第11話 ライオンハート▲
針で刺したら血が出るし、くすぐられたら笑うし、毒を盛られたら死ぬ。
そして非道い事をされたら……復讐するってわけだ。
――W.シェイクスピア『ヴェニスの商人』
ガン……ガン……ガン……。
「な、何をやってるんですか……? あ、それは、私があげた『黒いぴかぴか石』ですね」
鉄パイプと鉄板で「何か」を打ち付ける私を
「そうですよ。あなたを助けたときに、お礼にもらったやつです」
「こわしちゃうのです?」
「うーん、ごめんなさい。こんな立派なもの、確かにもったいないけど……でも、こうすれば武器になるから。これが一番いい使い方だと思うんです……」
「え? それ、かざりもの以外の使い道があるのです? 私にも作るところ見せてください」
「『黒いぴかぴか石』はね、『黒曜石』とも言うんだけれど……こうやって固い物で叩けば……ほら、鋭い刃物になる……昔のヒトの使った武器だよ」
即席で加工した「
本来は「
黒曜石はマグマが地表近くで冷えて固まった「火山岩」の一種で、「流紋岩」に分類される。水中で急速に冷却されてできる、ガラスに似た性質の岩石だ。硬度5という鉄と大差ない数値を持ち、石器時代のころから刃物に加工されてきた。鉄器の無かった中南米の文明では、大航海時代の到来まで使用された。現代でも手術用メスとして使われることがある。
ナイフ製作時に出た副産物の「細かい黒曜石の破片」についても、私はとある使い道を考えている。
「『はもの』……って、ライオンさんやワニさんのキバの大きなの、みたいですね。ヒトはそうやって自分で武器を作っちゃうのです? ふえー……すごーい、ですねえ……」
「これがみんなの助けになると良いんだけれど……」
「『はもの』も良いけどさ……あのセルリアンのことはどーするのよ? みんなでパッカーンしたいのはヤマヤマだけど……あんなヤツと、どうやって戦えばいいのかしら……?」とカラカルが疑問を口にする。
「それについては、私に考えがあります……。この辺に、岩がたくさんある場所がないでしょうか? 『コピエ』って言うのかな、サバンナにあるっていう岩場……。さらに、できればセルリアンがぎりぎり入れるぐらいの、狭い谷のようになっている所……」私は彼女に地理情報を確認する。
「あら、サバンナのことよく知ってるのね。この近くにも『やばけい谷』って岩場があるわよ。ハイラックスのやつが詳しいけどね」
「みんなでそこにセルリアンを誘い込んで、上から木とか岩とかを落とせればいいんですけど……」
「おっ、なるほど! セルリアン『とじこめいわおとし』作戦ね!」
……カラカルのネーミングセンスはともかく、この「落石の計」は安全重視の作戦だ。まわりが切り立った崖になった地形の上部で待ち構え、何らかの手段で谷底にセルリアンを誘い込み、落石で攻撃する……。高所に陣取るコチラは、距離が近すぎて、かつ位置が高すぎるため「砲撃」の射程外となる。そして私たちは重量物などを落として、眼下の相手を一方的に攻撃できる。
重力加速度によって加速した落石の力学的エネルギーというのは凄まじく、数cmの石でも、斜面を転がって加速したものが頭部や身体に直撃すれば、人間でも即死させるほどの威力がある。登山やキャンプなどでは、ちょっとした小石の落石事故でも危険性は高いそうだ。
キリンなど、元が大型動物のフレンズの腕力は凄まじいようだから、かなり重い岩でも落とせる……その破壊力は計り知れない。
そして戦車は上面の装甲が薄いというのは、戦争映画か何かで知った知識……。そこまで、あの戦車型のセルリアンが模倣してくれているかどうかは不明だが、真正面からカチ合うよりかは勝機はあるし、なによりフレンズたちが安全だ。
背中の大きな「眼球」や、そこに取りついた「寄生体」に岩を落とせれば大きなダメージになるだろうし……たとえ致命傷を与えられなくても、地形と落石で無力化できれば、放置して衰弱死させることもできる。
