頑張るよ

「そういえばその子は……パーティーの子じゃないんですか?」



 そう疑問を口にするソフィアさんの視線の先にいたのは、リードくんだった。リードくんは突然声をかけられ一瞬ピクリと体を震わせた。



「え、あ、俺は……」


「こいつはリードって言うんだ。訳あって、一時的に預かってる」


「預かってるっていうと、他のパーティーに?」


「いや…………」



 アリアさんが、リードくんに視線を向ける。『話してもいいか?』と、尋ねているようだった。

 それを、リードくんも感じ取ったのか、小さくうなずく。僕はうなだれるリードくんの隣にたち、そっと肩を寄せた。



「……リードはな、ちょっと前に捨てられたんだ。両親に。で、たまたま私たちと会った。そのまま成り行きで一緒にいるんだ」


「そうなんですか……。これからは、アリアさんたちのパーティーに?」


「いや……我らは、ここを出たらある場所に向かわなくてはいけない。そこに、こやつを連れていくわけにはいかない」


「だから、居場所探しも含めて、ここに」


「…………ソフィア」



 ソフィアさんとヒルさんは少しなにかをこそこそと話したのちに、優しく微笑んだ。そして、スッと視線をあげ、ヒルさんが言う。



「彼……僕らが引き取りますよ」


「……え」


「皆さんがどこに行こうとしてるかは分かりませんけど、きっと、それが危険だからリードくんを置いていこうとしてるんですよね?」


「まぁ、そうだな」


「……安全ではない、ですよね」


「皆さんが優しいのは、私たちがよく分かってるんで、そのパーティーと行動している彼が、悪い子な訳ないですもんね」



 ソフィアさんはにこりと微笑み、リードくんの前にしゃがみこむ。

 ……僕らとしても、ソフィアさんとヒルさんに引き取ってもらえるのなら安心だし、とてもありがたい。この二人が優しいことも、何となく分かった。……声を聞かずとも。



「……どうする、ウタ?」


「僕はお願いしたいです。リードくんも、二人に預けるなら安心だし。リードくんが良ければ」


「……俺…………」



 ……リードくんは、どこか不安げだった。当たり前かもしれない。だって、信頼していた両親に『捨てられる』という裏切りを受けたのだ。不安になるのは仕方ないことだろう。



「……僕たち、君と一緒に冒険者、やりたいんだ」


「……俺、でも、何にも出来ないし……足手まといになる。だから」


「そんなことないよ」


「だって……!」



 そこで、言葉が詰まる。それが事実であり受け入れていたとしても、『捨てられた』と自ら口にするのは抵抗があるだろう。……当たり前のことだ。

 それを感じ取ったのか、ヒルさんはリードくんの頭にそっと手をのせる。



「じゃあそうだな……ここのボス、倒せたら、僕らと一緒に来てよ。それならいいでしょ?」


「でも俺……勝てねぇよ」


「勝てるよ」



 過去に働きかけてくる敵ならば、過去を乗り越えているはずのリードくんに倒せないはずがない。ヒルさんは、きっとそう思ったのだ。実際僕もそう思う。あの恐怖を乗り越えて、ポロンくんと炎の龍を産み出せるほどに強い彼のことだ。きっと大丈夫。

 ……大丈夫じゃないのは、僕の方だ。



「……大丈夫だよ、リードくん。僕らも一緒に行くから」


「…………」


「……それとも、僕らが嫌、なのかな」


「違うっ! そうじゃなくて…………」


「じゃあ、私たちと来てくれないかな?」


「…………」



 それでもまだ考え込み答えを返せないリードくんを見かねて、フローラがその手を伸ばした。



「……ねぇ」



 そして、その手でリードくんの手を握る。酷く優しく、そっと。



「……リードなら、大丈夫だよ」


「……フローラ、でも、俺……」


「ここから逃げないで、ちゃんと勝って、出て、もっと強くなって、私たちに会いに来てよ。また声かけてくれたら……ちょっと、嬉しいから」


「…………」



 その様子を見ていたポロンくんがそっと僕の隣に来て、服の裾を握りしめた。……その横顔は、ちょっとだけ大人だった。



「…………」



 僕は黙って、その頭を撫でた。かぁっと、ポロンくんの顔が赤くなるのが分かった。



「…………気づいてたのかよ、ウタ兄」


「なんとなーく、ね」


「……ずるい」


「ごめん」


「…………」


「……強くなったね、ポロンくんも」


「……おいらだって、ずっとおんなじじゃないんだい。おいらだって、長い時間はかかったけど、ちゃんと成長しているんだい」



 だから、お前とは違う。

 ……そんなこと、ポロンくんは口にしていないけど、僕にはそう聞こえた気がした。

 みんな、僕とは違う。辛い現実から逃げて、目を背け続けてきた僕とは違うんた。何一つ成長していない僕に比べてみんなは……ずっともがいて、ずっと苦しんで、乗り越えてきたんだ。

 僕なんかと……全然違う。僕がリーダーなんかしちゃいけない。



「……そっか、それなら俺、頑張ってみるよ」



 そんな僕のすぐ近くで、また一人、勇気を出して、一歩踏み出した。



「俺! 頑張って魔物倒して、ソフィアとヒルの仲間になる!」

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