことを言うキリン。
「おえっ……ぱおーん……! きもちわるいぞう……げぼがでちゃいぞ~……」
「よいではないか! セルリアンの野郎にぶっかけちゃって下さい! 浴びせ蹴りだ!」
ゾウが回って回って回って……。バイクを加速させれば、たこ揚げのように、耳に風を受けて飛び上がり……。
キリンが鼻を離して、回りながら空を飛ぶマルミミゾウ。
帯回しフライング・ニール・キック……名付けてコレ、「
「おらァっ死ねッ! この野郎ぉっ!」
私はクロスボウのレバーを引いて、サバンナ固有の植物「カナボウノキ」を装填し……セルリアンの眼球を狙撃する!
二回目の射撃は……触手によってカンタンに防がれる……私の予想通りに!
寄生セルリアンが触手を――つまり自身の本体を動かしている間は……戦車セルリアン――宿主の身体を操ることができないのだ!
「ぱおおおおぉぉーーっっ!!」
一瞬動きを止めたセルリアンの真上に……満月の輝きを背にして……マルミミの、全身全霊を懸けた「飛びかかと落とし」が打ち込まれる……!
岩石に、削岩機を叩き込むかのような衝撃音! ヒットしたのは……
「ギュっぃぃィっ!? ギぃイッ!! グュッぎィィィっ!!」
これでもう、「砲身」に「砲弾」を装填して射撃することはできないな!
ヤツの「遠距離攻撃」を完全に封じた!
「えあアあぁーッ!? アっヴァびゅュエァッ!!」
「よし! アイツはこれでもう『砲弾』を撃てない! かなり安全になりましたっ! 見て! ゾウさんの一撃ですごく弱ってる! ざまあみろバカっ!」
攻撃後に反動で遠くに飛んで行ったマルミミゾウを回収する。
「おえぇ~、わたしもすご~く弱ってるぞう……げぼぼぉっ……」
「そ、
疲労困憊のマルミミゾウの背中をぽんぽんさすりながら……セルリアンの様子を観察する……。
奴は……逃げていく!?……のか!?
低木林の中へと消えていく怪物の赤い巨躯……。まさかあの凶暴なセルリアンが……諦めたとでも言うのか? 追いかけるか……いや、深追いはすべきでないか……。
ぴょこん。
灌木の影から飛び出してくる小さなシルエット!?
……それはハイエナのフレンズ、アードウルフだった。
「わわわ! ハナコさん、何ですかそれ! こわいっ! こっちに向けないで下さいよう~っ!」
「あ、ごめんつい」
私はアードウルフの鼻先につきつけていたボーガンをあわてて下ろす。
「アードウルフさん、頼んだもの持ってきてくれた?」
「はい。こんな感じのもので良かったでしょうか……? 自信ないですけど……」
今時分の乾季サバンナで、夜目と嗅覚の利く夜行性の彼女に、駆け回って持ってきてもらったもの……サバンナアカシアの枝……バオバブの幹の皮……アフリカンチューリップの木の枝……枯れた
「うん、ありがとう! 取り急ぎで簡単に伝えただけなのに、どれもピッタリ。ちょうど私が欲しかったものばかりだよ。すごく助かります」
「ハナコさんの木の説明が上手だったからです……。それにしても、何に使うか分かりませんけど……でも……えへへ……ハナコさんのお役に立てて嬉しいです」
そう照れるアードウルフは耳と尻尾をぴょこぴょこさせて……ああもうかわいいなあ!