「カ、カンペキな作戦じゃないですかっ……! く、くやしいっ……でもっ……まいりました! 『サバンナせんせい』の座は、あなたにおゆずりしましょう、ハナコせんせい……」
「山のことにくわしいわね~、ハナコ……。ハッ! あなた、やっぱりヤギでは……? で、でも、ちょっと頭はいいかもしれないけど、『めいたんてい』の座は渡さないんだからねっ!」
作戦内容をみんなに説明すると、ヘビクイワシはひどく落ち込み、なぜかキリンは妙に張り合っている。
「……『先生』も『名探偵』もいらないですけど……。いえ、それよりこの作戦、はたして上手くいくかどうか……実際の地形を見てみないと何とも言えないし……そもそも一番大きな問題は、あの頭の良いセルリアンを上手くワナに誘い込めるかどうか……それに、アイツは他にもワザを隠しているような……。動物たちを、ああやってバラバラにした攻撃といい――」
「!! うぷっ……! おええぇっ……!」
野生動物たちの虐殺の話題に入った途端、吐き戻してしまったフレンズがいた。グレビーシマウマだ。
スプリングボックやインパラ……他の幾人かいる草食獣フレンズも、蒼ざめた顔色をしている……。
「ご、ごめんなさいです……ハナコさん……話をさえぎっちゃって……」
少しして気分が落ち着いてから、口元を押さえて苦しそうな顔で謝罪するグレビーシマウマ。無理して私に向かってにこにこと笑顔を作ってみせるが、目元から流れた涙の跡が見えて……その痛々しい表情が塩をかけられたナメクジのように、私の心にすりこまれて、染みるように痛い……。
「こちらの方こそ……ごめんなさい……気が利かなくて……。アイツにやられた動物は、たとえフレンズじゃなくても、あなたたちの仲間だものね……」
私はそう謝りながら、口をすすぐために、彼女の身につけている水筒やペットボトルを取って、栓を回して抜く。
その時触れた彼女の手が忘れられない。ボトルをしっかり握れないほどに、絶え間なく震えていた……。
「……おぉ~」
だがその表情は瞬時に……キョトンとした顔に変わった。
……何をそんなに驚いているのか?
「今まで何だか分かんなかったんですケド……水が入ってたんですねぇ……コレ」
「ホントだ! 私のコレも『バオバブの木』や『たびびとの木』みたいに、水がたまってるよ!」
グレビーと、同様に水筒やペットボトルを身につけているグラントガゼルは、その事実を発見して驚愕している! ……アンタら、
……レイヨウたちが静かな声で語り始める。
「死んじゃった子たちは、子供だったり、年寄りだったり、病気だったりした子たち……。そういう、弱い子から順番に死んでいくのは、しょうがないことだけど……だけど……」
「
「セルリアンは、サンドスターしか
インパラ、スプリングボック、セーブルアンテロープたち……これ以上の「犠牲獣」を出してならないと、固く決意してくれたレイヨウのフレンズたち……。
だけれど、軽やかに跳躍できるはずの健康的な太い脚も、そのツノを模した
動物たちを惨憺たる方法で虐殺したのが、こうやって我々の士気を下げる目的ならば、そいつは大成功だったと、セルリアンを手放しで褒めてやっていいだろう……。
「……時間も無いからハッキリ言う。
私が思っていたのと同じことを、バーバリライオンが言う。
レイヨウ達は皆うつむいて黙り込んで、反対しない。
ライオンたち肉食獣を人間の「軍人」や「武術家」に例えるならば、レイヨウ達は「スポーツ選手」にあたると言える――彼女たちは、身体能力は高いといっても、自分より大きい外敵に積極的に立ち向かえるほどの本能は持ち合わせていないのだろう……。
「この戦いは、私たち
「え、キリンは小鳥とかも食べるのよ?」そうなの……初めて知った……。
「そうだよ~。こういう血
クロアシネコが、文字通り目を輝かせている。のんびりした口調とは裏腹に、小さな彼女の可愛い顔は、容赦ない残酷さに満ち溢れた表情をしている。口を開いて牙をむいた笑顔は、野生の攻撃性の現れだ。
