くるくるっ!シャイニエル
唐沢 由揚
第1話『ぱんぱかっ!魔法少女誕生』
生まれつき、下半身に神経が通っていない。
パパとママがお医者さんに言われたことは、深く残酷なものだっただろう。
神さまは、きっといない。いたとしても、神さまは人をもてあそぶのが好きらしい。
人生のほとんどは病院で過ごしてる。小学校には、ほとんど通ってない。きっとクラスメートの半分は、わたしの顔を知らない。
きっと『普通の子』とは違う人生を送ってるかもしれない。
でもね、怖くはないよ。病院のおばあちゃんから手芸や折り紙を教わるのも楽しいし、講師の先生から手話を習ったら、耳の聞こえない子とお話ができるし!
だからつまらないなんてこともないし、毎日新しい発見の連続なんだっ!
ガラガラ、と病室のスライドドアが開く音。
「
あっ、ママの声だ!
「ママ!」
「今日もいい子にしてたのね、さすが小昼だわ。
そうそう、あなたが作ったあみぐるみ、保育園の子に見せたら「かわいい!」って喜んでたわ!」
「本当!?」
あみぐるみ教室でうさぎさんを作ってからハマっちゃって、ママにあみぐるみキットをお願いしてたくさん作ったの!
喜んでくれる人がいて嬉しいなあ……!
ママは保育士さん。わたしの作ったあみぐるみや折り紙を保育園の子どもたちに見せてくれるんだ!
「あなたは本当に天才よ、才能にあふれてるわ……!
これからも欲しいものがあったらなんでも言ってね。ママ、あなたのやりたいことにはなんでも賛成するから」
「うんっ、ありがとうママ!」
えへへ、ママにハグされて褒めるとすごい幸せ。
歩けなくてもできることがあるって思うと、すごく前向きになれるよ!
ママは保育園の仕事の帰りに毎日来てくれる。その日にあったことを話すととっても共感してくれる、大好きなママ!
……でもね、ママには唯一言えないことがあるんだ。
「今日は夕方からリハビリなんだってね、がんばってね小昼!」
「うんっ、がんばってくる!」
もうすぐ看護師さんが来る時間だ。ママに手伝ってもらいながら車椅子に乗る。
「最近リハビリの時間になるとワクワクしてるわよね」
「えっ!? えへへ、そうかな……」
な、なんかママに話すのは恥ずかしいから話してないんだけど。
そうなの、今リハビリの時間が一番の楽しみなんだ!
だってね……えへへ、やっぱりママには内緒!
「小昼ちゃん、こんにちは」
「こんにちは、
「今日は握力を鍛えるトレーニングをしようか。小昼ちゃんならいつも頑張ってるから、今日もできるよ」
「はいっ、今日もがんばります!」
毎日することはトレーニング。筋肉が衰えないように、足だけでなく、腕とかの筋肉もつけるようにしてる。リハビリとかをする上でも必要なものだから。
そして、それを手伝ってくれるのは理学療法士さん。病院の都合だからか知らないけど、3ヶ月おきに担当の人が変わるらしい。
あっ、紹介が遅れました。わたしの名前は
生まれた時は、人よりすごく小さくて体重が軽かったから、小さな檻みたいなところにずっといたんだって。
そして生まれて11年。結局、この足で歩けた試しはない。両手を手すりにつかんでも、足を前に出そうとしても、下半身が存在している感覚というものがないから、立ち上がることすらかなわない。
けどね、車椅子の生活も悪くないよ。膝に荷物をのせられるし、病院のおばあちゃんたちがそこにお菓子をのせてくれる。病院にいれば、手話の教室に通って、耳の聞こえない人でもコミュニケーションが取れるし、おばあちゃんたちから色んな遊びを教えてもらったりできるし……命って、儚いものなんだなって何度も学べる。
だからね、会う人にはみんな、大事な人として接しようって思えるんだ。
それに……今、わたしのトレーニングを手伝ってくれるお兄さん、
同じ病室のお姉さんが、「それは恋だよ!」ってハッキリと言ったときは、すっごく、すっごく、ビックリしちゃった。わたしでも、恋するんだ! これが恋なんだ! って。
お姉さんの言う通り、まずは彼女がいるかを聞いてみたの。春生さんはちょっと照れくさそうに、「恥ずかしながら、まだいないんだ」って答えた。これってつまり!
