??-?? 姫、頑張る
御主人様のご自宅を、辛うじて覚えてる程度の記憶で探します。
こんな時。ギアの記憶回路が懐かしく思えてしまいます。
あのメモリーチップが脳内にあれば、私の目覚めてからの行動も変わっていたかもしれません。
あの、御主人様で埋め尽くされたメモリーチップが酷く懐かしく。ないことに悔しく思います。
いえいえ。
メモリーチップがなくとも。『生』御主人様がこれから傍にいてくれればそれでいいのです。私は奥様なんですから。
ふ……ふふふ……っ
ですが。
御主人様の御自宅で探しても見付かることはなく。
それはそうです。
あの家は、御主人様名義の御自宅ではないのです。
なぜなら、あちらの世界で御主人様の御自宅となっていた、あの家の元々の所有者と名義は『
そこから、場所を割り当てました。
この苦労のなか。
御主人様にとっての朗報もありました。
誉めてほしいくらいです。いえ。誉めてもらいますよ、御主人様。ふふふっ。
とはいえ、裏世界を――身分証明書で得た知識がなければ辿り着けなかったかもしれません。
表でも有数の財閥。
その研究機関の関連施設に、御父様の名前があったのです。
どうやら、私の産まれたあの場所も関係しているようですが、裏世界の禁忌に触れるようで、それ以上は調べられませんでした。
ですが、住所だけは調べることは出来ました。
身分証明書のおかげですね。
間もなく、御主人様に会える。
そう思うと、不思議と溢れる力で一瞬で辿り着いてしまいました。
ですが、そこは。
何もない、空き地でした。
「御主人様の家が……ない……?」
私は、思い出しました。
……そうです!
御主人様の家は……許可がないと見えないのですっ!
以前の私なら見えたでしょう。
でも、今の私は、生まれ変わったようなものです。
だから、私には……御主人様の家が、見えない……?
あまりのショックに、私の心は絶望しました。
御主人様に会いたいのに、会えない。
許可がないから、見えない。
御主人様にいの一番に会いたい私なのに、別の手段をとるしかありませんでした。
だけど、その手段は御主人様を独り占めできなくなるのです。
だから、私は……この体から迸る御主人様への想いのおとしどころが分からなくなりました。
「御主人様に会うには家に入る必要がある。家には御主人様の許可がないと入れない。では、御主人様の許可を得るには? 外に出てきた所を捕まえて拉致して……愛でる? いえ。それもいいですが、もっと早く入るには――あっ」
頭の上に、豆電球が灯りました。
名案を思い付きます。
この辺りに御主人様の知り合いがいればいいのです。
御主人様の家の許可を頂いている友人。
この世界の
……なんということでしょう。
私は、この時のために裏世界の任務で捕縛能力の腕を磨いてきたのではないかと思えるほどに、裏世界に感謝しました。
急がなくては。
一気に町を走り回ります。
身分証明書の情報収集能力を駆使し、近場に自宅があることをすぐに突き止めました。
後は、拉致して御主人様の家へ連れていくだけです。
にやりと、間もなく御主人様に会えると思うと顔がにやけてしまうのがよく分かります。
だけど。
その私の野望は脆くも崩れました。
「七巳、様?」
やっと出会えた七巳様は、隣に同年代ほどの女性と共に、すでに事切れており。
少し離れたところで、体内から金属製の刃を覗かせた男性と、近くで倒れる男性がいました。
トドメとばかりに、ころころと、丸い物体が転がっていきます。
その見知った男性にトドメをさした男性を見た時。
私は直感的に、自身が死ぬことを感じてしまい、すぐさま逃げ出しました。
御主人様と会う前に死ぬわけにはまいりませんので、必死に離れます。
「あれは……七巳様と、夜月様……」
目の前で夜月様――恐らく御主人様のこの世界の親友であろう
そして、あの男性は……。
あの、男性が体全体から放つ紫の光は、人が出せるものではないはず。
私は、あの光を知っております。
「……ノア……?」
まさか。
ノアが、私と同じように人へ生まれ変わっている?
そう思った時。
皆さんが殺害された方角から、『力』が溢れだしたことを感じました。
白い。
白い光が立ち上ぼり、そして消えました。
あの光は記憶にあります。
守護の光です。
我にかえり、逃げてしまったことを恥ながら、すぐさま走ります。
戻った先には、四人と殺人者の姿はなく。
「ぁ……ぁぁあ……」
代わりにあるのは――
空き地だった場所にある、『家』。
見える。
見えたのです。
私はすぐに家の玄関ドアを開けようとします。
かちゃりと、鍵がかかっていないことを確認すると一気に内部へと駆け込みます。
鍵がかかっていたとしても、そんなの関係ありません。
壊せばいいだけですから。
玄関入ってすぐ正面の半回りだけの螺旋階段を登り、二階へ。
二階に上がってすぐの部屋へ。
「御主人様っ!」
扉を開けて叫ぶように。
私は確信しておりました。
そこに、私が思い求める方がいる。
「……え? ひ……姫……?」
ああ……ぁあ……あぁぁ……
御主人様エキスがどんどんと補給されていきます。
「御主人様……お会いし――」
と。
そこにいたのは、もう一人。
裸の夜月様です。
「……」
いえ、違います。
この方は、先程私の前でお亡くなりになっていた、御月――神夜様ですね。
で。
この人はなぜ裸で御主人様の部屋に?
まさか、御主人様も?
だとしたら、御主人様は――
「…… ぁ゛あ゛ ? 」
あら、はしたない。
とりあえず。
この愚か者を処分してから御主人様とめくるめくる愛の旅路へと参りましょうか。
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