「そーだそーだ! アタシの『こぶらついすと』でやっつけてやるぜ!」
「私だって『ワニのついすと』をかけてやるよ!」
いきりたつアフリカニシキヘビとナイルワニ。でもプロレスじゃねえんだぞ、キミたち……。私の話、聞いてた? 作戦中に
「あんな攻撃ぃ! オレのこの赤マントで防ぐぜ!」
「私だって! この『しっぽれしーぶ』で、はねかえしてやるぅっ!」
ラーテルとカモノハシも無茶な発言をしている……。だからあんたら、私の話聞いてよ……真正面から砲弾を受けようとするのやめて……。
「いや……
「はい……」
「……この
「でも……ご存知のとおり、たいへん危険な相手です。お願いですから、無茶をしないで……」
一呼吸おいてから、バーバリライオンは私に語りかける。
「これは我のカンなのだが……お主もヒトのオスの習性を受け継いだフレンズであろう。そのお主なら、命に代えても仲間を守りたい我の気持ち……分かるのではないか?」
「……」
……私がヒトの男性から生まれたフレンズ……だって……!?
バーバリライオンの勘――それは経験と観察と、本能によって裏打ちされた洞察力、と言っても良い。
……まあ今は「私の事」は置いておこう。セルリアンを倒すことが先決だ……。
作戦開始だ。
それは私の「人間の証明」でもあり、フレンズの「群れとしての強さ」の証明でもある。
星空から落とされて地平線に刺さった「南十字星」……大地の十字架は、我々にとっては勝利の女神の加護であり、
看板の足場から飛び降りて、各々の役割に応じて移動を開始するフレンズ達。安全な場所へ避難する「戦えないフレンズ」、岩場の「罠」の敷設を行うフレンズ、そしてセルリアンに対応するフレンズ……。
「散れ! 一か所に固まるな! 奴の『とびどうぐ』には気をつけろ!
「りょうかーい!」
「うにゃにゃーっ!」
一気に距離を詰めるネコ科フレンズたち。接近に気が付いたセルリアンも「榴弾砲」の洗礼で迎え撃つが、野生の猫フレンズの反射神経と敏捷性ならば、砲身の向きからあらかじめ弾道を予想して回避することは容易であった。
立案した計画で、もっとも重要かつ危険となる役割……「囮役」を引き受けるのは、バーバリライオン・カラカル・クロアシネコの三人。
ネコ科動物は、優れた筋力と瞬発力、機動性、柔軟性を持ち……
彼女らはサイズこそ違えど、みな野生のネコゆえの高い基礎身体能力を有している。お互いに言外の理解力ともいうべきコミュニケーション能力を見せて、それぞれの動きを協調させることで抜群の連携を取り、動きが直線的で固い大型セルリアンを翻弄する。
まるで高速で射出されるパチンコ玉のように、縦横無尽にサバンナというピンボール台を動きまわる……。さらに磁石で鉄球を操るかのように、方向のベクトルを流動的に急変させることが可能な、野生ネコ特有の制動性……。
奇跡の物質「サンドスター」の玉虫色の構造色の輝きが、ジェット機の描く飛行機雲のように、彼女らの動いた後に、七色の粒子の残像となって網膜に残される。私の視覚の分解能では、猫達の虹色の軌跡を目で追うだけで精一杯……野生の本能のままに熱帯草原を舞う彼女たちは、まるで映像の早送りのように動いて、私の視神経の間をすり抜けていってしまう……。
援護が必要な時に備えて、すこし離れた距離でで待機する私たち――キリン、ゾウ(マルミミゾウという種類らしい)、そして私――は、その戦いの様子を固唾を飲んで見守る。セルリアンはネコ達で手いっぱいで我々まで捕捉する余裕が無いようだが……それでも油断はできない。
「おっお~う……あれがバーバリの本気の動きか~……やっぱりネコの子の『うんどーしんけー』はすごいですね~」マルミミゾウが、小さく驚嘆の声を上げる。
「ねむれるシシは……能あるぅ、我が子の……トンビが隠す……タカノツメを落とす!」
キリンの言ってるコトワザらしき発言は……毎度のことだが……全然わからん……。