「脈アリだよ小昼っち!!」
って、お姉さんすごく喜んでた。
……けど。次の日に、こう質問してみたら。
「あのっ、じゃあ、好きなタイプは……」
「好きなタイプかあ……いつも笑顔で、隣を歩いてくれる素敵な女性……とかかな?」
……隣を、歩いてくれる……
わたしには、歩く足がない。
気合いとか根性とかで治せるほど、わたしの足の頑固さは変わらないままだ。根性論が通じれば、わたしは病院に通う必要も、理学療法士さんとリハビリをする必要もない。
わたし、毎日頑張ってるよ。頑張って、みんなとかけっこしたいよ。鬼ごっことか、なわとびとかしたい。春生さんも、わたしが頑張ってるのを知ってるから、「頑張ろう」って一度も言ってない。
……わたし、頑張るよ。春生さんのために。きっと、あと1ヶ月したら、春生さんは別の人を担当して、わたしの元から離れちゃうと思うけど。
その時まで……春生さんの、隣で歩けるようになってみせる!
病室のお姉さんが、元気のおまじないにって、かわいい髪飾りをくれて、三つ編みを結ってくれたんだ。お姉さん、美容師やってたからすっごくキレイにまとめてくれたの。
だから、今日こそリハビリで春生さんを喜ばせることができるはず。
そしたらもっと、わたしのこと見てくれるよね……!
よーっし! 今日も張り切っちゃうぞ!!
前に隣のベッドにいた難しい病気のお姉さんが元気になって退院できたんだから、きっとわたしだって歩けるようになるよ!
「あの男……使えるな」
「ダメなのですっ、絶対に人を利用させないのですっ!」
「黙れ、豆粒が。貴様に何ができる?」
「あなたのような悪逆非道のゲス野郎に手出しはさせないのですっ、だから……!
わっ! ちょ、魔法出す前に攻撃なんて卑怯です! この極悪人!」
「私に言えるのはその程度か。所詮魔法天界の者が、私たち魔法地底界に勝てるはずもない……
さあ哀れな者よ……この人間界を、『
「や、やめてー!」
「ぐっ……!」
突然、春生さんがうめき声を出して膝をついた。
えっ、どうしたの?
「春生さん!?」
「からだが……」
「うそっ、えっと、先生……!」
心臓を押さえながら眉間にシワを寄せて苦しみだす。
ナースコールなんてベッドにしかない。
先生を呼び出す手段は……私が車椅子に乗って助けを呼ぶしかない。
けど今の私は両手で手すりにつかまるのが限界で、離してしまえば私も立ち上がれなくなる。足を引きずって車椅子にたどり着くこともできるけど……その車椅子は入り口近くに畳まれてる。これって自力で
「あああっ!」
春生さんが雄叫びを上げるようにさけぶ。彼の体には、真っ黒な雲のようなものがまとわりついている。
なにあれっ、病気の症状にこんなのあった!?
春生さんの異常でパニクっていると、さらに驚きなことが続いた。
「わーーーっ!」
パリン、と何かが割れた音、そして、ポヨン、とバウンドしたような音。
ま、窓から何か入ってきたー!?
「な、なに!?」
「いったた……あのワック野郎、ついにわたしを投げましたか……! もーっなんで魔法地底界人なのに空中に浮かんでるのですかーっ!」
「人形が喋った!?」
外に向かってぷりぷりと怒ってるのは、おままごとの人形のような、私の手のひらに乗りそうなサイズの、飾りだけが派手な真っ白なロリータワンピースに、小さな白い翼を広げ、頭に輪っかを浮かべた……天使。
て、天使!? うそっ、見間違いじゃないよね!?
「ぎゃっ……! 人間に見られたのですっ!
