ごめんなさい

 次の日の朝、早くから出掛けていったドラくんを僕らは待っていた。一応、ニエルの話の裏付けをとってもらっているのだ。嘘を吐いたりしている様子はなかったが、それでも敵である相手だ。簡単に鵜呑みにするわけにはいかない。



「…………あ」


「ドラくんだ!」



 スラちゃんはその姿を確認するとたっと駆け出して、外でドラくんを迎える。ドラくんは地面の近くまで来ると体に翼だけを残し、ゆっくりと降りてきた。そして地面にたどり着くと同時に翼を消し、にこりと微笑んだ。



「今戻った。遅くなった」


「おかえりドラくん!」


「ただいま」


「おかえり。……で、どうだった?」


「ニエルの言っていたことは間違いないようだ。となると……」



 僕はその言葉にうなずく。



「急がなきゃいけないね」



 僕はそういうと、アリアさんたちに視線を向ける。悪いけど、リードくんはお留守番だ。パーティーメンバーじゃないし、さすがに連れていくことはできない。

 仕方がない。危険な目に遭わせるわけにもいかない。



「悪いけど、待っててね」


「うん。……なぁ」


「ん?」


「俺……なんだかんだで一緒にいるけどさ、いいの?」



 僕はちょっと困ってしまって、アリアさんに目を向ける。すると、アリアさんがふっと微笑み、リードくんの頭をくしゃくしゃと撫でる。



「いいに決まってるだろ? でも、ずっとは無理だな。私たちはずっとここにはいないし、A級になり次第海をわたる予定だ。それまでは一緒にいてもいいが、それまでに、ここ以外の居場所を見つけるんだ。いいな?」


「……うん!」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「今度はなんの用だ?」



 僕らは再び、城にやって来ていた。それはもちろん、彼に会うためだった。国王は冷たい目で僕らを見下ろす。僕はそれを気にせず、言葉を発する。



「国王陛下、お聞きしたいことがあります」


「なんだ?」


「女王陛下と姫君は、一体どちらに?」



 ……そう、僕らが懸念していたのは、国王自身のことではない。国王に関しては、その『力』から見て、もはやいい住み処とされている。とすれば、その住み処を自ら壊しにいくことはない。たいした心配はしなくていいはずだ。

 僕らが心配していたのは、存在しているはずなのに姿が一切見えない『女王』と『姫』のことだ。兵士に訊ねてみたが、『私用でしばらく留守にする』と国王から伝えられているとのことだった。


 本当に私用ならば、この考えは杞憂に過ぎないのだが……。



「あいつらは私用で留守にしている。そう兵士たちに伝えているはずだが?」



 僕は……そっと、『声』に耳を傾けた。



『――もうじき一週間になる。大丈夫なのだろうか』


「…………」



 僕は小さく床を叩いた。『女王たちが危険かもしれない』その合図だ。



「……私用で留守にしてらっしゃるんですよね? その私用とはなんですか?」


「私用は私用だ。お前に教える義務はない」


『私用だ……? 違う、二人はずっと地下に閉じ込められている。食事もろくにとっていないはずだ。アイテムポックスの中のものもそろそろ尽きる頃だ……なんとかしないと』


「地下?」



 僕がそう呟くと、国王はピクリと体を震わせた。そして、じっとこちらに視線を向ける。



「……地下?」


「…………地下があるんですか、このお城は」


「地下なんてない」


『ある。この玉座の裏に扉がある。その先が地下に続く階段だ。その中の牢に二人は……』


「……そこの鍵、どこにありますか?」


「は? 何を言ってるんだお前は」


『牢の鍵か……? お前、この声が聞こえているのか?』


「いいから教えてください! 一刻を争うんです! 人の命がかかってるんです!」


「えぇい、なんださっきから! こいつらを引っ捕らえてしまえ!」


『鍵は牢の前の壁に埋め込まれている。見れば分かる。取り出すには「ラミット」と詠唱すれば良い。……頼んだぞ』



 僕は叫ぶ。この際、マナーや礼儀のあれやこれを気にしてなんていられない。



「玉座の裏に扉があります! そこから地下に繋がってて、そこの牢屋に女王陛下と姫君がいらっしゃるはずです! 鍵はそこの壁に埋め込まれていて、取り出すための呪文はラミット!」


「お前、なぜそれを……!」


「スラちゃんとドラくんは僕と一緒に! アリアさんたちはサポートしてください!」


「了解!」


「……行きます!」



 僕は剣を片手に国王の方へと駆け抜けた。国王は僕の足を止めようと片手をつき出す。



「アイスランス!」


「バーニング」



 その氷は、容易くドラくんが溶かした。そしてその影に隠れていたスラちゃんが道を作る。



「ウタ! こっち! 扉あったよ!」


「ありがとう!」


「行かせるか!」


「――リヴィー!」



 そんな国王に蔦が絡む。と同時に、どこか凛とした声が降ってくる。



「私たちが、ここはとおせんぼします!」


「ウタ、しっかりな!」



 そして僕は地下へと駆け抜ける。狭い階段を抜け、開けた場所に出れば、はっとした。そこには、ぐったりとした様子で座り込む二人の女性がいた。

 僕はその向かいの壁を見る。……確かに、銀色の鍵が埋め込まれている。僕はそれに手をかざし、呪文を唱える。



「ラミット」



 手の中に鍵が収まる感覚。それを確かに握りしめ、僕は牢屋の鍵を開いた。その音に気がついたのか、女王陛下とみられる女性がうっすらと目を開けた。そして、もう一人を守るように抱き締めた。



「……大丈夫、僕らは助けに来たんです」


「……あなたは?」


「僕は、Unfinishedのリーダー。柳原羽汰です。遅くなってごめんなさい、女王陛下」

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