「うみゃっみゃっ!」
「ぎぃにゃああぁーっ!」
セルリアンは、カメの頭とキリンの長い首をくっつけたような「砲身」を柔軟に振り回すが、縦横の方向に自在に跳んで攪乱するカラカルとクロアシネコのスピードに、対応することができない。
「やっるうッ! あののろまセルリアン! 全然みんなの動きに追いつけないじゃない! 名探偵じゃなくても推理できるわ……このまま倒せるっ!」
「いや……たとえライオンの爪でも……あのセルリアンの『殻』には傷が与えられない……」
「え? そ、そういえばそうね……」
装甲車セルリアンの外殻が固すぎて、ライオンの爪や牙をもってしても貫けない……。多足類のように、多くの歩脚が集合した脚部も、殻である程度保護されていて、狙うには位置が低すぎる……。
仮に倒そうと思っても、致命傷を与える
さらに言えば、ネコ科フレンズ達は
背中の「眼球」さえ攻撃できればいいのだが……位置が高すぎるし、寄生しているセルリアンの触手が防御している……。
あの超スピードの動きを続けるネコ科フレンズは、だいぶエンジンが熱くなってきて……動きが鈍くなってきている……。このまま、「落石の罠」を張ったコピエ――『やばけい谷』まで誘い込むのに、彼女らのスタミナが持つだろうか……。
私は、脳をフル回転で策を巡らせる一方、手のほうでは全く別の作業を行っていた……。
「あら、また何か武器を作ってるの……ハナコ……。うぁ……あなた……! 動物たちだったモノを……!」
私の製作物を見て言葉に詰まるキリン。
そう……私が今加工しているのは……セルリアンが落としていった動物の死骸。シマウマの毛皮やレイヨウのツノ……彼らのコラーゲンによる弾力性の強い脚の腱……それらを黒曜石のナイフで丸く切り裂いた革ひもで結び付けて……石や骨や木の枝を撃ち出せる
「ヒトのことを……いや私のことを『ひどいやつ』だって思うでしょ……でも、もうサバンナを走れないこの子の身体を借りて……かたきを取ってあげたい!」
「……もうそれはただのものだけど……でもきっと、動物たちがハナコに力を貸してくれるわよ! この子たちの無念を晴らしましょう!」
ネコ科フレンズとセルリアンの死闘は続いた。
先にしびれを切らしたのは……セルリアンのほうだった。
牽制の砲撃だ! 猫達は瞬時に耳を塞いで聴覚を保護する。耳をつんざく轟音とともに発射される「散弾」は……ワイヤー状のエネルギーで連結されている。射程は短いが鋭い切断力で、直撃した岩や木がチーズを切るようにスライスされる……。あれが、動物たちの遺骸を切り裂くように損壊した砲弾か……? あれを草食動物の群れに打ち込めば、瞬時に何体もの死骸ができるだろう……。
……しかし、その凶悪な破壊力も当たらなければ意味が無い。距離が近すぎて有効な砲撃にはならなかった。
砲撃の直後に、カメのように「首」を体内に引っ込めるセルリアン。発射の反作用による
だが今回は目標が近すぎて、砲身の角度を下げて発射したために……砲撃の反動が上に来てしまっている。「引っ込め」機構でも十分に反動を逃がせず、後部を支点としてセルリアンの大きな身体が少し浮いてしまうほどだった。
「っ……!! ぐゥるるぁああぁアッッ……!!」
「獅子
雄獅子の大地裂けんばかりの咆哮……。
バーバリライオンは、怪物のその一瞬の隙を見逃さなかった。
今まで回避中の滑り止めのために五本指に分散していた「サンドスターの爪」を、中指に収束し、長く分厚く先端の重い一本の爪に変化させて、重心が上がったセルリアンが晒した多脚類のような腹部の脚を切り裂く。
黒い
「すっごーいっ! キメるとこキメるわねぇっ! さすがバーバリー!」
「あいつ『けものぷらずむ』の形を変えられるだけあるにゃ!」
「『野生開放』がもう持たないッ! ハナコっ、予定外だがここで決めさせてもらうッ!」
「はいっ!」
「カラカル! クロアシ! 『首』と『尻』を頼む!