あーっしかもマミルの野郎、コイツを魔法地底界に引きずり込もうとしてますね!?」
コイツ、と呼んだ目先には、わたし……じゃなくて、春生さんがいる。
「ねえ、春生さん一体どうなってるの!?」
「ほえっ、あの人ですか!?
今あの人は抱えている『キズ』を媒介に、悪い魔法をかけられているのです!」
キズ……!?
春生さん、どこかケガしてるの?
でもどこかに包帯とか巻かれてないし、苦しいような素振りなんて、全く見せてないよね……?
でも今の春生さん、まるで……
傷ついたみたいに苦しそう……!
「あれ、ほっといちゃダメだよね!? 何もしなかったらどうなっちゃうの!?」
「どうなるってそりゃあ!
魔法地底界に引きずり込んで、モンスターにさせちゃうのですよっ!」
「もっ……!」
どうして罪のない春生さんを!?
「どうにかして助けられないの!?」
「助けられなくはないです、けど……」
「けど、なに!? 早くなんとかして!!」
「あなた……この春生さんって人が、大事なのですねっ」
「だって大好きなんだもんっ! ねえ、春生さんがモンスターになったら……わたし……頑張る意味、なくなっちゃうよ……
今はムリかもしれないけど……わたしには、春生さんの隣を歩くために、今こうして頑張ってるの……!」
ズルズルと、動かない足を引きずって天使の元までたどり着く。
春生さんの周りが、どんどん闇色に包まれていく。
痛みに耐えられないようなうめき声、叫び声を上げているのをただ見るだけでも……私も同じような気持ちになる。
きっと……自分の痛みよりも、痛いよ、この胸の苦しみ。
「助ける方法は一つ……人間に魔法天界の力を授けて、あの包帯スーツ男・マミル3世を倒すことです。倒すことであの悪の魔法が解けるのですっ」
「魔法天界?」
「皆さんが一般的に知られている天国のことですっ。魔法の力でしか、アイツを倒すことはできないのですっ!」
……つまり、魔法使いになるってこと……?
テレビで見た魔法使いは、まず五体満足が前提だ。
だから、いつも病院で見てたわたしには、魔法使いになることはまずムリ、だと思ってた。
地に足ついて、ハッキリ使える五感を駆使して、悪をくじく。
……世の中だってそうだ。五体満足が絶対条件の仕事がほとんどだ。
看護師、お医者さん、警察官、消防士……ステキだと思った職業は、すべて夢に終わった。
わたしは手先が器用なことが取り柄でも……歩けるのと歩けないのとでは、可能性の幅が違う。
だから、魔法使いになるとしたら、わたしはまず除外される。
「じゃあ、だれかが魔法使いになれば……」
「なに言ってるのですかっ」
「え?」
「だれか、って、自分は考えないのですかっ? 春生さんが大事なら、自分が助けなきゃって、思わないのですかっ?」
「でも、わたしがなったところで」
「でもって、自分にはなれないって諦めるのですか?
わたしには……あなたが、一番に自分がこの人を助けたいと思っているように見えるのですっ。どうしてですか?」
……それは……
わたしは、春生さんのことが、す……好きだから……
でも……五体のうち、二体……両足が、動かないから……自分には魔法使いなんて、なれないって……
勝手に、諦めてた…………
こんな自分でも、魔法使いになれる?
立てなくても、春生さんを救える?
……ううん。可能性は尋ねるものじゃない。
自分で、上げるっきゃないんだ! わたしが春生さんの隣を歩きたいと、願うように!
神さまはいないんじゃない。いる……そして、今、わたしにチャンスを与えたんだ!
「助けたい……わたしが、春生さんを、助けたい!!」
「でしたらわたしの力を受け取ってください! 大丈夫です、わたしも全力でサポートしますっ!
人間の持つ魔法の力こそ、あの包帯スーツ男にかなうのですっ!」
天使がわたしの周りをぐるぐると飛ぶ。その子から、キラキラした砂のようなものが降りかかる。
力が、あふれてくる……これが、魔法の力!