「じゃ、アードウルフさん、ここ乗って」
彼女をバイクの乗員に加えて……運転席に座ってもらう。
「お役立ちついでに、と言っちゃナンですが……このバイクを運転して――つまり動かして下さい」
「ええええーっ!? なんでいきなりぃっ!?」
「右のを握れば走るし、左を握れば止まる。首を振った方に走るから。簡単でしょ?」
「ムッ……ムリムリ! わたしじゃ、できないですようっ!」
「あとキリン。このバイク、三人用なんだ。定員オーバー……乗ってる人数多すぎるから、もう限界。あなたはバイク降りて、走って」
「うもももーっ!? なな、なんで私なのようっ!! 私も乗りたいっ!」
こういう判断を下した私に対して、アードウルフは
だって、この
「なな、なんでわたしが『うんてん』するんですかぁ!? ハナコさんがすればいいじゃないですか! うわあぁーん!」
「ご、ごめんね……アードウルフさん、泣かないで……私はホレ、こうやって……明かり用に『松明』を点けて持つから……」
私は民家の仏壇から
「アードウルフさんが運転して……残った私たちは運を天に任せてバイクに乗るわけです……(唐突なヒゲじい発言)」
「うわぁぁん! ごまかさないで! ダジャレで茶化さないで下さい!」
「じゃ、キミがこの松明を持つ?」
「やだ! 火こわい! 『うんてん』もこわい!」
「アードウルフさん……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「うわあああん! ひどい! ハナコさん、だいきらい! わたし『ばいく』おりる!」
優しくて賢いアードルフだけど……怖がりだし、ちょっとわがまま!
「ヨシ、私が『ばいく』を『うんてん』する!」
「いえ……キリンはタッパあって、ガタイ大きくて、胸も無駄にでかいですから、重量的にも降りた方が……まぁ……それに、言いたくないけど……アホの方に運転任せるわけにはちょっと……」
「なんだと!! 名探偵をあほ呼ばわりしたな!! ……うもおおーっ!!」
「もう! すぐ泣かないでよ! あなたは意味も無くでかいその胸を揺らして、走れってりゃあいいでしょ!」
「うももももーーっ!」
キリンめ~、そうやってすぐ泣くのはずるいぞ!
ちょっと……背が高くて、おっぱいがでかくてスタイル良くて、まつ毛も長くて、金髪碧眼で、髪はクルクル縦ロールしてて……黙ってれば
ああもうチクショウ! 私が持ってないものを持ってやがる! 小さめの脳みそ以外は
じょ、女性差別だぞ! 訴えてやる! ……あ、裁判で訴えられてるのは私だった……。
……くそ、混乱してきた。こっちが涙出る! 落ち着け私……。
「もう……お願いだから、ふたりとも言うこと聞いてよ! これが適材適所なんですっ!」
「いや、ハナコ……アンタまで泣かないでよ。アンタ頭はいいけど、ちょっと頑固だし、頼み方が強引だから……」
「カラカルまでそんなことを言う! そうやっていつも、安全な所から上から目線で好きな事ばっか言って!」
「ぐっ……否定はしないけどね……もうすこし言い方ってのが! ふんっ……どこがイヤって、そういうところよ! アンタ!」
ああもう……すっちゃかめっちゃか、カオスなけんか……。バーバリーもクロアシもマルミミも呆れているし……。
これも、満月による精神への影響か?
……いや、分かってるよ。疲労や空腹、睡眠不足でイライラして、言い方にトゲがある私が全部悪い……。くそ、自分の性格も要領の悪さもイヤになる……。
……いつまでも仲間割れと自己嫌悪してても仕方がない。
はやくみんなに謝って、バイクで追いかけないと!
このままではセルリアンが遠くに行って追跡不能になってしまう……!
と思っていたが……幸か不幸か、そんなことは無かった。
走行音と草木が潰れる音がして……セルリアンは
あっ……!
「!! いっ……いやああぁーっ……!」アードウルフが悲痛な叫びを上げる。
「イヤ……もう……やめてよ……」
「どうして……こんな……ひどいことするの……!」
カラカルもキリンも、目前の信じがたい光景に言葉を失う……。
キリンもゾウも凍り付いた。
他のフレンズも一瞬にして氷になった。
サバンナの夜の冷たさのせいではない。「フレンズの本能」を理解した
我々の前に、森からセルリアンは帰ってきた。
それは満月の影響下の狂気の行動か……あるいは究極の合理的習性か……。
頭に触手の先端を打ち込まれ、自由を奪われた……ゾウの子供を人質にして……。
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