「みんみ! 一気に畳みかけるわよっ!」
「うにゃん! 『けいどうみゃく』をかみちぎってやるのね!」
セルリアンが前のめりに体勢を崩して背面の「眼球」を無防備に晒したのを、千載一遇の
一気呵成に止めを刺すつもりだ!
「うにゃあああぁっッ!」
「にゃっぎゃぁぁーっ!!」
体中の毛を逆立てて、全身を振り回してセルリアンの後足を爪で打ち払い、立ち上がりを妨害するカラカル。
キリンの首のような長い砲身に噛みつき、「喉笛」を喰い破かんばかりに牙と爪を突き立てて、振り回されながらも、攻撃を止めないクロアシネコ。
彼女たちの援護を受けてバーバリーが跳躍し……ヤドリギのような寄生セルリアンが支配する「目玉」を狙う!
五指に具現化された、光の粒子を放つ「虹色の爪」が振り下ろされるが……!
「ぐっ……」
ダメか……眼球に取りついた寄生体の触手が、すんでのところで彼女の攻撃を巻き取って受け止めた……そのまま触手をすばやく彼女の身体に絡みつける!
あの寄生セルリアンはたいした力は無いようだから、バーバリライオンの腕力なら簡単に抜け出せ……いや、ダメだ!
あの触手による手首の拘束の仕方は……「
さらには「
そして首を圧迫し片腕を封じるあの絞め方は……柔道の「
ヒトではありえない複合
本能か? 学習か? あるいはそれ以外か? このセルリアンは
脱出は絶対に不可能っ……ヒトならばの話だが……!
「ぐぅあぁるるっああぁーっ!!」
バーバリーは固められた両手のサンドスターの爪を伸ばして……自分の腕や体を傷つけながら、強引に触手を切り裂いて、関節が極まっていない脚を思い切り振り回し、その勢いで拘束を離脱する!
そう、フレンズもまたヒトではないのだっ! これが「フレンズの技」だ!
「『かえすかたな』だ! その眼で最後に見るのは、我の奥の手……いや奥の尻尾!」
バーバリーは、なんとサンドスターで尻尾の先にトゲを生やし……脱出の反動で下半身を捻ってジャンプしながら、鋭い尻尾の突きでセルリアンの眼球を貫いた! 初めて知ったんだが……ライオンの尻尾にはトゲがあるの!? マジかよ!?
「ぐっキュルるゥゥア゛あ゛うア゛あうっ!! う゛ゅビャっシャャああッ゛ッ゛……!!」
瞳を刺し突かれたセルリアンが苦悶の雄たけびを上げる!
苦痛にあえずセルリアンは外側の「走行用の付属肢」を体内に格納すると、内側の脚を体外に露出させ――甲殻類では
「うわあっ!」
「ぎにゃっ!」
セルリアンの後ろ側にいたカラカルと、砲塔に食らいついていたクロアシネコ、そして背中に乗ったバーバリライオンも、回転の遠心力により地面に跳ね飛ばされ……身体を捻りながら、地面にすとんと綺麗に着地する。
「おぉ~! 効いてるにゃ!! セルリアン、苦しんでるのよ!!」
「やったのかしら……!?」
「ハァハァ……いや、あれでは浅い……」
苦しむセルリアンは、眼球の触手を広範囲に展開させ……反撃!! 触手が一斉に地面に突き立てられ、肉を貫く音があたりに響く!!