「申し遅れたのですっ、わたしはキュッピー! 魔法天界から来た天使見習いなのですっ」
「わたしは野堀小昼! わたし、生まれてからずっと立てたことがない、けど……それでも春生さんを助けたい!」
「でしたら付加魔法をつけてあげるのですっ、さあ、自由に飛ぶのですっ!
この腕輪に向かって、『シャイナブル・シャイニエル・エンジェリング!』と呪文を唱えてください!」
わたしの左腕に、天使の輪のような光の輪が巻かれる。
これに向かって唱えるのね……よし!
「シャイナブル・シャイニエル・エンジェリング!!」
お気に入りのネコのパジャマが真っ白に強い光を放つ。
上から引っ張られたような感じがして、それに従うと、自然と目線が上がった。
右手に、白とオレンジを基調としたステッキが握られる。持ち手が輪っかみたいになってて、まるでフェンシングの剣のよう。
髪も三つ編みがほどかれ、倍以上に伸びる。ぐるっぐるに巻かれ、ふわふわになびく。頭頂部にはネコ耳のように髪型がアレンジされる。
強く光ったパジャマはオレンジのロリータファッションのように変わり、パニエが揺れる。背中にはオレンジと赤の羽根を散らす翼、そして真っ赤なしっぽが生える。
これが、魔法少女に変身したわたし……!
「マジカルエンジェル・シャイニエル!」
ふと、手すりを掴まなくても立てていることに気付く。けれど、床に足がついた感じはしない。
「それが付加魔法ですっ、今のシャイニエルにはガラスの靴を履かせてますっ、それがある間は空中に浮くことができるのですっ!」
ほんとだ、足にガラスの靴がある。ヒールじゃなくてニーハイブーツくらいの長さ。足の裏は床から数センチ離れてる。
自分の意思で足を動かそうとするけど、いつも通り神経が通っておらず動かない。
なんだ、立てるわけじゃないのか……
でも、目線を真っ直ぐに上げれば、これが、『ふつうの人』の目線なんだって思える。まだ春生さんには及ばないだろうけど、天井に近く、床から遠いその視界は、いつもより広く感じる。
わずかに浮いてるってだけでも……足が真っ直ぐ伸びてる。
これが、『立つ』って感覚……!
きっと魔法が解けたらまた立てなくなるかもしれないけど、初めての感覚が嬉しくて感動しちゃった!
それにこのステッキが、魔法を出すアイテムなんだ。試しにくるん、と振ってみる。ふわ、とそよ風がこちらに吹いた。
この魔法があれば春生さんを助けられる……アイツを倒すことで、助けられる!
けど、さっきいた場所に、春生さんがいない。黒い雲の跡がわずかに残っている。それを目で追うと……包帯スーツ男ことマミル3世のそばまで連れてかれてる!
体が包帯で拘束されて抵抗すらさせてくれない。
「春生さんっ!!」
「どうやらその辺りにいた人間を魔法少女にしたようだが……もう遅い。この男を魔法地底界人にする手立てはもうできている」
「ぐあああっ!」
「春生さんっ!」
包帯スーツ男が春生さんに手をかざすと、もだえてひどく苦しむ。こ、このままじゃモンスターになっちゃう!
とにかく急いで助けなきゃ! そうはさせないんだから!!
割れた窓ガラスを突き抜けてフルスピードでフライハイ。ホントだ、自由に飛べる! ただ、足は全く動かせなくて、本当にガラスの靴がジェットのような感じ。
足が機械になったような靴に異様な力を感じる。それゆえか重さがそれと比例してるように思える。
なのに体がすごく軽々と感じる! 空が飛べるからかな……!
わたしを追いかけて近くまで飛んだキュッピー。ビシリ、とマミル3世を指差してはこうさけんだ。
「大人しく降参しなさい、でないとこの子のステッキが火を噴くのですっ!」
まだ使い方覚えてないよ!?
「ねえ、どうすれば魔法出せるの!?」
「そうですね……まずはいきなりドカーンと大嵐を巻き起こすイメージをするのです!」
いきなりド派手でムリな注文!! そんなのどうしろと……!?