だが触手は……周辺に落ちている動物の死骸に突き刺さっただけだ!!
「外れだ!」
「止まって見えるにゃっ!」
「スッとろいわよっ!」
ジャンプで回避し、動物の死骸から滴り落ちて辺り一面にある血溜まりに、水音を響かせて着地するフレンズたち。
触手の攻撃速度が遅すぎるし威力が低すぎる! 疲れ切っているとはいえ、ネコ科フレンズの反応性と瞬発力の敵ではない!
……だが、なぜこんな……隙だらけの、意味の無い攻撃を……? やはり、予想外の攻撃を受けて焦ったから……?
その時私は、触手がぱちぱちと一瞬だけ火花を上げるのを見た……寄生セルリアン……脳……神経……!! 私は彼女たちに突進しながら、力いっぱい叫んだ。
「危ないっ! 血溜りから離れてぇッ! 早くっ!」
「……?」
私の言っている意味が理解できず、反応が遅れるネコ科フレンズ……。直後、触手から放たれ、血溜まりを
「うにゃああぁーーっ!!」
わけもわからず感電するフレンズたち!
「みんなぁッ逃げてッ! 死んじゃうっ!」
畜生ッ! あいつもこんな奥の
……行動の支配、神経への寄生とは……すなわち神経組織の電気信号を掌握するに他ならない! 殺した動物たちも、この奇襲のための布石か!! クソったれ!!
高電圧の漏電攻撃はやがて収まったが……蒸発した水分、電気分解される気体、巻き散る血しぶき……それらの混合物で辺り一面に「血煙」が巻き起こされる……その「赤い煙幕」に巨体を隠し、態勢の立て直しを図るつもりか! 戦車の
濃い紫色の……水上の煙……! 視界が遮られて何も見えない! 状況が把握できない! キリンとゾウはどこだ! バーバリー! クロアシ! ……カラカル!
がりがりがり……セルリアンのキャタピラのような脚の動く音が聞こえる……!
「みんな早く逃げてぇぇっ! 轢き殺されちゃうよおっ!」
私は煙の中を走り、泣きながら大声で叫んだ。フレンズの返事は無い……。
カラカル達は、やはりさっきの電撃をまともに受けて、動けないに違いない……!
やがて……大きな衝突音が響き……セルリアンの走行音が止んだ……。
私の思考は車に轢かれた猫の想像でいっぱいで……声も出なくなる……。何かこみ上げてくるものが喉で詰まって、窒息しそうだ。
永遠とも思える沈黙の間、ただ涙だけがとめどなく流れ続けた……。
やがて、煙が晴れると……そこには私の想像とは全く違う光景が広がっていた。
「キリンっ! ゾウっ!」
ネコ科フレンズ達が引き潰される直前……すんでのところで戦車セルリアンの突進を受け止めるキリンとマルミミゾウ!!
持ち前の怪力でセルリアンの巨体を食い止め、持ち上げられた車体下部の脚が空転している! ダンゴムシのような脚が、空中でむなしくもがくばかりだ!
「うも~ぅ……ぐふふふ、名探偵の『ばりつ』の出番は残っているようねぇ……!」
「ひさしぶりに……『ひとあばれ』させてもらいますかぁ~……!」
ふ、ふたりとも……笑顔だけど、目は笑ってないよ……マジで
怖いよ……怖いんだけど……頼れるゥ!
機甲セルリアン・寄生セルリアンコンビvsキリン・ゾウのどうぶつえんのにんきもの『あふりかこんび』の夢の対戦カード! 文字通りの異種格闘技戦!
キリンさんが好きです。
でもゾウさんのほうがもっと好きです。
逆襲だ!
今、変則タッグマッチのゴングがサバンナ・リング鳴り響く!
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