うーん……あの包帯を倒すくらいの……大嵐……
あれ、それを出す呪文が頭に浮かんでくる……まるで元から、知ってたみたい……!
春生さんを返さなかったら……今の春生さん以上に痛い目見るよ! という、わたしの怒りが直結するような……
「シャイニエル・ストーミング!!」
ステッキから、両手で構えないとこっちも飛ばされてしまいそうな大嵐が飛び出した。ちゃんと腕を鍛えててよかった、しっかりコントロールできそうだ。
しかし敵は春生さんを抱えながら素早く嵐から逃げる。もーっしつこい!
でも、あることに気付いてしまった。敵に嵐をぶつけるってことは、春生さんも巻き込んでしまうってことなんじゃ……?
そ、そんなの、わたしの望んだ助け方じゃない。春生さんを無傷で救わなきゃ、魔法少女失格だよっ……!
「コイツがいるようじゃ全力を出せないようだな」
包帯男が人差し指をこちらに向ける。すると、スーツの隙間から包帯が現れ、わたしの手足へと伸びた。
「わっ!?」
「これで貴様も動けまい」
「シャイニエル!」
「この病院にいる全員を、魔法地底界人に仕立て上げるのもまた一興か……」
なにを言ってるの……! この人、人の心がないの!?
そんなの許せないっ、この病院は、春生さんの他にも……!
勉強のこと、それ以外のことを教えてくれる、真っ白な病院でも世界は色鮮やかだって教えてくれる、たくさんの人がいるの!!
そんな人をモンスターにさせない!!
それにこんなことされたって、こっちは元々、『足だけ』は動かないから!
こんなの、苦じゃない!!
「シャイニエル・ヒール!」
ステッキから小さな太陽のような球体が現れる。触っただけでヤケドしそうなそれはメラメラと包帯を焼き尽くす。そして一瞬で、わたしは動ける状態になった。
縛られたくらいで諦めるような腐った根性、わたしは持ってないんだからっ!
そんで、生きることに希望を持ってる人たち、その人を助けようとしてる人たちのジャマをしようって言うのなら、例え体全部動かなくなっても……!!
全力で、食い止めてやる!!
次はどうにかして春生さんを取り返すのを先にしたほうがいいよね……よし、この呪文だ!
「エンジェリック・スティール!」
ステッキが釣竿のように先端がしなる。釣り糸は見えないけど、確かに春生さんをとらえたような感じがする。
昔、お父さんに連れられて魚釣りをしたことがある。その感覚を思い出して、ステッキを頭の横まで引っ張った。
「くっ……この力は!」
「春生さんを返して!!」
「……確かに、人間に魔法の力を与えると、強大にはなるらしい……だが、人間の潜在能力のおかげ、だけではないようだな……」
「そうなのですっ、この子には『人を想うパワー』があるのですっ!
歩けないから魔法少女にはなれないなんてナンセンスなのですっ、不可能を可能にするのが魔法少女! そしてそれは、恋する女の子にも同じことが言えるのですっ!」
恋する、女の子……
わたしにも、可能性があるのは、春生さんがいるから……
だったら、その可能性をゼロにしたら、わたしは今度こそ夢がかなわなくなるっ……
春生さんの隣を歩くって夢、きっと今なら、かなえられるって思える! 恋する女の子に、魔法少女に、希望があるから!
「春生さんんんんん!!」
ステッキの横を、釣竿のリールを巻くように回す。もちろんリールはついてない。
もどれ、もどれ。春生さんを、こちらに。
「ぐぬぬ……しつこい奴め!」
意識を失ってるのか、何もしゃべらない春生さん。よくも春生さんをこんな目に!
「許さないんだからああああ!!」
ブチッ、と春生さんを縛る包帯が切れた。やった、取り返せた!
飛んでくる春生さんを左腕でキャッチする。まだ黒い雲は残ってるけど、ケガはどこにもない。よかった……
「わたしが安全な場所に運ぶのですっ」
「お願い、キュッピー」
キュッピーがわたしの付加魔法のように彼を浮かせる魔法をかけ、リハビリルームへと送り届けた。
……さて。これで全力を出せる……!
「春生さんを怪物にしようとした罪、わたしは天使になっても、許さないっ!
償いなさいっ、強欲の大罪を!
シャイニエル……ケイオスビッグバン!!」
「えっ、いきなり大技出すのですかっ!?」
ステッキの真上、わたしの頭上から、本物の太陽のような熱を帯びた球体が生まれる。体積はまだまだ増え続ける。
春生さんを好きな気持ち、大好きな春生さんを傷つけた怒り、この病院に手出ししようとしたことへの怒り……全て、全て! これに巻き込んで!!
思い知りなさいっ!!
「これはッ……!!」
包帯男がスーツの隙間から包帯を出したけど、それさえも焼き尽くす。
やがて球体に押しつぶされた包帯男は叫ぶ間もなく……ビッグバンに巻き込まれた。
「……恋する女の子の気持ちは、無限大のパワーを持ってるのですっ……」
驚きを隠せなかったキュッピーが、窓から顔をのぞかせて、わなわなと震えていた。
って……
病院の中庭……焼け野原になってる……!
え、えーっと……!
「エンジェリック・リワインド!」
と、頭に浮かんだ呪文を唱えると、中庭は元通りに戻り、春生さんの体も黒い雲が取れた。
なんでもできるね、魔法って……!
「……ん……」
「春生さん、春生さん!?」
「……小昼、ちゃん……?」
「よかった、大丈夫ですか!?」
「ここは……リハビリ室?
そういやさっき、何か発作が起きたような気が……」
「なにか病気になったのかもしれません、ここは病院ですから見てもらったほうがいいですよっ」
「……いや、平気かな。なんだか、天使みたいな人が助けてくれたみたいで」
もしかして、それって……わたし!?
こうして春生さんに膝枕されてることもだけど、助けられたと思われて……
もしかしてこれって、恋のチャンスに一歩近づいた!?
「小昼さん……浮かれてるところ悪いのですがっ」
「なによ、キュッピー」
「そこに何かいるのかい?」
えっ、キュッピーが見えないの、春生さん?
「どうやらわたしは、小さい子にしか見えないらしいのですっ。
それにもし春生さんがシャイニエルの正体があなただと知ったら、彼をまた危険に巻き込んでしまう可能性があるのですっ。嬉しい気持ちは分かるのですがっ、ここは口をかたくするのですっ」
え~、そんなぁ……
……でも、春生さんをまたあんな目にはあわせたくないし……
わかった、わたしがシャイニエルであることは誰にも言わないようにするっ!
春生さんにバレないように、キュッピーに向かってこくりと小さくうなずく。
「きっと悪い夢でも見てたんです、今日はこのまま休んでください!」
「えっ、でも小昼ちゃんの膝を借りるなんて悪いよ」
「全然平気です、重さなんて全く感じませんから! 他にも人はいませんし!」
少し強めに春生さんをおさえつけ、ムリにでも休ませる。ふふっ、いつも忙しい春生さんも休めて、そしてそんな寝顔を独り占めできて、わたしも春生さんもシアワセ……☆
「さあ、休んでください春生さん♪」
「うーん……小昼ちゃんが言うなら、人が来るまで休もうかな……」
「はい、おやすみなさい♪」
ちょっと、キュッピー、ドン引きしないでよ! せっかく人を助けられたのに!
まあ今はラッキーが起きてこうなったワケだけど……今度は、ラッキー無しでも膝枕とかされたり、したいな……!
大丈夫、きっとわたしが立てる頃には、春生さんだってわたしのことをひとりの女の子として見てくれる!
だから、明日もリハビリ頑張りますね、春生さん!
次回予告!
うそっ、マミル3世が復活してる!? 彼は不死の体を持っていた!
そんな彼がターゲットにしたのは、同じ車椅子のお兄さん!
そんな時に現れたのは……二人目の魔法少女!?
次回!『くるくるっ! シャイニエル』第2話!
『すたすたっ! ムーンライトニング』
なに、あのスピード……! 次回もくるくるっ!
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